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くだらない話をしてしまったが、常々感じていた事だ。
俺の生まれた村にも地母神の寺院はあったさ。
この寺院と同じ様な造りで、ダーラとライラ・アーシェラ・モーナの三姉妹も祀られていたものだ。
両親を始めとして村人達はダーラに日々の糧を感謝し、豊作を祈願して……
……小競り合いの戦に村ごと巻き込まれた。
祈りが足りなかったのか?それとも祈り方が間違っていたのか?
神々の求めに応じていれば、村は焼き討ちにあわなかったのか?
俺の夢に顕れる女神ライラに一度訊いた事がある。
『神々は人に何を求めているのか?』と。
『逆じゃ、愛しい者よ』
神々は求めない。世の摂理を過不足無く履行するのが務めの神々に、人は何を期待しているのか?
そう言って女神ライラはその手に持つ『命の書』を示した。
『愛しい者よ、仮に人が長生きをしたいとこの身に願ったとしても、それを叶える事は出来ぬ。人の寿命は命の書に記されておる』
その言葉を聞いてから、俺はどの神にも祈る事を止めた。
無駄だし迷惑だ。
神々は世界を安定させる為の歯車の様なものなのだ。右回りの歯車に左回りをさせれば面倒な事にしかならない。
「どうしました?」
「別に……」
娘の言葉が俺を現実に引き戻した。
「……あまり神々の事を話してはいけませんよ?」
娘が声をひそめて言う。
「貴方は『女神の想い人』、普通の人達は神の言葉を知りたがります」
「何故俺が『想い人』だと知っている?」
「…………あら、先程賞金稼ぎの方が云いましたよ」
それは俺が夜闇に乗じて『仕事』を上手くこなしているから付いた仇名なだけだ。
きっと夜の女神ライラの加護があるに違いないと噂されたのが始まりだ。
「気を付けよう……」
それでも一理ある。
俺の言葉に下手な期待をされても困るからな。
俺は立ち上がると死体置き場へ歩き、剣をいくつか拾った。
「武器を持っていない奴は使うといい」
扱えなくても振り回すくらいは出来るだろう。
じきに言葉より剣が必要になる。
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