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「俺はこの……商人殿を連れて引き返す」
バースが壊れたラスを立ち上がらせ、肩を掴んで言った。
「護衛は失敗だがな、連れて帰れば親御殿から少しは礼金を貰えるだろうさ」
「そいつ、御嬢様を殺したぜ?」
バースは俺の指摘にサーシャの亡骸を見下ろした。
滅多刺しになった御嬢様は見るも無惨な有り様だ。
「……誰が証言する訳でも無し、コイツが正気に戻らない限り判る話じゃないさ……で?お嬢さんはどうする?俺達と戻るかい?」
バースは俺の背中に向かって声を掛けた。
「いえ、私はする事がありますから」
司祭見習の娘がたたずんでいた。
「そうか……ディック、馬を二頭残してやる。じゃあな」
「俺を捕まえる気は無い様だな?」
「……賞金稼ぎじゃ無いぞ俺は」
そう言ってバースはラスを連れ、寺院の外へ出て行った。
さて……
「……あんた、今までどこに居た?」
そう、ラルヴァに憑かれた村人が寺院に入ってきたあたりから、俺はこの娘を見ていない。
俺達が戦っている最中どこにいた?
「いましたよ?ここに」
何事も無かった様に娘は答える。
「ラスがサーシャ達を殺していた時もか?」
「あれは可哀想でしたね」
娘はまるっきり他人事だ。ラスが自分にも害を及ぼす可能性を考えていなかったのか?
いや……
ラスにもラルヴァにも害を加えられる事は無いからか?
「どうしました?」
「……あんたが言った言葉を思い出していたんだ。途中聞きそびれたからな。今宵俺に?」
「あぁ、それは……」
と言いかけて娘ははっとした。
それまで優しげだった顔から表情が消える。
「……はめよったな?」
小柄な娘の背が少しづつ伸びていく。
それとともに肌が変色していく。黒く、黒く……
……夜の闇が戻る様に、黒い肌の女神がそこにいた。
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