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意外と早く嵐が弱まり出した。
外から聴こえてくる風の唸りと壁に打ち付ける雨の音に勢いが無くなった様に感じる。雷鳴は既に消えていた。
じきにただの雨音に変わるだろう。
生き残った連中で焚き火を囲んでいるのが見える。
人は心細くなると他者の温もりと炎の暖に拠り集まるものだ。
生き残りは十人。
もちろん俺を抜かしての数だ。
その内の九人が焚き火の周りにたたずんでいる。
傭兵達はもう立哨していない。ラルヴァが真っ先に襲ったのが立哨についていた連中だったせいで単独行動を避けている。
時折、そこらに転がっている椅子の残骸などを拾って来ては、燃え易い様に壊している。
傭兵のリーダーが俺のところにまたやって来たのは一時間程過ぎた頃だった。
「アンタ、あぁお嬢さんも向こうに行かないか?だいぶ冷えてきただろう?」
「そうですね……行かないんですか?」
司祭見習が黙っていた俺を促しながら立ち上がる。
「その格好だと寒いでしょ?さ、立って」
ボロ布を腰に巻いているだけの俺の手を取って立ち上がらせる娘の行動は善意からのもの。
だがリーダーが声を掛けたのはそれでは無い。
また襲撃があった場合の戦力確保、有り体に謂えば『肉の壁』に使えるからだ。
今傭兵達は自分の身の安全を確保する事に考えが傾いている。雇い主の護衛は二の次というところだろう。
となれば、自分の周りにいる人数が増えれば自分が犠牲になる確率が減る。単純な計算だ。
手枷足枷のはまった俺は、連中の生き残る確率に大いなる貢献をする人材、という訳だ。
もっとも、周りに人数がいると生き残る確率が高まるのは俺にとっても同じ事だが。
俺はさも迷惑そうに立ち上がり、のろのろと焚き火の近くへ歩く。
「……なんで囚人を連れてくるのよ!?」
案の定、噛み付いてきた奴がいた。『御嬢様』と呼ばれていた女だ。
自分の召使いが『減った』事にさして感慨は無いらしい。こんな状況でも周りを見下した態度を崩さないのは『権力者の子』としての矜持というやつか。
「サーシャ嬢、今は緊急の時です。ここは一丸となって夜を乗り越えませんと」
「バースと謂いましたわね貴方?傭兵が勝手に判断する事では無いのではなくて?」
御嬢様は『サーシャ』、傭兵のリーダーは『バース』というらしい。
権力を代表する女と暴力を代表する男が仲違いしてくれる。
俺の手枷足枷よりも、こいつらが生き延びる確率が減る要因が出来た訳だ。
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