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何かが扉にぶつかる音が響く。
村人だった者達が体当たりを繰り返しているのだ。
その音が響くたび、商人の品物で押さえつけられた扉が揺れる。
俺は手枷の間に挟めている鍵を見た。
今、枷を外すべきか……?
『村人達』が扉を打ち壊し、寺院の中に雪崩れ込んだなら、手足の枷がはまったままというのは恐ろしく不利だ。
しかし……
俺はヤザンの顔を横目で見る。
振り返りラスやサーシャ、メグの様子を窺う。
俺が枷を外す事でこの連中がどう動く?
恐らくヤザンは俺を押さえようとするだろう。奴は俺が枷を外すのを見たら戦力が増えたなどと思うまい。この状況を忘れて俺に掴み掛かるはずだ。
それにラスはまだしもサーシャは大騒ぎするのが確実だ。金切り声をあげるだろう。
その騒ぎで傭兵達の気が散れば大きな隙になる。
「押さえろ!扉を倒させるな!」
バースが叫ぶ。
元々蝶番の外れた扉だ。これが人間の兵隊や山賊ならとっくに外されている。扉を引っ張るだけでいい。
少し考えれば出来る事だが、ラルヴァは考えない。
奴等は憑いた人間の記憶を使う。この寺院、扉は外からみて『押し戸』だったのだろう、だから扉を引こうともしない。
ラルヴァが下級の魔物である証拠だ。
外の連中は絶えず体当たりを続けていた。あれだけ続ければ憑いている肉体は使い物にならなくなるだろう。
必ず俺達を新しい乗り物にする、という意志が無ければあんな真似はしない。
「サ、サーシャ御嬢様……」
「メ、メグ、離れないで」
気丈にもサーシャ御嬢様は剣を掴んで構えていた。
それなりの家格の出なら女でも剣の扱いは一通り覚える機会もあるだろう。
恐怖で震える侍女を後ろへまわして自分が剣をとるのは見上げたものだ。
……もっとも、手にした剣の先は小刻みに揺れている。腰も据わっていない。
商人ラスは立ち上がったものの、相変わらず呆けた様にたたずんでいた。こちらは剣を持とうともしていない。
頼りになる者が誰もいなくなり、バース達の事もサーシャ御嬢様の事も頭から抜けている様だ。
「おい!依頼主!しっかりしろ、剣を持て!」
そばについていたアーシェラが剣を渡そうとするが、明らかに聞こえていない。
ラスの両目は、扉が音を立てるたびに見開かれてていく。だが焚き火の向こう、薄暗い入口の扉を見ている様に感じられなかった。
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