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飯を済ませると司祭見習の娘は器を片付けに行った。
天井の所々で雨水が結構な勢いで落ちてくる。床に傾斜があるらしく、扉の方へと流れていく。
使用人と司祭見習が器を集め、その雨水で洗う。
「この嵐……明け方まで続きそうだな」
「この寺院があっただけマシだ、野宿だったら……」
そんな会話が俺の耳に届く。
腹がふくれ誰もがのんびりとしていた時。
…………チチチッ…
俺の座る柱の残骸、その陰から微かに音がした。
ゆっくりと首を巡らす。
滑る様な質感の透明なものがそこで蠢いていた。
こちらが気付いた事を察知したのか、身を縮め今にも飛び掛かろうと俺の隙を窺っている。
俺はソイツから目を離さず、腰帯に隠していたタイルの破片を掴む。
ソイツは透明な革袋の様で、中に握り拳ほどの『目玉』が一つ浮かんでいた。
俺は右手にタイル片を隠し、左手をゆらゆらと振ってソイツの視線を誘導する。
……
…………ドスッ!
ヤツの注意が左手に集中したのを見計らい、タイル片を突き立てた。
タイル片が『目玉』を貫通する。
ソレはふるふると震えると、やがて動きを止めた。
タイル片を突き立てたまま、俺は起き上がり元の様に座った。
「おい、何やってる?妙な動きをするんじゃねぇよ!」
賞金稼ぎの一人が怒鳴る。
「悪いな……虫だ、目障りだったんでな」
「……チッ」
嘘はついていない、虫みたいなものだ。一匹なら。
俺は視線だけで死骸を見た。
ラルヴァ。
戦場跡などによくいる魔物だ。
女神達とは別のところに居る悪神が遣わしただとか、人の怨念が凝り固まって産まれるものだとか色々謂われているらしいが、本当のところは解らない。
判っているのはコイツらは人の脳を喰う。生者でも死者でも関係なく。
脳を喰って身体を操る。次の獲物を狩る為に。
厭な魔物だが、一匹なら大したものじゃない。殺すのは簡単だ。
…………一匹?
俺は周囲の暗がりに目を凝らす。
「……先の戦で廃村になったんだったか?」
この寺院は通り過ぎた集落の為に建てられたものの筈だ。
あの集落、戦のせいで潰れたんなら弔う者が居ない。
戦神アーシェラは戦士の魂を連れていく。が、巻き込まれた奴に関しては知らん顔だ。
一方死神ライラは『よく生きた』者の魂を運ぶ。
あの集落で起きた様な事だと、どちらも不干渉か……
……となると
ラルヴァが一匹の訳が無いな。
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