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「そなた、よう解ったのう?」
顕現した女神ライラがベールごしに艶然と微笑む。
その周囲に転がるいくつもの死体とひび割れた寺院の内壁を背景に、死神は立っていた。
「……おかしいとは思った。司祭見習のくせに司祭らしい事をしていなかったからな」
「司祭らしい事?」
「あぁ。神像にも死者にも祈らない司祭はいるかもしれないが、飯の時に祈らない司祭はいないぜ」
「ふむ……この身は祈られる側ゆえ、なるほど祈り方を知らなんだわ。しかし数多いる神々の中から、そなたは何故この身と解ったのかのう?」
ライラは首をひねる。俺が女神に気付いていなければ夢でのやり取りを口にする訳がない、と。
「それなら簡単だ」
「ほう?」
「お前が俺にかまけ過ぎだからさ。その分他の連中をぞんざいに扱っていただろう?神でなくとも情の濃い女は自分の情夫以外ほったらかしにするもんだ」
ベールの奥でライラが瞬きをするのが見えた。
やがて面白そうにくすくすと笑う。
「確かに……確かにのう」
「それで?言いかけていた夜の話は終わりか?」
きっと女神はラルヴァの事を警告するつもりだったに違いない、俺はそう思って訊いた。
「いや……ラルヴァの事では無い、『今宵そなたに逃げる機会が訪れる』と伝えたかったのよ」
ライラの言葉を聞いて口を開いたのは俺では無かった。
他に誰もいないはずの寺院に怒りの声が響く。
「姉様!それは狡いぞ!」
思わず辺りを窺う。
女神ライラは溜め息を一つついた。
「……いつまで死に真似を続けるか?この身の想い人に挨拶するがよいぞ?起きよ」
死んだはずのアーシェラが勢いよく跳ね起きる。
これにはさすがに驚いた。
『アーシェラ』は憮然とした顔で俺達を睨んだ。
「教えるなど!賭けは無効じゃ!」
「いや有効じゃ、伝わっておらなんだし、第一伝わっておったらそなたに有利ではないか?」
何の話だ?賭けだと?
「……済まぬの、そなたが朝日が昇るまでに逃げればアーシェラの勝ちという賭けをしておった」
「このへそ曲がりが逃げるなど!姉様は知っておったな?」
「アーシェラよ、観念してさ迷う魂を連れて行くがよい」
アーシェラ……戦女神アーシェラは白く輝きながら消えていく。
その唇はへの字に曲がっていた。
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