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崩れて横倒しになった石の柱に腰を下ろしていた俺は、足許に目を向けた。
柱が倒れた際に割れたらしい、装飾用の床タイルがいくつも散らばっている。
賞金稼ぎどもは俺に背を向けて焚き火にあたっていた。
割れて尖ったタイルをいくつか拾う。
寺院の外は本格的に嵐となっていた。打ちつける雨音は激しさを増し、風は塞がれた扉を揺らす。雷鳴が近くに響く。
少々音をたてても聴きとれない。
拾ったタイルを腰掛けている柱にあてて擦る。
ゆっくりと擦ってもタイルは少しずつ削れて鋭さを増した。
手枷足枷の他は腰布のみの格好だ、タイルを腰帯に巻き込む様にして仕舞う。
二つほど出来上がったところであの娘が戻って来た。両手に器を二つ、シチューらしい。
「晩ごはん持ってきましたよ」
ありがたい。賞金稼ぎどもが持ってくると涎だの痰だの混ぜられるからな。いい気分じゃない。
「ちょっと待ってて下さいね、パンを貰ってきます」
俺に器を預けると娘はまた戻る。なにやら他の客と言い合いをした後、パンを持って戻ってきた。
「文句を云われただろう?」
「……心が狭い、って批判しちゃいけないんですけどね。司祭見習としては貴方にも平等に接したいだけなんですが」
「さっきも云っただろう、あまり俺に関わらない方がいい」
「いえ、私には罪を犯した貴方もあちらの方達も同じです、司祭たる者人によって扱いを変える事は出来ません」
……建前としては悪くない。が、本気なら頭に問題がありそうな台詞だ。
「さ、ご一緒させて下さいね?いただきます」
娘が食べ始めたのを見て、俺も口をつけた。
……この娘を邪魔者と考えるか、それとも機会と捉えるか。
時の女神モーナは俺に幸運をくれたのか、それとも破滅か?
俺はそんな事を考えながらパンをちぎり、焚き火の様子を窺う。
若い商人ラスはこの嵐に頭を抱えている様だった。荷物は防水布で覆っているが、雨漏りはひどい。幾つかの品は駄目になりそうだ。
傭兵達は規律よく交替で立哨をしている。が、やはり冒険者どもはやる気が無い。
ラスの使用人達、多分ラスの父親に仕えていたのだろう、こういう嵐での損失は割り切って考えているらしい。
賞金稼ぎ三人は一度こちらを気にした様だが、すぐ飯に注意が向いた。手枷足枷にこの嵐だ、俺が逃げるとは思っていないのが解る。
乗り合い客は司祭見習の娘を含めて五人、娘以外はどうも金持ちの御嬢様とその召使いの様だ。なにくれとなく世話をしているのが見える。
さて……
……どうするかな。
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