第62話:暗闇の中
「ボロボロだね」
暗闇の中で、ケセランパサランは白い身体を光らせながら話しかけてきた。
だけど、あたしは今話せる状態じゃない。
心に思う事は出来ても、言葉として発する事が出来ない。
何故ならあたしは自分の身体を回復させるのに精一杯だったからだ。
レベルがアップしていく音が何度か聞こえるけれど、レベルアップで回復するのはHPとMPだけで、身体が元通りになるワケじゃない。だから、HPがフルになっても直ぐに削られていく。
魔力切れが回復してくれたのは助かったけれど、継続的に『ヒール』を掛け続けているからMP値もグングン減っていく。
それでも掛け続けなければ、恐らくあたしは死ぬ。
何故かは判らないけれど、本能というものがそう判断していた。
だから、あたしは『ヒール』を止めるわけにはいかないのだ。
すると、ケセランパサランは楽しそうに言った。
「必死だね。死んじゃった方がウンと楽になれるのに」
死ぬ?
何を言っているんだ。この毛玉は。
死ぬなんて冗談じゃない。まだあたしはこの世界で何も成し遂げていないんだ。
赤龍の民もまだ救っていない。兄さんにだってまだ会ってはいない。
そんな状態で死ぬわけにはいかない。
ここで死んだらあたしがこの世界に来た意味がなくなる。
そこまで考えて妙な違和感に襲われた。
『この世界』って何?
兄さんって……カッツェ兄さん以外にもいた?
ケセランパサランはそれが何かを知っているのか何処か楽しそうだ。
だけど、あたしに教えてくれるつもりはないらしい。
『ヒールの使用回数が千回を越えました。自動回復スキルが派生し、ヒールと統合作業を始めます』
そんな声が聞こえ、あたしは首を傾げた。
『自動回復』が派生して統合?
それって『自動回復』の一部が『ヒール』と統合されて違うものになるって事?
すると、その答えとばかりに天の声モードの声が返ってきた。
『統合成功しました。スキル、オート・リジェネを習得しました。自動回復の一部が消失した為、現在のレベルを維持出来なくなりました。自動回復Lv.8にダウンします。
これよりオート・リジェネLv.1が発動します』
「良かったね新しいスキルゲット出来たよ」
いや、良くない。だって、魔力がまた一気に減っていく感じがする。
あの気持ちの悪い感覚に襲われ、あたしは呻いた。
何回も味わっているものだけど、一向に馴れる気がしない。
「魔力が一気に減るのは仕方がないよ。
何故なら怪我の状態を『オート・リジェネ』が判断しているからね。瀕死というか、ほぼほぼ死んでいた状態だったから無理ない事だと思うよ。あ、『オート・リジェネ』のレベルが上がったよ。あれ、また上がった。こりゃ、相当酷いね」
天の声のモードは何処にいった?お知らせがケセランパサランモードだよ。
ん?あれ?なんか頭から胸の方までスッキリしてきたぞ?
「おやおや。流石は白銀十字教の司教だね。一気に頭部の怪我を治しちゃったよ」
白銀十字だと⁉え、ちょ、ちょっと待って!
「なんで敵があたしを治したの⁉」
「あ、漸く話せるようになったね。司教が治療を施した理由は、君に『ディバイン・パニッシュ』が効かなかったからだよ。まさか、子供である君が『聖耐性』を持っているなんて思わないだろうからね。彼ら曰く『邪教』というものに入ってない純粋な魂だと誤解したみたいだよ。
君は『創生の神の神子』だからまともに喰らったら死んでたけどね。私のお陰で高い耐性を身に付けていて良かったね。あ、『聖耐性』がLv.6になってるよ」
レベルアップの告知がお座なりだ。
だけど、耐性のお陰で助かったからいいけど。
まだ治療するところは沢山あるけどね。
「あ、良い報告が一つ。カッツェ君は無傷だよ。今、君を守ってる」
カッツェ兄さんが⁉
良かった。生きてくれていて良かった。
ん?あれ?そういえば、カッツェさんは兄さんじゃない、よね?
本当の兄さんは……えと……そう、確か名前は璃人……
その名前が浮かんだ途端、視界が歪んだ。
そして、頭の中が掻き回されるような感覚に襲われた。
「おや?どうやら魔族の地に入ったから記憶の書き換えが行われているようだね」
記憶?
ああ、そうか。『意識調整』であたしは神子である事、璃人兄さんを捜すためにこの世界に来た事を封印していたんだっけ?
兄さん。兄さんの事忘れていてごめんね。
これからももしかしたらそんな事があるかもしれないけれど、必ず見つけるから待っていてね。
あたしはそう心の中で呟きながら意識が遠くなっていった。
遠くで、ケセランパサランが妙な事を呟いていた。
「君は彼女こそとは言っていたけど、もしかしたら今度こそ本当に築けるかもね。
だけど、もう少し観察させて貰うよ。気を失ってばかりで頼りない子だけど、非常に興味深いしね」
それって、あたしの事なんだろうか?
そうなると、『君』というのは誰を指しているんだろう?
そう感じはしたけれど、あたしは言葉を返せないまま遂にケセランパサランの姿さえ見る事は出来なくなっていた。




