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第2夜「天草のイルカウォッチング」

 舞台は釜揚高校校長室。ブシドー教授がランドセルをしょったまま校長室の中をスキップしていた。

「ブシドー教授、校長室の中でスキップしないでください。一緒にDVD見ましょうよ」

「コレハ失礼シマシタ。ソレデハ見マショウ」


 鈴井校長とブシドー教授がソファに座り、テレビから流れる映像を見始めた。

 すると、ブシドー教授は棚の上にある植物に目がついた。


「コレハ日本ノ伝統的ガーデニング『ボンサイ』ジャナイデスカ?」

「はい、そうですけど」

「ショッテモイイデスカ?」

「え、えっ、ブシドー教授?」


 鈴井校長が制止する間もなく、ブシドー教授は盆栽を手に取った。


 --------------------------------------------------------------


 3月21日正午。新宿から深夜バス『はかた号』に乗って福岡県は博多に着いた安永拳、城ヶ崎しげる、玉木浩、ルギーの4人。駅近くの喫茶店で休んでいる安永、しげる、玉木を尻目にルギーはホワイトボードに何か書いていた。


「ルギーさん、もしや次の行き先を・・・」

「ああ、リーダーくん。1回だけで終わるわけないでしょ」

「今度は楽で優雅なルートにしてよ」

「ふふふ・・・」


 不敵な笑みを浮かべるルギー。


 喫茶店を出た一向は駅の入り口に集まっていた。まだ疲れが残っている安永、しげる、玉木に対し、ルギーは一人盛り上がっていた。


「さて、盛り上がってまいりました釜揚サイコロの旅。今度の行き先はどこになるのでしょう?次の選択肢はこれ」


 ホワイトボードを見せるルギー。ホワイトボードには次の行き先が6つ書かれていた。


 1.新幹線で出戻り 東京

 2.天草四郎? 天草

 3.もう帰りたい 静岡

 4.北の国から 札幌

 5.米がうまいよ 秋田

 6.桜島が絶景 鹿児島


 玉木(以下、玉)「またもや、とんでもない行き先が」

 しげる(以下、し)「北は遠いな・・・。4は引きたくないね」

 安永(以下、安)「鹿児島は魅力を感じるね」

 玉「うん、桜島は見てみたいね」

 し「そうだね。ひくなら6だな」

 ルギー(以下、ル)「次は誰が振るのかな?」

 玉「博多を当ててしまった男には振らせたくないね」

 安「俺のこと?」

 し「よし、ここは俺だな」

 安「さすがリーダー」

 ル「じゃ、リーダーくん、お願いします」


 ルギーはしげるにサイコロを渡す。


 ル「何が出るかな、何が出るかな?それはサイコロにまかせよ」


 ルギーの掛け声とともにしげるがサイコロを振る。そして出た目は、


 し「2!天草!」

 安「天草っていうと、島原の乱?」

 玉「それは天草四郎だよ。たしか天草って熊本にある大きな島だよ。イルカが見れるって有名だよ」

 し「イルカ見てみたいね」


 楽しそうな3人に対し、ルギーは意気消沈している。


 ル「リーダー。やっちゃったね・・・」

 し「どうしたの、ルギーさん?楽しそうなところじゃない」

 ル「君らね、そこまで何で行くと思ってんの?」

 安「電車ですか?」

 ル「違うよ!島だよ、天草は。飛行機だよ、飛行機」

 玉「おお、優雅ですね」

 ル「お金が・・・」


 3月21日午後6時。一行は博多空港から飛行機に乗り、熊本県天草に向かった。

 着いた時にはすっかり日も暮れていた。


 し「今日はもうイルカは見れないね」

 安「じゃ次行きましょうか、ルギーさん」

 ル「今日はここで泊まるよ」

 玉「何でですか?」

 ル「飛行機が明日の朝までないんだよ。だから、今日は宿探して泊まるよ」

 し「いいホテルがあるといいですね」

 ル「安い宿に決まってるだろ?」


 ルギーがいら立っている。


 し・安・玉『やさぐれてるな、ルギーさん』


 安い宿に入った4人は食事をとり風呂に入ったあと、そのまま熟睡してしまった。


 3月22日朝8時。朝食を食べた後、宿から出た4人。

 熟睡したので、4人ともすっきりした顔になっていた。


 ル「みなさん、おはようございます」

 し・安・玉「おはようございます」

 安「今日もいい天気ですね」

 玉「そうですな」

 し「いい天気だし、今日はやっぱりアレでしょ」

 安「そうだね、イルカだね」

 玉「ルギーさん、早く行きましょうよ、イルカウォッチング」


 玉木がルギーを見ると、ルギーがホワイトボードに何か書いていた。


 し「おいおいおい、何書いてるの?」

 ル「次行くよ」

 玉「はい?」

 安「なんで?」

 ル「時間ないから」

 し「時間はあるよ。行こうよ、イルカ」

 ル「とにかくダメだ」

 玉「お金ですか?」

 ル「そういうことじゃないよ」

 安「じゃ、なんでダメなんですか?」


 するとルギーは黙り込んでしまった。


 し「じゃ、イルカ見に行こう」


 しげるはルギーからホワイトボードを取り上げ、素早く文字を消した。その隙に安永と玉木がルギーを抱えて行った。


 午前10時。4人は船に乗っていた。晴れた空に澄んだ海。

 素晴らしい景色を堪能しながら、安永は船首に立っていた。


 安「いやー、いい眺めだな!」

 船員「お客さん、危ないですって」

 安「大丈夫です。慣れてますから」

 し「あいつ、漁師の息子ですから」

 船員「そうですか。でも気を付けてくださいね」

 安「はーい」

 玉「イルカが見れるポイントはあとどれくらいかかりますか?」

 船員「そうだな、あと10分くらいですかね?」

 玉「楽しみだな~」

 し「ああ」


 安永、しげる、玉木の3人が盛り上がっている中、ルギーは一人船の中で具合が悪そうな顔をして寝そべっていた。


 安「ルギーさん、大丈夫ですか?」

 ル「うう・・・。気持ち悪い・・・」

 船員「おーい、イルカ見つけたぞー!」

 安「本当ですか?行きましょ、ルギーさん」


 安永がルギーを無理やり甲板へ連れだした。甲板に出て、海を見るとイルカの群れが飛び跳ねながら泳いでいた。


 し「おお、すげー」

 玉「いやー、これ野生だよな。おれこんなにたくさんイルカ見るの初めてだよ」

 安「ルギーさん、イルカですよ!あんなにたくさん、ほら、ほらっ!」

 ル「う、う、うげぇ」


 ルギーは船酔いで海に吐いてしまった。


 午後1時。イルカウォッチングを終えた一行は天草空港に集まっていた。

 船酔いから回復しきれていないルギーが青い顔をしながら、ホワイトボードに行き先を書いていた。

 数分後、ルギーは行き先を書き終えた。


「じゃ、次の行き先はこちら」

 ホワイトボードを見せるルギー。


 1.壇ノ浦の戦い 下関

 2.もう帰りたい 静岡

 3.もう一度観光 東京

 4.南の楽園 喜界島

 5.うどんが食いたい 香川

 6.北の国から 札幌


 し「なんで、あぁたは6を書くの?」

 安「4の楽園は興味ありだね」

 ル「4はやめろ」

 安「なんでですか?」

 し「船だよ、たぶん。じゃなんで書くの?」

 玉「おれ、うどん食いたいな」

 安「俺も食いたいね。狙いは5だね」

 ル「次は誰が振る?」

 玉「ヤスケン、リーダーって振ったから、俺ですね」

 ル「じゃあ、玉木くんいってみよう」


 ルギーは玉木にサイコロを渡す。


 ル「何が出るかな、何が出るかな?それはサイコロにまかせよ」

 玉「5出ろ!」


 玉木が気合いを入れて、サイコロを放り投げる。そして、出た目は、


 し「1か・・・。6じゃない分だけいいかな」

 ル「じゃ行こうか」


 4人は飛行機で博多まで行き、そこからJR鹿児島本線で下関に向かった。

 電車に乗っている間、安永と玉木が寝ているときにしげるがルギーに話しかけた。


 し「もう、『ルギーさん』って呼ばなくていい?」

 ル「だめだ」

 し「呼びにくいんだよ、ルギーって」

 ル「みんなは『ルギー』って普通に呼んでるけどな」

 し「それは他の人でしょ。俺はあぁたの甥っ子なんだから。いままで『徹おじさん』って呼んでたし」

 ル「それだと、ヤスケンと玉木くんが混乱するだろ」

 し「二人とも俺とあぁたの関係知ってるし、混乱しないよ」

 ル「それでもだめだ」

 し「・・・わかったよ。じゃじゃじゃじゃあ俺のこと『リーダー』って呼ぶのやめてよ」

 ル「いやだ」

 し「なんでだよ?」

 ル「それだと、ヤスケンと玉木くんが混乱するだろ」

 し「しないってば」

 ル「だって・・・『リーダー』・・・プププ・・・」

 し「このおっさん、面白がっているだけだ・・・。もういいよ」


 しげるはふてくされてそのまま眠ってしまった。ルギーは声を殺して笑っていた。


 3月22日午後5時。一行はJR下関駅に到着した。


 ル「えー、九州から本州に舞い戻りました。ここは本州の玄関、下関です」

 安「釜揚港よりはるかにデカイな」

 し「そうだな~」

 玉「都会だよな」


 小さな港町に住んでいる3人にとっては大きな下関の港は華やかに見えた。


 ル「ちょいと歩こうか」


 4人は下関を散策することにした。しばらく歩いていると、玉木が関門海峡にある小さな島を発見した。


 玉「あの島はなんだろう?」

 ル「ありゃ、巌流島だな」

 し「巌流島って宮本武蔵と佐々木小次郎が戦ったあの」

 ル「そう」

 安「スゲー」


 安永、しげる、玉木の3人は歴史の名所を目の当たりにして目を輝かせていた。


 ル「ちなみにアントニオ猪木とマサ斎藤も戦ってことあるけどね」


 3人はルギーの話のネタが分からず、冷やかな目でルギーを見つめた。


 ル「え、知らないの、猪木対マサさんの巌流島決戦?伝説の試合なんだけどな・・・」


 小一時間ほど散策した後、ルギーがいつものようにホワイトボードに行き先を書き始めた。

 10分後、ルギーは書き終えたホワイトボードを3人に見せた。


 1.くいだおれ 大阪

 2.今度も島 佐渡

 3.北の港町 函館

 4.温泉につかりたい 湯布院

 5.めんそーれ 沖縄

 6.いよかんうまい 愛媛


 玉「大阪いいね。お好み焼きとか、たこ焼きとか食いたいね」

 安「そうだね。でも、函館は生まれ故郷だから行かなくていいや」

 し「ヤスケン、函館出身なの?俺行ってみたいな」

 安「いいってば」

 ル「できれば、4がいいな・・・」

 し「温泉ってオッサンくさい」

 ル「俺はアラフォーのおっさんだよ」

 安「今度は誰が振るの?」

 玉「順番からしてヤスケンだね」


 ルギーが安永にすかさずサイコロを渡す。


 ル「何が出るかな、何が出るかな?それはサイコロにまかせよ」


 安永がサイコロを放り投げる。そして出た目は・・・。


 -----------------------------------------


 舞台は変わって、釜揚高校校長室。ブシドー教授が盆栽を手にとってまじまじと見ている。

 鈴井校長がおそるおそる見つめている。


「ブシドー教授、それ高いものですから、慎重に扱ってくださいよ」

「ハイハイ、ワカリマシタ。ソレニシテモ、スバラシイ・・・アッ」

「おーっと、危ない」


 ブシドー教授が盆栽を落としそうになったところを鈴井校長が間一髪盆栽をキャッチした。


「さて、『釜揚サイコロの旅』も第2夜。博多から天草、下関へと移動した一行。

 はたして、安永の振ったサイコロの行き先はどこなのでしょう?

 次回は一行が異世界に迷い込みます。お楽しみに!」

「鈴井校長、コノ盆栽、ウィーンニ持ッテ帰ッテモイイデスカ?」

「だめですって、それは私の宝物で・・・」


 急いで盆栽を隠す鈴井校長。


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