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無人となって久しいらしく、寺院の床にはうっすらと埃が溜まっている。
椅子などの残骸がそこらに散らばった室内の空気は空っぽな臭いがした。
隊商の構成員である面々が、それぞれの立場にあわせていくつかに固まっている。
中央のかたまりは隊商の中心と謂っていい。雇い主である商人と使用人、護衛隊のリーダー、乗り合いで王都まで旅をする客達。
使用人が暖をとれるように火を起こし、客達がその周りを占領している。商人は護衛隊のリーダーと地図を読み合わせ、移動ルートを確認中だ。
……商人が若い。或いは父親からルートを譲り受けたのかもしれない。
少し離れて座るのは『冒険者』などと呼ばれる連中。
商人は護衛傭兵の数を揃えられなかったらしい。代わりに連中を雇った様だ。
連中はなんでも屋だ。ダンジョンがあればお宝が無いかと盗掘に精を出し、人手が足りないと声が掛かればこうして補充要員になる。
……どちらも無ければ山賊まがいの事もする。
本職の傭兵達が立哨をしているのに対して、冒険者連中は座り込んでお喋りに興じていた。
時折商人と護衛のリーダーがする会話を盗み聴きしているのがみてとれる。
おそらく、次に隊商が組まれたなら、それを襲うのは奴等だ。この商人は人をみる目が無かったらしい。
更に離れて座るのは俺の取り巻き……
……賞金稼ぎの連中。全員で三人だが、一人は馬車の面倒をみに外へ出ていた。
ごうごうと風が唸り、ばたばたと雨が打ちつける。
遠雷が次第に近付いてきた。
「あの…よろしければこれを使って下さい」
声を掛けてきたのは乗り合いの客の一人。
司祭らしい格好をしていたが、まだ若い女だった。
差し出してきたのは乾いたタオル。この娘の私物だろう。これで濡れた身体を拭けという事らしい。
「……コレが邪魔でな、使えないぜ?」
俺は手枷の鎖を鳴らしてみせた。
その気になれば身体を拭く程度は出来る。
が、今は動きが制限されていると見せておかなければならない。
「あ、ごめんなさい」
そう言いながら娘は背中に回るとタオルで俺の身体を拭き始めた。
……随分と人がいい。いや、人がいいから司祭になるのか?
俺はありがたがる素振りをしながら、寺院の構造と人の動きを頭に入れていた。
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