出会い
その後ろ姿を見たのは、クロヴィスがコンビニに行った帰りだった。
学校を休み始めて3ヶ月。それでも冒険屋稼業──あまり素敵なネーミングだと思わなかったが、これ以外に思いつかなかったし、これ以上飾る必要もないと思った──は、非常に順調だった。とくに何をするか決めたわけでもないのだけれど、クロヴィスの胸が高鳴り続けるその一点において成功しているのだ。
そして、その後ろ姿は、更なる成功を運んでくれた。
客だろうか。
心臓というものがこんな風にばくばくと動くことを、クロヴィスは初めて知った。自分の体もそういう機能を備えていたのだと、軽く衝撃的でもあった。
コンビニ袋を片手に立ち止まったまま、姿勢を正すと、土がじりと鳴った。彼女は──腰ほどまで届く後ろ髪と、体つきのしなやかさでひと目で女性とわかる──は、振り返らない。気がついていないのかもしれない。いや、まだ気配を感じるほど近くもないのだから、仕方ないというような気がする。けれども、これほど誰かが、何かの気配が、目に見えないナニカが自分に近づいていると感じることもなく、けれども実距離としていまだ遠いことは、クロヴィスを戸惑わせるほどだった。
深呼吸をする。
「なあ」
まだ、声は届かない。
だから一歩前に踏み出した。