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事が起こればあっという間。
まず、立哨をしていた傭兵の一人が餌食になった。
「ぐ……!?」
声をあげる前に口が塞がれる。
天井から降ってきたラルヴァが、ソイツの顔にへばり付く。
ソイツはたたらを踏みながら、ラルヴァを引き剥がそうとして……すぐに両手の力が抜けた。
棒立ちになる。
ラルヴァが触手を鼻の穴に突っ込んで脳を掻き回したんだろう。
透明なラルヴァは暗がりでは余計に目立たない。脳を喰われ身体を乗っ取られたソイツがゆらゆらと揺れる。
ラルヴァが手に入れた身体を試しているのだ。
続けざまに立哨の頭を狙ってラルヴァがぼとぼと落ちてくる。
「ぅ?……うわああぁぁ!?」
一人が運良く直撃を免れた。悲鳴が響く。
……何もラルヴァは傭兵達が強そうだからと狙った訳じゃない。
立哨の為に焚き火から離れ、間隔を空けて立っていたからだ。俺にこないのは先に一匹倒したのと、目の前にデンがいたから。
「な?なんだ?」
「お、おいあれ!」
「キャアアアアァ!」
焚き火の周りにいた連中が騒ぎ出す。
それと同時にラルヴァどもが一斉に落ちてきた。
「ぅ?うわ!?なんだ!?なんなんだアレ!?」
突然の出来事にデンの意識が俺から完全に離れる。
その瞬間、俺の身体は弾かれた様に動いた。
背後から飛び掛かった俺の両手がデンの頭を掴む。
頭頂と顎を押さえ。
一気に捻る。
デンは変な方向に首が向いて倒れた。
「ぎゃあああ!」
「た、助けて……」
「ぅおおおおお!」
「じょ!冗談じゃねぇ!逃げるぞ!」
「あ!馬鹿逃げるな!」
「円陣!円陣を組め!雇い主を護れ!」
焚き火の周りは大混乱、といったところか……
……俺に注意を向ける余裕は無さそうだ。
倒れたデンの懐を漁る。
程無くして枷の鍵を見付けた。手枷の鍵穴に差し込む。
一度外れるのを確かめた後、俺は手枷をはめ直し、手枷と手首の隙間に鍵を押し込んで隠す。
まだ早い。
デンの首の向きを直してやった後、俺はさっき殺したラルヴァの死骸を拾った。
デンの顔に落とす。
そうして手を軽くはたくと、また腰を下ろして焚き火の方から聴こえてくる『即興曲』を鑑賞する事にした。
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