プロローグ其の肆
政宗を元の世界に還し、盗賊達の牢の中に一人残されたドロシー。
相変わらず辺りは薄暗く、一人で居るには心細い。
『政宗君、私頑張るよ』
ドロシーは涙を拭い両手で頬をパンッと叩いた。その瞳からはまだ希望の灯火は消えていなかった。
ドロシーは一度深呼吸をしてから大きく息を吸い込み大声で歌い始めた。
『わ〜たし〜はい〜だい〜なか〜みさまよ〜♪ は〜がね〜のこ〜ころ〜でせ〜かいをてらす〜♪ せ〜なか〜につ〜ばさ〜はないけ〜れど〜♪ ゆ〜めときぼ〜うにあ〜ふれ〜てる〜♪』
盗賊のアジト中に歌は響き渡った。その頃盗賊達は、
『なんだこの衝撃波は!?』
『頭が割れそうだ……』
『俺……もう……無理……』
『メディーーーック!!』
棚から物は落ち、窓は割れ、盗賊達の何人かは倒れ大惨事と成っていた。
そうです。ドロシーはものすっっっっ……ごい音痴なのです!!
例えるなら、どこかのガキ大将!! いや、彼もこれには真っ青だろう……。まだ【ボエ〜】の方が幾分かマシである。
『ゲホッゴホッ何が起きてやがる!?』
親分らしき男は、酒の入った樽を落とし咽ながら叫ぶ。
『どうやら牢屋に閉じ込めた女の仕業みたいです』
そう部下らしき男が応えた瞬間、部下らしき男は親分らしき男に殴られ吹っ飛んだ。
『オイ、テメー牢の番を付けとかなかったのか!? アァッッ!? 殺しても構わねぇ! 今すぐなんとかしやがれっ!!』
部下らしき男は牢の鍵を持ち、慌てて牢屋へと向かった。
『まったく……使えねー奴らだ』
そうボヤいて樽を持ち上げ中の酒を再び飲み始めた。
そして牢屋では……。
『♪〜〜〜♪〜〜〜♪ ズンッチャッチャ〜チャララララ〜♪ (セリフ)私が貴方を守ります 例えこの身が朽ち果てようとも 冷蔵庫のプリンは渡しません!!』
ノリノリだ。ノリノリ故に迷惑だ。そして恥ずかしい。
『うるせーぞゴラァ!』
部下らしき男が叫びながらドロシーの牢へと近づいて来た。
『イエーイ』
『イエーイじゃねーよ!』
『ありがとう〜』
『ありがとうじゃねーよ!つーか手を振るな!』
超ご満悦の様子の神様。忘れているといけないのでもう一度言っておこうドロシーは神様だよ。
『ん? もう一人の男は何処に消えやがった!?』
ドロシーのペースに乗せられていた男は、政宗が牢の中に居ない事にようやく気が付いた。
ドロシーの口元がニヤリと緩んだその時!!
男の背後に黒い影が現れ拳が飛んできた。そのまま男は気を失って倒れ込んでしまった。
黒い影は倒れた男から牢屋の鍵を奪い扉を開け手を差し伸べる。
『待たせたな』
『また会えたね……政宗君』
黒い影の正体は消えた筈の政宗だった。