27.脳筋少女、第1の町へと戻る。
さて、あとは町へ帰還するだけですが、村が見えなくなったところで、クロがある提案をしました。
『ちまちま歩くよりも、我に乗っていけば早いのではないか?』
仔犬姿が可愛いので、すっかり忘れていましたが、クロの本来の姿は体長五メートルくらいです。
この提案に、少女はとても喜びました。
早速元の大きさに戻ってもらいます。
元の大きさに戻ったクロは、二人を乗せたとしても全然余裕のある大きさです。
『なんだか久々に戻った気がするな……』
クロはうにー!と伸びをします。
「大きいモフモフもいいわね……」
「確かに。ツヤツヤサラサラの毛が気持ちいいなぁ」
少女と盗賊Cはクロに乗る前に、モフモフしたり、ブラッシングしたり、さらにサラサラになった毛をなでなでしたりします。
『……いい加減に乗ってくれ』
しびれを切らしたクロに乗ってくれと言われるまで、二人はモフモフし続けました。
乗ってからは早いです。
風を切るように走るクロは、風景をどんどん置き去りにします。
最初にかかった半分以下の時間で一行は町まで戻ってこられました。
まだ遠いですが、夕焼けが町を照らしているのが見えます。
「凄いな……もう着いたぞ!」
『うむ! 我に掛かればこんなものだ!』
歓声を上げた盗賊Cに、クロはドヤ顔で胸を張ります。
その得意そうな顔が可愛かったので、少女と盗賊Cはニヤニヤしながら思い切り撫でて誉めてあげました。
これ以上クロに乗っていくと町が大騒ぎになってしまうので、少女たちはここで降ります。
町へと向かって歩きながら少女は言います。
「じゃあ、今日は町に入ったら宿屋に泊まって、明日の朝に依頼の品を届けましょう」
「今日じゃなくていいのか?」
盗賊Cは「早い方がいいんじゃないか?」と首を傾げます。
少女は首を振り、空を指差します。
空は、町へと歩いている間にそろそろと夕日が落ち、星が瞬き始めています。
「明日でいいのよ。だってあの子、夜寝るの早いんだもの」
「子供か」
盗賊Cは思わず突っ込んでしまいました。
***
「おやっさーん! 帰ってきたわ。泊めてちょうだい」
一行は“踊る筋肉亭”へとやってきました。
今回は盗賊Cが開けたので扉は無事です。
「おぉ! お嬢ちゃん、帰ってきたか!!」
少女の声が聞こえた筋肉が暑苦しく叫びます。
ちょうど夕食時なので、一階の食堂はほぼ満席です。
がやがやとした食堂を抜け、ガシッと腕を組みます。何度見ても暑苦しい挨拶です。
「泊まれる?」
「おう。大丈夫だ! 良かった、無事だったんだな」
多少暑苦しいですが、宿屋のおやじは良い筋肉です。
無事に帰ってきた二人に、素直に喜びます。
「あ、お姉ちゃん! お兄ちゃん! 帰ってきたんだね」
そして、混雑している食堂で忙しく働いていた看板娘が二人に気付きます。
パタパタ駆けよってきた看板娘が、少女の足下にいるクロに目をとめます。
そして、どんどん瞳がキラキラしてきました。
「お姉ちゃん、その仔どうしたの!?」
筋肉の遺伝子が入っていても、やはり女の子です。モフモフが気になるようです。
「あぁ、私のペットよ」
「!! つまり家来ね!?」
「だからなんでだ」
またしても既視感のあるやり取りです。
盗賊Cはこの子の頭が心配になりました。
やっぱり筋肉の遺伝子に侵食されているのでしょうか。
しかし少女は気にしません。
「この仔も一緒でいい?」
「うん、いいよ! あ、ただ足は拭いて、トイレは外でお願いね! ご飯はどうすればいいかな?」
「お肉でいいんじゃない?」
なんとも大雑把です。
不安になった盗賊Cは、こっそりクロに聞きます。
「クロは何食べるんだ?」
『我はなんでも食べるぞ』
盗賊Cは頷くと、少女たちに向き直ります。
「クロは何でも食べれるので、俺たちと一緒のものを出してくれ」
「あれ? そうなの? わかった! じゃあ準備が終わったらお部屋に持ってくね」
看板娘は元気よく返事をすると、部屋の鍵を渡してから仕事に戻りました。
~そして夕食~
『な、なんだこの料理は! すごく美味いのだが!』
「そう、ここの料理はすごく美味しいんだ」
『我が今まで食べてきた中で、一番だな……』
どうやらクロもおやじの手作り料理の虜になったようです。
「ただな……この料理を作っているのは、あのオヤジなんだよな」
『!?』




