2
「廃村か」
格子の間から覗く景色はあまり見目の良いものでは無かった。
滅びた集落の中を馬車は進んでいた。陽は傾き始めている。
ある家は焼け落ち、またある家は屋根が抜けてへしゃげている。赤く染まる陽の光りに照らされて、道端に冥い影が落ちる。
「厭な景色だぜ……前の戦か?」
俺の馬車に並走していた賞金稼ぎの一人が呟いた。
弔いをする者も無いのだろう。微かに死臭が漂う。
俺は空を仰いだ。
西から差す夕焼けは美しかった。俺の様な男でもある種の感情──感動──を感じる程に。
だが、東から吹く風は重い雲を運んでいる。
微かに遠雷が聴こえた。
じきに嵐になるだろう……
隊商の列はやがて集落を抜け、木々が取り巻く寺院の前で停まった。
この寺院もまた集落と共に滅びている。壁の漆喰が剥げ落ち、扉が外れていた。
空は既に灰色を通り過ぎて黒い。ぽつり、と最初の雨粒が落ちてきた。
「ここで休むそうだ。いいか?」
「解った」
隊商の護衛頭と護送馬車の御者との会話が聴こえた。
陽は沈みかけている。更に冥くなるだろう。
「おい降りな!」
賞金稼ぎの一人が馬車の檻を開けながら俺に顎をしゃくって見せる。
「おいおい、囚人を降ろす気かよ」
傭兵の一人が眉をひそめる。
「仕方無ぇじゃねぇか、死なせたら大損なんだぞ……おら早く降りろ!俺がずぶ濡れになるだろが」
話している間に雨脚は強くなっていく。
俺はゆっくりと馬車から降りた。
「もたもたすんな」
「手枷足枷で急ぐのは無理だな」
「うるせぇ!」
廃寺院の扉をくぐる時、俺は夢を思い出し女神の言葉に思いを馳せた。
(女神は何を……)
夢の中の途切れた言葉は、何を伝えたかったのか……?
────────