プロローグ其の伍
ドロシーの意思により、元の世界へと還ったはずの政宗だった。
しかし、彼は再び彼女の前へと姿を現した。
政宗は光に包まれ消える前に叫んだ。
『もう一度俺を呼び出せ! 檻の外に!』
ドロシーは、政宗の言う通り再びこの異世界へと召喚したのだった。
『作戦は成功した。さて、反撃といきますか!』
意気揚々とした態度の政宗とは裏腹に、ドロシーはペタリと座り込んだままだった。
『ん? どうしたんだよ。さっさと終わらせようぜ?』
『そうしたいのは山々なんだけど、魔力を使い過ぎて立てそうにないや』
それもそのはず。召喚術は魔力の消費が激しく、普通は一度で限界なのである。
魔力量の少ない者が使えばドロシーを召喚した老人の様に、あの世行きである。
初めに政宗を召喚。次に眠りこけてる老婆。そして、再び政宗を……。
この世界に来てから三度の召喚を行ったのだ。更に解毒にも魔力を使っのだからほぼ空っぽの状態だった。
神だからこそ出来た事。正に神業!
それにしても老婆が余計だった。もう少しだけ頑張って老婆さえ呼び出さなければ……。後悔先に立たずとはこの事だ。
『乗れよ』
政宗は背を向けしゃがみ込んだ。
しかしドロシーはおぶさろうとはしなかった。
『足手まといになるとか考えてるんじゃないだろうな? こう見えて俺は意外と鍛えてるんだ心配するな』
それでも全く動こうとはしなかった。
ドロシーの様子を見ようと振り返ると、頬を赤く染め口を尖らせ政宗の方をチラチラと見ながら、
『お姫様抱っこのが良いな』
神様は甘えてきた。
(可愛い!!)
政宗は正直に思った。
だが、今は敵のアジトの中に居る。両手を塞がれるお姫様抱っこは圧倒的に不利!
とどのつまり、この状況で与えられた選択肢からは、お姫様抱っこは自動的に除外される事となる。
『ここから無事に出られたらしてやるから今は我慢してくれ』
再び背を向けしゃがみ込んだ。
『やだやだ今が良い! 今じゃなきゃヤダー!!』
『こんな時に駄々こねるんじゃねーよ! 駄々女神が!』
そんなやり取りをしていたら、様子を見に数人の短剣を持った盗賊達がやって来てしまった。
『牢の扉が開いてるぞ!』
脱走に気が付いた盗賊達は走りながら近付いてくる。
『しっかり掴まれ』
無理矢理ドロシーをおぶり敵に向かって走り出した。
チーターの如く敵の間をすり抜け階段を掛け上っていく。
どうやら、地下牢に捕らえられていたようだ。暗い階段を抜けた先は明かりが灯った空間が広がっていた。
『脱走だー!!』
先程の盗賊達は大声で叫びながら追いかけてきた。
気付けば周りは盗賊だらけ。袋の中の鼠。
一騎当千の猛者であろうと、おぶった状態ではこの数の盗賊達の方に分があった。
『私は大丈夫だから君だけでも逃げて』
ドロシーは政宗から降りようとしたが政宗は拒んだ。
確かに、一人なら切り抜ける事は容易い。それでも……。
『誓ったんだ……必ず還すと神に誓ったんだ!!』
地面を蹴り上げ政宗は高く飛び上がった。更に天井を蹴り壁から壁へ。
盗賊達を飛び越え通路に出ると立ち止まった。
『狭い通路なら数なんて関係ねー!!』
そう言って先頭の盗賊を蹴り飛ばし、後ろの盗賊達はドミノの様に次々と倒れていった。
『まったく、君はホント無茶苦茶だよ』
ドロシーは呆れ返っていたが嬉しそうだ。
通路を進むと再び大きな空間が広がっていた。そこには、あの盗賊の親分らしき男が居た。
『いよいよボスのお出ましだ』
政宗の額から顎へと流れポツンと汗がこぼれ落ちた。