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プロローグ

 


 目が覚めると、そこは暗闇の世界だった。

 上下左右も分からない暗闇。

 でも、「闇」というよりは「景色が黒い」と言った方がいいかもしれない。

 何故ならあたしの身体は爪先まで視認出来る。

 朝、大学に行った時の黒いジーパンに黒いジージャン姿だ。

 ボーイッシュを基調としたこの黒の服が、暗闇に溶け込んでいないからだ。


 もしかして夢なんじゃないだろうか?


 だってこんな状況現実にはあり得ないし。


 そう考え、もう一度寝直そう。いつ寝たかよくわからないけど寝直してみようと思い立った時とほぼ同じくして笑い声が響き渡った。

 中学生くらいの声変りがそろそろ来そうな声。

 あたしは咄嗟に声がした方を見ると、そこにはやはり少年がいた。

 どうやって座っているのか分からないが、空中で器用に胡坐をかいている。

 全身を白い服で統一したその姿はどこか神々しく、青白い光を放っていた。

 その少年は、引き攣った笑みを浮かべたまま口を開いた。


「君、何をしたか自覚ある?」


 突然そんなことを言われて首を傾げると、彼は苛立たしげに続けて言った。


「君は誰を助けたか理解しているのかい?」


「誰を?」と聞かれて今日の行動を振り返った。

 朝、会社員の兄さんと駅に向かった。

 駅前で別れようとした時に、目の前をフラフラ歩く男がいて「大丈夫だろうか」と観察していると、赤信号を無視して横断歩道を渡り始めて、そしたら対向車線から車がやってきたからあたしは彼を助けようと道路に飛び出した。


 という事は、少年が言っているのはその男ということになる。


「彼がどうかしたの?」


「どうかした!?あの男は神が禁じているルールを破ったため、処刑の判決を下した奴だったんだ。なのに、処刑場で君が助けたから生き残ったじゃないか!

 ああなっちゃったらもう寿命が尽きるまで我々は手を出す事は出来ない。しかも、不必要な魂二つもこっちに来ちゃってさ。あの世には予定以外の魂を受け入れる先なんてないんだよ!?」

「ちょっと待って」


 放置していたら更に文句を垂れ流しそうな少年の話をあたしは遮った。

「不必要な魂二つ」と彼は言っていた。

 一つはあたしと考えると、あの時あの場にいたのはあたしと兄さんだけだ。

 つまり、もう一つというのは必然的に兄の事になる。


璃人りひと兄さんもここにいるのか!?」


 掴みかからん勢いで問いただすと、少年は呆れたように吐息を漏らした。


「ねぇ、君意味分かっている?ここにいるって事は君はもう死んでいるって事なんだよ?」

「そんな事は判ってるわよ!男の代わりに死んじゃったんでしょ!?」


 その言葉を聞いて少年は驚いたように目を見開き、そして初めて嬉しそうに微笑んだ。


「なんで喜んでいるのよ?」


「君みたいな子は初めてだよ。君のお兄さんだって同じ説明をした時に最初は何故自分が死ななきゃいけないんだとパニックを起こしていたよ」


「最初はでしょ?」


 その切り返しに少年は更に嬉しそうに笑った。


「ああ。その通りだ。君は頭がいいね」


 馬鹿にしているのだろうか?


「君の兄さんは異世界にいるよ。最初はここで君を待つと言っていたけど、ここには複数の人間がいる事は許されない。だから先に異世界に行くと言っていた」


……異世界。そんなファンタジーな世界が実在するとは思っていなかった。もしかしたら予定外に死んだ人間が送り込まれる世界がそこに当たるのだろうか?


「違うよ。この世は10億個の世界が集まって成り立っている。異世界というのはその世界の一つに過ぎない。その世界の住民からすれば君の世界が空想の世界でしかない。

君のお兄さんが行った世界はまだ歴史の浅い世界でね、予定外に死んだ人間を受け入れる事が出来る状態なんだ。でも、立て続けに送るのは困難なんだけどね」


「でも、不可能じゃない。璃人兄さんは『先に行く』と言っていたのでしょう?なら、兄さんなら絶対に取引をしていった筈だ」


「お兄さんの事を信頼しているんだね」


「信頼じゃない。解るだけ」


あたしがそう言うと、少年は満足そうに頷いた。


「合格だよ。一言一句お兄さんと同じセリフだ。賭けは僕の負けだ。

君をお兄さんの世界に行かせてあげよう。でも、困難と言ったのは嘘じゃない。本当に難しいんだ。そんなわけで同じ世界に転生させても同じ場所には送る事は出来ない。もしかしたら世界の端と端になるかもしれない。

だから賭けに負けた僕からプレゼントを贈ろう」


彼が、そんな言葉を発した瞬間あたしの身体は七色の光に包まれ宙に浮かび始めた。


「ちょ、待って!転生って事は生まれ変わるんでしょ!?外見とか名前とか教えてよ!」


「君達は僕の加護がある特殊体だから生前と全く変わらないよ。勿論名前もね」


そう彼が言っている間にも光はさらに輝きを増していく。そして、あたしは強烈な重力を感じながら光の球となり、暗闇の世界から飛び出して行った。


「願わくば、今度こそ全ての者にとって安寧を享受できる世界になるよう」


少年のそんな声が遠くに聞こえるのを耳にしながら……



初投稿果たして最後まで書ききれるか不安ではありますが、お付き合いいただけたら嬉しいです。

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