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華の雫

サルビア-紅く咲く花-

作者: 長谷川真美

サルビア-紅く咲く花-

燃えるような思い。

貴方は気づいていますか。

気づいてくれますか。

私という花を。


 帰りの地下鉄までの下り階段、昇りにいた(やなぎ) 隆介(りゅうすけ)室長には表情がなかった。それでも、私を見つけるなりニッコリと笑い「お疲れ様です」と声をかける。卑怯だよ。そんな顔。あなたのことを諦めようとしたのに。夜の霊園で白い百合(ゆり)を携え、亡いた今もなお最愛の妻に純潔の愛を捧げる死人の世界にいるあなたを生者の国に戻せるだけの力は私にはない。24歳の小娘の(あずま) 夏希(なつき)は会社の上司である柳室長に恋心を抱いている。淡い恋で終わればよかったのに。仕事を一緒にするにつれてどんどん恋心は大きくなっていく。地下鉄が地上に上がっていく。私の恋心のようだ。ずっと、地下に潜っていた心は地上に上がり光を受け、影ができる。光が強くなるほど影は濃くなっていく。死者は汚くなることはない。思い出の中できれいになっていく。キレイになって行先はどこにあるのだろう。忘却。それとも燃える思い。柳室長の中では亡き妻の京香(きょうか)さんは未だに色あせていない。息苦しくなるほど燃えるような赤いサルビアを見て、思いにふける。熱い風が頬を撫ぜる。


 赤と黄色、ピンクの極彩色に彩られたプランターが私達の世界ならば柳室長の世界は白いのだろうか。困惑するほど咽返すほどの色が混ざり合わさって白になる。私にはわからない世界。人を愛して愛し抜いてお互い結ばれて夢物語を過ごした。その世界が突如奪われた。いなくなった人は帰ってこない。次に同じ国に行けるとも限らない。後を追ったら二度と会えなくなる。だから生きていく。生きるために体を動かすのに必要なエネルギーを得るために食と眠りを取る。生活のために職に就き仕事をしてお金を得る。いずれ来るだろう運命の死を迎えるまでそのサイクルが続いていく。運命をまっとうすれば愛した妻と出会えるかもしれない。そんな夢物語を信じ、日々を過ごしていく。「そんな人生楽しいの?」一人暮らしのアパートのドアを締めてふと呟く。私が否定する人生を送っている貴方をこれほどまでも好きになってしまったのだから始末が悪い。いつもは美味しいはずの仕事を終わった後に飲む冷え切ったサワーがやたらとまずく感じる。好きなものが美味しいとは限らない。恋はこんなに苦かったかな。思いを募れば募るほど辛くなる。それでも思わずにはいられない。涙が溢れる。心のチューニングが合わない。体温がわからなくなる。恋は心の栄養だった。甘い恋。弾むような明るい色彩と音楽にあふれる世界。それが今までの私の恋愛だったのに。なのに、どれだけの痛みを感じて私の心は壊れていくの。この恋の終着点はどこにあるの。もう振り向かないで。私だけを見て。私と新しい世界に行きましょう。全部分かり合えなくてもいいでしょ。咲かない花に水をあげるのはもう止めて。見つけて。私という花を。私は綺麗な花ではないかもしれない。だけど貴方よりも一秒でも長く咲き続けます。花が咲く。雪解けまで。FIN.


会社帰りで出くわしたワンシーンで思いついた作品です。

8月も終わりに差し掛かる中、サルビアだけは公園のプランターで咲き続けています。

その生命力を少しでも分けてもらえれば良いなと思う夏の夜です。


BGM:Honeyworks

2017/8/22

長谷川真美


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