24.脳筋少女、魔獣を○○する。
不穏な気配に振り向いた少女と盗賊C。
背後には、真っ黒な狼の魔獣がおりました。
体長約五メートル。
夜の闇より黒き毛並み。
力強いしなやかな体躯。
人間など簡単に引き裂けそうな大きな爪。
王者の風格をたたえた漆黒の巨狼です。
『我が領域に踏み込む愚かなる人間共よ。何故この場所へ来たのだ』
地響きのような声。
ちっぽけな人間では勝てないと思わせる、圧倒的な存在感。
盗賊Cはゴクリと唾を飲み込みました。
まさか、ここまで大物だったとは。
巨狼が、唸りながらこちらへとやって来ます。
ゆったりと……まるで、こちらを嬲るかのように。
『グルルルルル!!』
威圧感が、全身を軋ませます。
呼吸が、浅く、早く、なっていき、胸を圧迫します。
勝てない。
逃げなければ。
しかし体は思うように動きません。
あぁ、どうすれば!
そう思った時──少女が、飛び出します!!
「お座りぃぃい!!!」
ドゴァ!!!
『キャイン!』
「…………」
………………。
な、なな、なんということでしょう!
少女は黒狼の頭をぶん殴って“お座り”させます。
この光景に、盗賊Cは顔を盛大にひきつらせ、ドン引きしました。
『ちょ、ちょっと待っ──!』
「伏せぇぇぇぇぇ!!!」
バキャァァアア!!
さらに流れるように拳で一発殴ります。
伏せというか全身叩きつけられているだけというか……黒狼は“伏せ”をさせられます。
一瞬前まであった緊迫感は、もう何処にもありませんでした。
盗賊Cは大きく息をつき、脱力しました……。
***
このあとも、少女による調きょ……躾が続きます。
“お座り”
“お手”
“伏せ”
一時間もしたときには、黒狼は……ただのワンコになっていました。
「よし、こんなものね」
少女はやりきった笑顔で盗賊Cを振り返ります。
盗賊Cはどういう反応をすればいいのかわかりませんでした。
「えーと、なんだ……実績っていうのは……」
「もちろん。犬の躾よ」
「……」
盗賊Cはもうどこから突っ込めばいいのか、わかりませんでした。
「犬って自分の上位には従うのよね。だから、どっちが上かわからせればいいの」
「…………」
「今回はちょっと手こずってしまったわね」
「………………」
盗賊Cは、もう、何を言えばいいのか……わかりませんでした。




