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日ノ出まで……あと二時間というところか。
サーシャ御嬢様と侍女のメグとかいう娘は船を漕ぎ始めていた。
緊張の糸が切れたというやつだ。
商人ラスは女傭兵が無理に寝かせたらしい。
トマス爺さんが死に、全てを失った様に感じているだろうが、人間というのは絶望していても一眠りすると不思議と気分が晴れるものだ。
バース達とヤザンは次の襲撃があるものとして寝ずの番をするつもりだ。
ラス達を護る為というよりは自分達の為だろう。
「本当に襲撃があると思ってますか?」
司祭見習が囁いた。
「可能性はある。操る死体が傷むとラルヴァは『乗り捨て』るが、そうなるまでに時間が掛かるからな」
憑いている身体が傷まない様にラルヴァは死体の世話をする。腐敗が進まない様に気を付けている、という程度だが。
死体にとり憑いていれば間の抜けた奴を襲い易い。生身のままで生きた人間を襲うのは弱い個体だ。
「いつあの集落が全滅したか……死臭が残っていたからには古い話じゃない」
「……それにしちゃあ、遅いんじゃねぇか?」
ヤザンが俺達の会話を耳にして話に割り込んだ。
焦れている。こいつの緊張の糸も切れる頃だろう。
「土砂降りの嵐だったからな。奴等は憑いている身体が傷むのを嫌う。そうそう手に入らないからだ」
奴等にしてみれば新しい身体と美味い脳みそを手に入れるいい機会だ。
おそらく最初の襲撃は傷んだ身体を捨てて来たんだろう。
これからやって来るのは傷みの少ない身体を持つ奴等。死体を傷まない様に保つ事が出来た、賢い奴等だ。
「死体に憑いている奴等にも弱みはある」
「それは何なんだ?」
話を聞いていたバースが俺に訊ねた。
「……朝日だ。奴等は陽の光を浴びると消えてしまう。死体の中に入り込んでいてもな」
身体を得たラルヴァは洞窟や建物などに隠れて昼の光をやり過ごす。
「……朝日が昇るまで持ちこたえればいいという事か」
「そういう事だ」
俺はごろりと横になった。
寝ずの番をしてる奴がいるんだ。少し休ませてもらうさ。
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