8.脳筋少女、見守る。
少女は商人に聞いてみます。
「ねぇ、どうかしら? この人達を雇ってみない?」
「そうですねぇ……。確かにそろそろ1人で行商するのは大変になってきたのですが……」
「今ならお得よ!? 労働力3倍! 厳つい顔の護衛! 計算の得意な?会計! 手先が器用な雑用係!」
「オイ」
盗賊Cがツッコミます。
しかし少女は必死のアピールで気づきません。
商人は困ったような顔をしました。
普通なら、自分を襲った盗賊なぞ町の警邏隊にでも引き渡して終わりです。
しかし、この商人は良い人でした。
盗賊達の境遇、それに初犯ということもあって、これから心根を入れ替えて働くのであれば、雇ってもいいかなと考えました。
だけど、問題が1つあるのです。
「心根を入れ替えて働く、というのなら雇ってもいいかなと思います。だけど……」
「!!? 本当か!? 雇ってくれるのか!?」
盗賊Aが食いつきます。
盗賊Aの勢いに商人は少し後退りました。
その様子に盗賊Aはハッと我に返ります。
「す、すまねぇ。脅かすつもりはなかったんだ」
「いえ、構いません。しかし、3人も雇う余裕は私にもないのです。頑張って2人です。……すみません」
「!!? 何言ってるんだ! 雇ってくれるというだけでもありがたい! い、いやその前に謝罪をしなければなんねぇな……。いくら生きるためとはいえ、他人のものを盗ろうとするなんて……本当に、本当に悪かった」
盗賊Aは商人に土下座します。
それを見た盗賊BCも次々に謝ります。
「すみませんでした!!」
「俺達が間違っていました!」
土下座する盗賊達に最初ビビった商人ですが、真摯に謝る姿にこれなら改心出来そうだと思いました。
「謝罪を受け入れましょう。
どうぞ、立って下さい」
度量の広い商人に、盗賊達はもう1度だけ謝罪してから立ち上がりました。
「それで、先ほどの件なんですが……」
「あぁ! 2人って話だったな。それならどうかコイツらをお願い出来ないだろうか」
「お頭!?」
頭を下げる盗賊Aに、盗賊BCが慌てて待ったをかける。
「それをいうなら、オレなんてひょろ長いだけなんで、是非お頭と弟をお願いします!」
「アニキッ!? いやいや俺なんて雑用係にしかなれないから! お頭は腕っぷしが強いし度胸もある。アニキは頭の回転が早くて計算も得意だ! 絶対この2人がいい」
お互いに譲り合う盗賊達を見て、商人はますます困りました。
3人が3人ともお互いを大切に思っていることがわかったからです。
もう無理矢理切り詰めて3人とも雇ってしまおうか、と思った時──
「話はわかったわ」
今まで黙っていた少女が、口を挟みました。