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「酷ぇ降りだ!風邪ひいちまう」
馬車の世話をしに行っていた賞金稼ぎの一人が戻ってきた。同じく商人の使用人も何人か続く。
「幌の防水布がもちません」
使用人達は代わる代わる外へ出ては売り物を運び込む。
……蟻の行列だ。
「悪いなお前達」
「いえ……ああラス様はここに居て下さい、私どもの仕事です」
商人が一緒に荷物を運ぼうとして年輩の使用人に嗜められた。
「……あのラスって方は今回初めて隊商を率いる事になったそうです」
いつの間にか俺の隣に座った娘がそんな事を話した。
「不用心だな、俺にそんな話をするのは」
「あ……済みません、気が紛れるかと思って」
悪びれもせずに娘は笑った。
世間を知らないのかもしれない。
寺院は天井が高く、あちこちから雨漏りをしている。
「荷を濡らさない様に」
年輩の使用人が手慣れた調子で采配をふる。
この寺院は地母神を祀ったものらしい。
正面に地母神ダーラの像、その左右の壁に小振りな三姉妹の姫神の像が埃をかぶって並んでいた。
三姉妹はダーラの娘だが、母とは違い農村ではありがたがられない類いの女神だ。しかしダーラだけが祀られる事は少ない。
白い神像は次女『暁の女神アーシェラ』
紅い神像は三女『時の女神モーナ』
そして黒い神像。
長女『夜の女神ライラ』
何故ありがたがられないか?
アーシェラは規律正しい陽光の神だが戦神でもある。
悪戯好きなモーナは運命を司り博打と盗みに寛容。
……ライラは死神だ。
なんとも不肖の姫神達、農村で好かれる要素が無い。
それでもダーラは娘達を可愛がっている。だから地母神の加護が欲しい村は寺院に三姉妹も祀るのだ。誰も拝まないが。
それでも次女と三女は都市部では人気だ。武による名声を得たい者、一攫千金を狙う者は都市部に集まる。
一番好かれていないのはライラだ。
「……どうしました?」
隣の娘に声を掛けられ、夢想から引き戻される。
「そろそろあっちに戻りな、下手に関わると変な眼で見られる様になる」
俺の言葉に娘は一旦躊躇したが、頭を下げて焚き火の許に戻っていった。
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