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ある日の魔法猫

作者: 猫屋敷十夜

 多くの魔法使いには使い魔がいる。それはただのスタイルや趣味だけではなく、魔力の安定や情報収集などサポートが主な役目だ。そして、その相手として猫が選ばれる事が多い。理由としては昼夜を問わず活動できる事、音を立てずに歩くなど情報収集に向いていた。人語を解し、時には話す彼らは魔法猫と呼ばれる。

 それでも猫は猫。いつもは日だまりで昼寝をしているなど普通の猫と何ら変わりはない。人語を話す事はできても普段はニャーと鳴くので一般の人間には区別がつかなかった。

 そんな魔法猫たちが主人の側を離れる日が月に二度ほどある。猫集会と呼ばれる魔法猫たちが集まる夜だ。新月や満月は魔力が強くなり、魔法使いにとっても重要な日なので、サポートする魔法猫たちも忙しい。そのため丁度その真ん中である半月が集会の夜に選ばれていた。

 今日は半月。これから、どんどん丸く太って満月に向かおうとする途中。魔法猫たちは主人から離れて集会所へと向かった。


 日が沈むと魔法猫たちが次々と集会所に集まってくる。ここは木の洞に出来た魔法空間。大昔に大魔女が自分の使い魔のために作ってくれた別荘だと言う言い伝えだが、今は本当のところを知る猫も居ないし、それを気にする猫もいない。ただ猫には心地よい空間なので、ずっと利用している。

 この猫集会、元々は魔法猫の役割の一つ、情報収集の一環として情報の交換をすることにある。だが、ただお菓子を食べたり、別の主人のもとにいる兄弟と顔を合わせる場所で会ったり、愚痴を言い合う場所であったり、自宅ではゆっくりできないので昼寝する場所であったりして、情報収集はそのついでのようにしか見えなかった。それでも時にはご主人さまへの大きなお土産話を拾えることもある。そのため余程のことが無い限り、魔法猫たちは出席し、主人である魔法使いたちもそれを望んでいた。


 ――今日は大した収穫話はないようだ。

 そんなことを思いながらお茶を飲んでいた時、知り合いの魔法猫が主人に殺されたという話が耳に飛び込んできた。魔法使いと使い魔は特別な絆で結ばれている。普通なら主人と使い魔が互いを害することはない。それが殺されたとは……。

 話題になっている知り合いだった猫は自分より若かったが、強気で、それなりに強い力を持っていた。同じく彼の主人だった魔法使いもこの辺りではかなり強い魔力の持ち主で有名な一人だ。なおも詳しい話を求めると、魔法猫が死んだ原因はその主人の巨大化し過ぎた魔力に耐えきれず、消し飛んでしまったと言う。どうもその主人がヤバイものに手を出したのだとか。そのヤバイものが何なのかはまだわからないらしいが放置しておくわけにはいかないもののようだ。そして、その原因となった魔法使いは魔法猫と一緒に死んだとか、強い魔力に包まれたまま彷徨っているとか、そちらもハッキリしていないようだ。

 きっと、この話を聞いた何人かの魔法使いがそれを調べに行くだろう。下手に弱い魔法使いが興味本位で近づいて仲間の猫が危ない目にあわなければいいな、と思う。


 魔法使いの使い魔には猫以外もいる。代表的なところはフクロウやカラスと言った鳥類。猫が鳥を襲うからというわけではないが、種族が違うのでこの猫集会にはやってこない。彼らからも一緒に情報を得られる場所が持てたらとも思うが、そこは猫、積極的には行動を起こそうと言う気は起こらなかった。


 今度はドラゴンを使い魔にしている魔法使いの話が聞こえてきた。

 種族的にドラゴンの方が魔法使いたる人間よりも古く、強い存在だ。そんなものを使い魔にする魔法使いなど、どれだけ恐ろしい存在なのだろうか。先程の使い魔殺しをした魔法使いのようにヤバイ事をしでかすのではないだろうか。猫たちに動揺が走る。強すぎる力を心配する仲間たちの気持ちはわかる。だが、自分は彼らの事を知っていた。

 ドラゴンは強い、もちろん魔法使いよりも。知り合いの二人の場合、ドラゴンは使い魔というより若い魔法使いを見守っているようなものだと仲間たちに教えてやった。魔法使いもまだ駆け出しで魔女に師事している程度なので心配する事は無い。自分はこの集会所の中では古参の方なので仲間たちは信じて、安心したようだ。これで他の魔法使いたちも彼らに無用な警戒をしたりはしないだろう。

 そう、あの男はまだそんな強力な魔法使いでは無い。ドラゴンが側に居るので一見強そうだが、そう見えるだけ。けれど、いつかはドラゴンに見合うだけの魔法使いになるだろうと自分は思っている。


 夜明けを待って主人の待つ自宅へと戻った。

 家の中に入ると一人の男が手を上げて朝の挨拶し、頭を撫でてくれる。笑う口元には鋭い牙が見えていた。人型になってもコレは隠せないらしい。扉が開いた奥の部屋にはまだ爆睡している青年の姿が。この二人が例の魔法使いとドラゴンだ。寝ている方が魔法使いで、頭を撫でてくれたのがドラゴン、二人ともこの家の居候である。

 なおも奥に進むと暖炉の前で揺り椅子に腰を掛けて編み物をしている老婆がいる。猫の姿を見つけると、その手を止め、「お帰り」と優しい笑顔を向けてくれた。猫はそれに答えるように小さく鳴くと老婆の膝の上に乗る。集会所の居心地も悪くはないが、やはりここが一番落ち着く。


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