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「……どうやら、全部倒せた……のか?」
傭兵のリーダーが荒い息をしながら辺りを見渡した。
俺はゆっくりと近付き、声を掛ける。
「まだだぜ」
「なに!?」
俺の指差す先に一人の傭兵が立っている。
かくかくとした妙な動きでヤツは近寄ってきた。手には剣が握られている。
最初に襲われた立哨だ。
「……首をはねな、ラルヴァが出てきたら『目玉』を潰せ」
俺の言葉を忠実にリーダーは実行した。首が胴体から離れると、糸の切れた人形の様に倒れる。
立哨の口が開いて透明なラルヴァがふるふると顔を出す。
リーダーの剣が『目玉』を貫く。簡単なものだ。
「それがラルヴァの弱点だ。逆にあの『目玉』が潰れていないヤツは死んでないからな?」
俺はそう言って元の場所に戻る。その俺にリーダーの声が掛かる。
「おい、手伝ってくれないのか!?」
「……コレでか?」
両手を振って手枷の鎖を鳴らしてみせた。
「くっ……おい、あいつの枷を外してやれ!」
「馬鹿云うんじゃねぇ!逃げられたらどうすんだ。賞金がおじゃんじゃねぇか!それとも何か?お前や雇い主の旦那が補償すんのかよ!?」
賞金稼ぎの頭目、いや、どうやらデンだけでなく残りの一人もやられたらしいから頭目とはもう呼べないが、奴が噛み付いた。
「ヤザンとか謂ったな?賞金稼ぎ。周りを見てみろ」
リーダーが賞金稼ぎに周囲の様子を示した。
……だいぶ減ったな?
商人の部下である使用人はあらかた殺られている。あの年輩の使用人だけか、残ったのは。
その年輩の使用人は主のラスと共に呆然としている。
同じく御嬢様の召使いも……生き残ったのは一人しかいない。侍女というやつか。
御嬢様はへたり込んでいた。青い顔をしてるのは……召使いの犠牲を悲しんでいるんじゃなく、悲鳴の挙げ過ぎ。息が上がっているからだな。
冒険者どもは逃げたか。
傭兵達はリーダーを含めて四人。えらく減ったものだ。
そしてあの司祭見習の娘。運がいい。
「早く始末しないとまたラルヴァが襲ってくるぜ?」
騒ぎ立てるヤザンと傭兵のリーダーに声を掛け、柱の残骸に腰を下ろす。
あの司祭見習がやってきた。
「大丈夫でしたか?……あ」
娘は足許に転がるデンの死体を見て小さく声を挙げた。
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