詩と死と狂気と正直さ
詩人の魂は
何かのきっかけで
その扉を開く
あるいはくるみ割り人形で
あるいは黒い帽子の少女で
または
青から金へ移ろう絶滅の季節の気配で
どうして
儚さを漂わせる人たちの美しさ!
扉の奥から
しずしずと
しかし速やかに
やってくる言葉たちは
わたしに纏わりつき
なにがしかの詩を書かせる
見たこともない
懐かしい景色が
目の前に広がっていく
草花は
美しく彩られた
ネオンの輪郭を宿し
仄赤き大振りな花弁を
曇りの寂光に浮かべる
鹿の子斑に
鼻先から尾へと
流れる毛筋の流麗
濡れた真っ黒な深い瞳
しなやかな獣たちの
跋扈する真実の世界
覚えているのは
今が過去であったこと
少し時が進んでいるのかも知れず
いつも
取り残されていることに
ふと気付くのかも知れない
開いた扉に抗い
わたしは
閉じようとする
しかしながらそれは
容易ではなく
無防備に行き会ってしまった
佳人の花のような香りが
魂の最深部まで沁みて
胸は苦しく
溜息深くなり
一人
柱の陰に目を閉じている
これは
死に至る病だ
最も甘い死に誘う
破滅の魂だ
だから
わたしは
美だけを追ってしまう
群衆の中に光る瞳を
風なき風に揺れる炎を
ちらちら揺らめく情動の色彩を
……
ああ、
何という木漏れ日の眩しさ!
きっと世界は純粋に溢れているのに、
人々は必死になってそれを踏みにじる!
その靴底が
わたしを踏む
何度も何度も
そして
わたしも
何かを踏みにじる!
終わらない魂の転落に
止めどなく染まるこの世界にあって
生きるということ
生きているということ
そして
これからも続いていく
生きていくということに
どこか乖離した感覚を持つわたしは
やはり
狂っているのだろう
だから
この狂気にこそ
正直であろうとしている