プロローグ其の参
意識が朦朧とする中、政宗は感じた。
固い、冷たい、薄暗い。鉄格子の様な物も見える。どうやら盗賊達に牢獄へ閉じ込められたようだ。
しかし、何故かとても落ち着いた。どことなく温かく柔らかい感触のお陰か否か……お陰だ。
その瞬間政宗はハッキリと目を覚ました。温かく柔らかい感触、即ち膝枕! 定番なだけに政宗の心臓はバクバクと音を立て身体は小刻みに震え上がった。
膝枕なんて昔、母親に耳掃除をしてもらった時以来。ましてや初めての家族以外の異性となると緊張も並大抵の物ではなかった。
幸いにもまだ政宗が目を覚ました事には目の前のドロシーは気付いていない様子。
政宗はある事に疑問を抱いた。
この時、政宗は横を向いていた。しかし目の前にはドロシーが居る。
つまりドロシーの膝枕では無いという事になるではないか。
恐る恐る顔を見上げてみると、そこにはどこの誰だかわからないお婆さんが正座をしたまま眠っていた。
『ゔぉぁ〜〜〜!!』
政宗は思わずこの世の生き物とは思えない様な悲鳴を上げ跳び起きた。
その瞬間、お婆さんは光の粒子の様な物に包まれパッと消えた。
『ビックリしたぁ〜』
ドロシーは身体を縮めて口に手を当てながら政宗を見て言った。
政宗はハァハァと息を切らせ、口を大きく空けながら目を見開いて怯えた表情をしていた。一度呼吸を整えドロシーに問う。
『今の何!?』
笑いながらドロシーは言う。
『最初は私が膝枕していたんだけど、足が痺れちゃったから代わりに都合が良さそうなのを適当に召喚しちゃった』
(しちゃったじゃねーよ! 何で起こしてくれなかったの!? もっと早く目を覚ましてたら良かったのに! つーか老人労れよ!)
そう思いながら政宗は悔しそうに頭を床に何度も叩きつけた。
『でも、目を覚ましてくれてよかった』
安心したのかドロシーのアクアマリンの様な瞳は水面に浮かぶ月の如く涙で揺れていた。
なんとか治癒術を微力だが使えみたらしく、毒は消えたが中々目を覚まさない政宗を心配していたと、子供の様に泣きながら説明してくれた。
目覚めた後身体が自由に動かせたのは、ドロシーのお陰だった。
『取り乱して悪かった。心配掛けたな』
そう言ってドロシーの頭にポンと手を置くと、急にドロシーは大人しくなりボソッと呟いた。
『やっぱり、これ以上は政宗君に迷惑掛けられないよ』
俯いたドロシーの顔は、長い髪に覆われ表情を伺うことは出来ないが、どこか悲しみに溢れているのは感じ取れる。
この重苦しい空気をここでなんとかしなければ男が廃る。そう思い、鉄格子の様な物を掴み左右に開こうとしたり殴ったり蹴ったり壁に殴り掛かったりしてみたがビクともしない。
どうやら相当頑丈に作られているみたいだ。
政宗の手は真っ赤に腫れた。しかし、それ以上にドロシーの手は赤く腫れ上がっていた。
どうやら政宗が眠っている間、ドロシーも何とか脱出が出来ないかと試みたらしい。
『俺が必ずなんとかしてみせる。そして必ず元の世界に帰してやる』
心配しない様に、ドロシーの手を握り真剣な眼差しで政宗が言ったが、ドロシーは顔を上げもせず固まっていた。
『さようなら。君はもう自由だよ』
そう言って顔を上げたドロシーの顔は笑いながら泣いていた。
そして、政宗の身体が光に包まれこの異世界から姿を消した……。