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どの死体も首が切り離された。リーダーは俺の云った事を正確に理解したようだ。
地面に転がった首からはラルヴァがはみ出してくる。
それを剣で淡々と潰していく。その度に御嬢様と侍女が小さく悲鳴を挙げるが誰も構わなかった。
「これでもう大丈夫だ……よし、死体を隅に寄せよう」
生き残った傭兵達がリーダーの指示をうけて死体を片付ける。胴体を運んでは首を合わせてやっていた。
「そちらの……方を運びませんか?」
「……気が向いたらな」
「そうですか……ところで、ラルヴァに詳しいんですね?」
娘が問い掛けた時、丁度仕事を終えたリーダーがやって来た。
俺の前に立つ。
「それは俺も訊きたい。あんな魔物、そうそう見掛けるものじゃないからな」
「だろうな。アンタら傭兵は戦が終われば戦場から居なくなる」
「どういう意味だ?」
二人の目が俺に注がれた。
「……餓鬼の頃だ。俺の村が焼き討ちにあった」
村の生き残りは俺を含めても数人、どいつも餓鬼ばかりだった。
そのまま村に残っても飢えるだけ。食い物をかき集めて早々に村から出ればよかったんだが、せめて親だけでも葬りたいと誰かが云った。
それがケチのつき始め。
「墓穴を掘ってる内に夜になって、ラルヴァが湧いたのさ」
その時は二人ほど犠牲になった。が、お陰で『目玉』を潰せば倒せる事が判った。
「その後だ、死んだ大人達が起き上がったのは」
これには太刀打ち出来無かった……餓鬼の力じゃ無理だ。
それに死人と解っていても親父やお袋を始末出来る訳が無い。
「皆ばらばらに逃げたよ、食い物も持たずにな。運がいい奴ならまだ生きてるのかもな……いや無理か」
それからは戦の後をつけていった。
食い物を漁る事が出来たし、死体からは金目の物も漁れた。
「ガタイがデカくなってからだ。ラルヴァに憑かれた奴の倒し方に気付いたのは……もういいか?二人とも向こうに戻りな」
まったく、村が焼き討ちにあわなければ……いや、埋葬が済むまでラルヴァが湧かなければ。
俺は手首の枷を見た。
詰まらない感傷だな。
……俺の夢に女神ライラが顕れたのは、村から走り出して空きっ腹で眠った夜からだ。
以来たまに顔を出す。
きっとあの村で俺の命は尽きる予定だったんだろう。それが何でか生き延びた。
夜の女神、死神ライラには予想外の事態、あらかじめ決められていた命運を越えたから。
だから女神は俺の夢に顕れる。 俺の事を『想い人』と呼んで。
俺は飾られた黒い神像を眺める。
……今どこで俺を見てるんだ?
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