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「あ…あ……ト、トマス……?」
「ラ、ラス様……ぼっ…ちゃ……」
抱きかかえたラスの腕の中で、年輩の使用人は最後の息を吐いた。
「ト、トマス?トマス!?」
糞が……爺さんはこの集団じゃまともな部類だったんだが。
気付くのが遅れた。
ラスの、トマスを抱きかかえる姿を見て、ほんの一瞬、一瞬だけだが俺の脳裏に親父とお袋の死に様が浮かんだ。
「……ラス様、トマス殿を運びます。さ、手を離して」
バース達が死体置き場にトマスの死体を運ぶ。ラスは呆然と膝立ちのまま見送った。
……あの爺さんの名前を今知ったな。
「……助かったぞ、ディック。どうした?気にしているのか?」
女傭兵が俺の加勢に礼を云う。
「まだ死なすつもりはなかったんだが、な」
「貴様が死なせた訳じゃない、不可抗力だ」
そんなんじゃ無い。
まともな奴が減ると面倒が一気に増える……それだけだ。
「アンタ、名前は?」
俺は女傭兵に訊いた。
「私か?アーシェラだ」
「……本名か?」
「うちは代々傭兵だからな」
戦女神の名をつけるとは、困った家系だな。
「アーシェラ、雇い主の面倒をみてやってくれ」
「……解った」
ラスが暴れるとは思わないが、自暴自棄になられると面倒だ。
女傭兵は商人の傍に寄り、彼を焚き火まで連れていく。
「……珍しい」
「なにがだ?」
いつの間にか司祭見習の娘が傍にいた。
俺を見上げている。
「貴方は……この集団が崩壊するのを望んでいたのでは?」
「賢いな。だがあの爺さんが死ぬのはまだ早かった」
ラスの心はトマスが生きていた時からとっくに折れていた。支える役がいる事で傭兵達は仕事をしていた。
傭兵達にとってはもうこの仕事を続ける意味が無い。
夜明けまでどれくらいだ?
やる気の失せた傭兵達でそれまでもつのか?
「バース!扉を戻して荷物を積み上げろ!」
「何故だ?ディック……まさかまだ何かあるのか?」
俺はバースに思い出させてやる。
「……廃村を通っただろう?」
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