人外男の娘が海に行ったようです
「海ぃ?」
『おう!今から行くから準備しとけ!』
中学以来の親友、俊太からの突然の提案に眉を顰める。
高2の夏休み真っ盛り、遊ばにゃ損損といった状況で海に行くと言う選択肢が上がるだろうなーとか考えてはいたが。
今は八月。気温が上がり暑さをしのぐのに一番必死になる時期…ん~残暑の方が厳しいか?
まあとにかく滅茶苦茶暑い時期。海であれプールであれ、水遊びは一番オーソドックスな暑さのしのぎ方と言えるだろう。
「断る。」
しかし今はエアコンが普及し、一般家庭でも大抵はある。
暑さをしのぐだけなら無駄に外出する必要はないのだ。
『は?』
「は?
……ってなんだよ。」
『なんだよって…お前海行きたくねえの!?』
「ああ、行きたくない。」
『………お前、仙人だったのか?』
「なんで海に行きたくないってだけで仙人になるんだよ。」
その理論だと引きこもりが全員仙人になるぞ。
『夏に海に行きたくないとかありえないだろ!』
「ありえるんだよなぁ…
……時に俊太、なんで俺が海に行きたくないんだと思う?」
『え?
…………日焼けしたくないとかか?』
「女子か!」
『ん?違うのか?』
「違うわ!」
お肌のケアに敏感な女子じゃないからな俺は!
「……ほら、海には居るだろ?俺が大っ嫌いなあいつらが…」
『……クラゲか?』
「お前わざとじゃないよな?
ナンパ共だよ。」
『ああ、なんかお前異常なくらいナンパ嫌いだったな。』
「当たり前だ!
何が悲しくて男にナンパされるのを喜ばなきゃならないんだ!」
…というのも、俺の外見が超美少女だからに他ならない。男だけど。
街中でもたまに話しかけられるのに、海なんかに行ったら…想像もしたくない。
海にはナンパして来る野郎どもがうようよいる。ナンパ目的で海に来る奴もいるだろう。
そんなナンパの巣窟に自ら足を踏み入れる等考えられない。男だけど。
「それと…問題が水着なんだよな。」
『え?お前水着持ってないのか?
去年夏休み前に買っただろ?もう無くしたのか?』
バカのくせになんでそう言うことは覚えてるんだ。
「無くしたんじゃない。
俺だってちょっとは泳いでみたいなーとか思ってるんだが…
……考えても見ろ。普段着とか制服で男装とか言われてるやつが、上半身丸出しの男の水着なんかで行ったらえらいことになるだろ?」
『………ああ、なるほど。』
「つまりだ。
俺が海に行ったらお前らが海で遊んでるのを横目に見ながらナンパ共を処理するという苦行にさらされるんだ!そんなとこに行きたくなると思うか!?」
『確かに、海行って泳げないのは辛いな…』
泳げない事しか理解してくれない。それが俊太クオリティー。
『あー、その、なんだ。
先に謝っとく、ゴメンな。』
「え?」
「……ん…?」
何が起きた?
俊太と電話してたら突然何も見えなくなって…
…なんか首筋に軽い衝撃があったような。
誰だ?誰だこんなことをしたのは。
「おはよう、守君!」
目を開けると、見えたのは水着姿の津瑠。
津瑠は俺が好きだという他校の女子生徒だ。その学校では一位二位に君臨する(らしい)外観の良さから…
…別に二つ名みたいなのはねーや。あ、でも去年脅されてクズ野郎とデートさせられてたんだった。助けたけど。
……って、ちょっと待て、水着?
ふと生じた疑問の答えはすぐに解決した。
「ああ……来てしまったのか。」
そこら中に立っているビーチパラソル、白い砂の上に敷いてあるシート。
ここは海、俺が来たくないと願った場所だった。
「私が電話中に気絶させたんだ、ごめんね!」
「ごめんで済むかあああああああああああああああああ!!
ギぃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーナぁーーーーーーーーーーーー!!!」
青く長い髪、そして端正な顔がトレードマークのギーナ。
青い髪は異世界出身の証、俺があった記念すべき第一異世界人で、ついでに命の恩人…らしい。気絶してたから覚えてないけど。
「異世界組にもう話は通してたんだ、そしたら行きたいってさ。」
「太郎…余計なことを。」
太郎は幼馴染、ツッコミ役。それだけ。
「…私が言った。転移出来るのは私だけ。」
「お前かああああああああああああ!!」
元凶第二号…三号?の移図離。
俊太と同じく中学校からの仲。能力で転移できる。
異世界への伝達係と言ったらコイツか、俺が能力で創った世界間の転移が出来る障壁を持ったギーナしかいない。
超バッドタイミングで遊びに来たギーナが俊太から聞いたのではなく、移図離が伝達していたらしい。本当に余計なことをしたのは移図離だったって訳だ。
「守、聞いたわよ。海に行っても泳げないから行きたくないって。」
「あとナンパが居るからだな!」
幼馴染の光。
なんかすげーニヤニヤしながら後ろ手に何か持って近付いてくる。
「何持ってんだ?」
「てってれー!新しい水着ー!」
「ビキニじゃねーか!」
手にしていたのは水着、それもまごうことなき女性用である。
「んなもん着るくらいなら海底に沈むことを選ぶわ!」
「瑠間に代わってもらえば?」
「そ、そうか!る」
『嫌。』
……瑠間。もう一人の俺よ…即答するほど嫌なのかい?
『…守、乙女の肌は余計にさらしちゃダメなんだよ?』
うわすっげえ傷つく。
俺と違って女寄りの人格だからって乙女とか言われるのすげー傷つく。
『……言い方の割に物凄くへこんでるね。』
(うるせーやい。)
「……ああ、断られた?」
「即答だったよ…
俺もパス。もう他の皆で楽しんで来い…」
「なんか可哀想…」
「なら帰してくれないか?どうせ移図離の転移とかで来たんだろ?」
「あ、それはダメ。」
「………」
…ふて寝でもするか。
「もう守はほっといてやれ。」
「仕方ねえな…
じゃあ、守以外は着替え終わってるから、後は泳ぐなりそこで寝そべるなりしても良いぞー!」
「自由行動って訳ね。
……ところで俊太、これで全員?」
「ああ、他の奴らは予定が入ってるとかで来ない。
だからこのメンバーで全員だな。」
「なんで予定をずらさなかったの?」
「……何、海に来れるのは一回だけじゃないだろ?
予定が空いた時に、そいつと一緒に海に行く!って予定だ!」
「数で攻めるスタイルか。」
「どこに攻めてんだよ…」
最初に寝かされていたシートの上で寝そべっていると、俊太達の声が聞こえてくる。
ビーチパラソルもあるので日差しは問題にならないのが唯一の救いだ。
「あの~…そこ私達のシートなんですが…」
「誰だ他人のシートに寝かせたやつはぁ!」
全く知らない親子に話しかけられ、安息の地は他者の領土と化した。
…他者の領土と知らずに俺が踏み込んでたんだけどさ。
2、3回親子に謝ってその場を後にした。
俊太が頭をかいていたのが遠めに見えた。アイツ後で覚えてろよ…
移図離に頼…むのはやばい気がしたので能力で転移できる障壁を創り、家からビーチパラソルとシートを持ってきて設置した。
そのまま家に居れば良いものを…と思われるかもしれないが、転移能力持ちの移図離に捕獲されてなんかされることは明白だったのでしなかった。
帰って来た時舌打ちしていたのが見えたので間違いない。
やや場所取りに苦戦したが、設置を終えたシートの上に寝そべる。
「守く~ん!」
俺を君付けで呼ぶのは津瑠だけだ。
目を開けて体を起こすと、海から手を振っている津瑠が見える。
「来ないの~!?」
「行けるか!」
こちとら普段着、電話していたときと全く変わらない私服だ。
着替え済みだったら余計な心配が増えていたが、それをしないほどの良心は持ち合わせていたらしい。気絶させて運んだくせに。
…どうせなら着替えも持って来てくれればよかったな。普段着の。
「なあ、あの子にしね?」
「いや、また寝たから無理だろ、起こしたら心象悪くなりそうだし。」
「寝顔もきれいだな…」
…寝そべってるとこんな会話も聞こえてくる。
俺じゃない俺じゃない俺じゃない、別のシートで寝てる美人さんだ、俺なんか狙う訳無いじゃないかあっはっはー
「あ!あいつら行ったぞ!」
「マジかよ!俺達も行くか!?」
こっちくんなこっちくんな…
「よう、起きてるかい?」
寝てる寝てる、寝てるからどっか行ってー
「おーい、起きろよ…
この俺様が声を掛けてるんだぜ?」
「触んな!」
飛び起きて素早く距離を取る。
あとちょっとで起きろよゆさゆさとかされるところだった…危ない危ない。
…気配察知による先読みで分かったことだが、下心満載だと本当にシャレにならない触り方をしようとするらしい。背筋に悪寒が走った。
ボディータッチをセクハラとする女子の気持ちが分かってしまった。
『女子の気持ちが分かってしまった守…そんな守に女子力が加算される。
女子力を1D6足してー』
おいふざけんな止めろ瑠間。
そのポイント料理の手伝いを避けて上昇しないようにしてんだぞ。
「おうおうおう!
お前に声かけてんのはここらでゆーめいな苅田様だぞ!?」
誰だよ。
「そういうこった。」
どういうこった。
…もうテキトーにぶっ飛ばすか。
見てみると大柄な苅田とかいう奴の手を両手で掴む。
「おお?」
そしてぐるりと回転し、周囲の取り巻きを巻き込んで海に放り投げる。
…魔法で身体能力を上げたからこそ出来た力技だ。
「すげぇ!人外スローだ!」
だからこんなに変なネーミングをされるいわれは無い。身体能力強化の魔法は何百何十回と使ってきたから強化もされるさ。
『素の身体能力も魔力で上がってなかった?』
ソーイヤソーダッタネ。
チンピラを片付けたのでもう一度寝そべる。
「すげえ…あのでかいのをあんな遠くまで…!」
「あの苅田をああもあっさり…!何者なんだ!?」
……あんなの見た後じゃ流石にナンパとかするわけないよな。
今度こそ安息を得た俺は次第に眠くなっていき、いつしか本当に眠った。
「華代、アイツ守じゃないか?」
「宗司…私達がどこに来たと思ってるの?
他人の空似ってやつじゃない?」
「だよなー」
……宗司?華代?幻聴だよな?
良く寝た。
体をゆっくり起こし、軽く動かす。
潮の匂いで海に来たことを思い出す。そう言えば行きたくもないのに連れていかれて…
……ん?
あっちで泳いでるの、津瑠だよな?
おかしい。泳いでるにしてはみんなと離れすぎだし、妙に必死……
「あ、起きた?」
隣に座っていたのはギーナ。
休み始めたばかりだったのだろう、首にかけたタオルで髪を拭いていた。
「……津瑠の様子、おかしくないか?」
「え?津瑠?どこ?」
「あのちょっと離れたところだ。」
「え?
あ、確かに妙ね…」
気配察知で読み取れる感情は焦り。
もしかして溺れているのか?
だとするとまずい。他の皆は散らばって遊んでいるせいか、離れた場所に居る津瑠に誰も気付かない。
「津瑠!」
「待って!」
「なんだ!?」
「今、障壁を使おうとしなかった?」
「した!」
制限が全く無いわけでないが、障壁はある程度なら形や密度は自由だ。
空中で固定するように出すことも出来る。それを使えば津瑠を…!
「確か、この世界では能力も魔法も普通使えないんじゃなかった?
見られたらまずいんじゃない?」
「!」
そうだ。
魔法や能力を使っているところは見られると騒ぎになる。
しかし今は津瑠が…
「……これしか、思いつかない。」
バッ、と着ていたTシャツを脱ぐ。
「ちょっ、守…」
ギーナが何か言おうとしているが、それどころではない。
砂を蹴り、一直線に飛ぶ。
「後で返す!」
と叫んで砂浜を駆けていた子供の浮輪を強奪。
2回、3回砂を巻き上げると、海に足が着いた。
……泳ぐよりも走った方が早い!
「はっ!」
海の上でもう一蹴り、二蹴り…
水面を走っているのではなく、水面ギリギリのところに空中固定の障壁を創ってその上を走っている。
飛び石を渡るように、それ以上の速さで津瑠の元へ向かう。
「津瑠---------!!」
俺を見た津瑠は一瞬表情を緩ませ…
「沈むなあああああああああああ!!」
勢いを殺さず海にダイブ。
海の中を落ちてゆく津瑠を抱えて浮上、急いで砂浜へ泳ぐ。
焦燥に駆られ、全力を出したため早く陸についた。
「津瑠、津瑠!」
声を掛けても返事は返ってこない。
「ライフセーバー呼んできました!」
「助かる!」
さっき大声で叫んだためか救援は早く着き、津瑠はライフセーバーの処置により助かった。
「ふぅ~…これで一安心だな。」
「……守、まずいことになってるわ。」
「え?津瑠は無事だったろ?」
ギーナが深刻そうな顔をしている。
津瑠は無事、他に心配することなんてあったのか?」
「さっき自分が何したか覚えてないの?」
「え?え?」
「その1、Tシャツを脱ぎ捨てる。」
「え?海に入るんだから当たり前」
「自分の見た目を忘れたの?」
「………あ。」
俺の外見は超美少女。
意識を失う前に自分で言った言葉が浮かんできた。
超美少女が、Tシャツを脱ぎ捨てて…上半身……
「ああああああああああああああああ!!」
急に恥ずかしくなった。
俺自身はともかく、周りがどう見ているのかを考えて。
「物凄い注目集めてたの気付かなかった?」
「気付くかぁ!」
津瑠を助けるので必死だった俺には気付きようが無かった。
「その2、海の上を走った。」
「ん?
別に海の上は………」
確かに、俺は障壁を使って……
「はたから見たら水面を走ってるようにしか見えなかったけど?」
「あ~……」
やっちまった…
「あの、救急車が着きましたが、どなたか同伴」
「俺が行きます!」
突如現れた逃げ道を逃す術は無かった。
「……すいません、何か着てもらえませんか?」
「あ、俺男なんで。」
「え゛?」
『……と言いつつとっさに目を逸らして胸を隠す。女子力プラス』
(やめろ。)
俺って男だっけ…?女だっけ…?
津瑠「この沖…深いッ!」
浮き輪は2度と子供の元に帰れなかった。
太平洋をさ迷い続けるのだ。
沈もうとしても空気が入っているので、沈めない。
その内浮き輪は、空気が抜けきって沈んだ…
じりゅーです。
連載小説、異世界に行く?そんなの予想できるか!を完結させて早二か月が過ぎました。
久々に彼らの物語を書いてみたわけですが、読者の皆様は楽しめましたか?
少なくとも書いてる私は楽しかったです。
…だからなんだって話ですが。
こんな感じの番外編を続ける予定は今のところは無いです。
短編書いてる途中なので…他の作者様ならともかく私は二つ同時進行とか多分無理です。どっちつかずになって破綻、エタるとかしかねません。
…今書いている短編が異様に長くなって、もう二万字を超えそうな勢いです。
なんか転生ものを連載で出してたら、
「あ、コイツ短編にまとめられなかったな?」
とか、
「書いたら投稿しなきゃ気が済まない病の発作が出たか…」
とかそんな感じだと思ってください。
短編で出したとしてもかなり長くなりそうですが。
では、また読んでいただけるなら、いつか次回作で。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!




