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36.脳筋少女、噂の天才剣士と決着をつける。


「マジか」


 盗賊Cは、あまりの展開になんと言っていいのかわかりません。

 少女は、賭けの胴元に近寄ると、言い放ちます。


「私が挑戦するわ。合図して」

「お、おい! まてまて、嬢ちゃん! 本気か!!?」


 少女は、困惑する賭けの胴元を置き去りにして、天才剣士の少年に向かって駆け出していきました。


「あーもー! どうなっても知らんぞ!? 始め!!」


 開始の合図に戸惑うように立ち尽くす天才剣士の少年。

 そんなことはお構い無しの少女は、最初から全力の右ストレートを放ちます!



ガキィン!!



「はぁっ!?」



 反射的に剣の腹で受け止めた天才剣士の少年は、ものすごく困惑した顔つきで声を出します。

 今、明らかに金属と拳がぶつかったにしてはオカシイ音がしました。

 しかし少女は止まりません。

 次は左ストレートを放ちます。



ドゴォァァァッ!!!



 今度は避けた天才剣士の少年。

 少年の後ろにあった、この街のえらい人の像が粉砕されました。

 ここにきてやっと周囲の観客も少女が普通ではないことに気がついたようです。ざわつきが大きくなります。


 賭けの胴元などは、サッサと賭けの準備をすませ、どちらに賭けるのか声を張り上げています。

 盗賊Cは、思わず少女に賭けてしまいました。


『どちらが勝つと思う?』

「お嬢が負けるところが想像出来ない……」

『確かに』


 二人がそんなことを話している間も、少女たちの試合は続きます。




 天才剣士の少年は、今のところ防御に徹しています。やはりどんなにオカシイ少女でも、武器も持たず、防具も着けていない少女には、攻撃しづらいみたいです。

 しかし、少女はそんなことには気を使いません。

 攻撃を畳み掛けていきます。



ギィン!


ガキンッ!!



 少女の攻撃の重さに、少年はたまらず叫びます。



「キミ、人間じゃないの!?」



 天才剣士の少年が少女に向かって問いかけます。“気持ちはわかる”と盗賊Cは、うんうん頷きます。


「失礼ね! どこからどうみても普通の女の子じゃない!」


 少女は、憤慨したような顔で、少年に更なる攻撃を仕掛けます。

 ……どうやら、少女は自分のことを普通の女の子だと思っているようです。

 普通の女の子の定義が揺らぎそうです。


「……お嬢は、一度医術師にみてもらったほうがいいな」

『うむ。同感だ』


 盗賊Cとクロが、こそこそと話し合います。

 天才剣士の少年は、少女の攻撃を受け止めながらも、理解不能な生物を見るような目を少女に向けます。


「なんなの、キミ。意味わかんない」

「私は、私よ! あなたの勝手な“物差し”で計ろうとしないで!」


「……っ!!」



ガギィン!!!



 今までで一番重い音がしました。

 天才剣士の少年の手から、剣が弾き飛ばされます。

 観客は静まり返り、二人の息づかいだけが広場に響きます。



「わかった? 私は、普通の女の子よ」


「……わかった。降参だ」



 少年が負けを認めた途端、わぁっと歓声が沸き上がりました。


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