第9話 大切な人
気が付くと、オレはベッドで寝ていた。辺りは既に暗くなり始めていた。
「起きた?浩太郎君」
ミネルバがオレのベッドの横に座っていた。
「具合はどお?」
オレの鼻のてっぺんには絆創膏が張られていた。胸の怪我にはガーゼが当ててあった。
「手当してくれたの?」
「ごめんさない。私、火薬の量を間違えちゃった。」
ミネルバが申し訳なさそうな顔で、謝ってくれた。
「別に大丈夫だよ。逆にミネルバのお守りのおかげで助かったんだから。ありがとね」
オレは辺りを見廻す。
テーブルの上には、スカイホークのプラモデルが置いてあった。元の三十二分の一スケールに戻っていた。
コックピットのキャノピーと射出座席がなくなっている・・・・・・。
そうか、オレが脱出したから・・・・・・。
「天地は?」
「さっき自分の家に帰ったわ。明日、また来るって」
天地・・・・・・無事だったんだな。よかったよ。
ボーとしていた、頭がハッキリしてきた。ミネルバと一緒に居間へ降りた。
居間の中に違和感があるような気がする。
オレの前のテーブルを囲んで、四人座っている。戦闘服から着替えていた。ん?四人?一人多くないかい?
オレは目を擦ってみた。まだ寝ぼけているのかも。
ミネルバ。
吉祥天さん。
ドイツ陸軍戦車兵のジャスティスさん。
やっぱり一人多いぞ。幽霊ではない。だって見た事ある人だから。
その人はどっから、どう見ても香山さん所の梨香ちゃんだ。着ている服はキャビンアテンダントなんて凄くマニアックなバージョンだ。どっから持って来たんだ?それにまた、なんて人形を使ってやがる。今度はどこぞの女神様だよ。いい加減もう、驚かねえぜ。
「ミネルバ、そちらの方は?国民的なお人形さんに入ってらっしゃるようだけど」
「アマテラスさまです。神界評議会議長です。私の長です」
また、仰々しい肩書きの女神が来た。
「アマテラスです。宜しく」
「こちらこそ、御影浩太郎です」
一応握手する。
「この度は御迷惑をお掛けしました。あなたのお陰で、最悪に事態は回避できました。議会の代表として、お礼申上げます」
アマテラスさんが礼を言う。彼女は終始、笑顔で応対してくれている。その笑顔は何と言うか・・・・・・作り笑顔に見えて仕方がない。
オレはいやな予感がして来るのを感じた。
「我々はこれで引き揚げます」
「やっと静かになるんだな」
「そうです、あなたは今まで通りの生活に戻れます」
オレのいやな予感は、どんどん増幅している。今まで通りってのが気になる言葉だ。今まで通りになんて戻れないぜ。
「最後に私に出来る限りのお礼として、ひとつだけ、願いを叶えましょう」
アマテラス・・・・・・そう来たか。最後ね。やっぱり、最後なんだ。ならば利用させてもらおう。
「じゃあ。二つ叶えてくれ」
「えーっ?」
「浩太郎君」
「御影君」
女神たちは驚いた。
「いいでしょう。一つ目は何ですか」
間違いない!このアマテラスってヤツ・・・・・。
オレはアマテラスの可愛い目を睨む。設定は小学五年生らしいが、女神が中に入るとオレより年上に見える。大体、元の人形だって年齢不詳だけどな。
「一つ目は・・・・・・」
女神たちの視線がオレに集まる。それを意に介さず、アマテラスを睨む。
「オレの記憶を消すな!」
言い終わると同時に、オレは腰から、ベレッタを抜く。
アマテラスの愛らしい顔に突きつけた。国民的人形に銃を突き付けるのはさすがに辛い。けど、オレの意地は通させてもらう。
「オレは知ってる。記憶を消し、“無かった事にする”・・・・・・だから貴様は二つ叶えても良いと言った!違うか?」
「浩太郎君?それはまさか・・・・・・」
ミネルバ・・・・・・その通りだよ。君がオレの体に入った時、オレが知ってしまった事だ。
ミネルバの悲しい気持ちの中を覗いてしまった時のことだ。
「御影さん。銃を向けては“願い”ではなく“脅し”となりますよ」
アマテラスの目が細くなる。
「どう思われても構わん。オレにとって望みの結果なら」
アマテラスからの返事は無い。さらにオレは続ける。
「オレの記憶、この三人の女神に出会ったことは、オレの大事な思い出だ。それを消す事は、オレにとって 彼女たちが居なかった事になってしまう。そんな悲しいことはまっぴらだ!オレは彼女たちが友達で、大切な人たちだから、命がけで護ったんだ!死にそうになっても怖くなかった。大怪我をしても耐えられた」
「浩太郎君」
ミネルバたちが固唾を呑んで見守る。
「もうひとつの願いは・・・・・・ミネルバとの魂のワイヤーを切ってくれ」
アマテラスはオレの方を向く。ミネルバは巻き込みたくない。
オレはベレッタの撃鉄を起こした。
「アマテラスさん。お願いだ!記憶を消さないで欲しい。頼む!」
アマテラスを睨む。アマテラスは答えない。
「どうしても記憶を消すなら・・・・・・」
オレはベレッタの銃口を自分のこめかみに押し当てた。
「アマテラスさん。あんたの記憶を消す魔法が早いか、オレの引き金が早いか勝負しようぜ・・・・・・」
記憶を消されるのは死んだと同じだ。また一人にはなりたくない。オレは指先に力を込める。ミネルバと別れるくらいなら・・・・・・。
「だめです。ワイヤーは切らせません」
ミネルバがオレにしがみついた。彼女は泣きながら話す。
「私はもう、離れたくありません。魂は共にあります。私は、浩太郎君とは来世で結ばれようと思います・・・・・・」
「ミネルバ・・・・・・そこまで・・・・・・」
アマテラスは困ったように言う。
オレはアマテラスを睨み殺す勢いだった。
「アマテラス様。私からもお願いします。御影君は絶対に退きません」
「アマテラスさまー御影さんのー気持ち、汲んでくださいな」
吉祥天さんとジャスティスさんが援護してくれた。
アマテラス・・・・・・どうだ!
「御影さん。負けました。一つ目の願いを叶えます。二つ目・・・・・・魂のワイヤーはそのままのほうが良さそうですね」
アマテラスがオレの頼みを聞き入れてくれた。
ミネルバがあーん、あーんと声を出して泣いている。
オレはベレッタの撃鉄を戻し、テーブルの上に置いた。
「御影さん。私からお願いがあります。」
アマテラスは笑顔になり、オレに言う。
「お願いとは、何です」
「もう、命を粗末にするようなことは絶対にやめてください。あなたは呪文を唱えるより、引き金を引く方が早い事を知っていてやりましたね」
バレてた。それを知っていたから、この賭けに勝てたと思うが。
ばっちーん
突然オレはミネルバに頬を叩かれた。
「バカ浩太郎!死んだら約束なんて守れないでしょ!」
「そーだったな。すまん」
オレは素直に謝った。
ミネルバは、オレの胸の中で泣いている。
なんて、話かけたらいいかわからない・・・・・・。
すまん、悪かったよ。ミネルバ。
アマテラスは浩太郎と会って、話してわかった。悪魔を倒し、邪神を葬る事が出来た理由を。
「ジャスティス殿・・」
「アマテラス様、どうかしましたぁー?」
「ジャスティス殿が言った通りでした。彼は優しくて、ハートが強い人ですね」
「そうですねえー私たちの敵じゃなくてよかったでぇーす」
アマテラスはテーブルの上に置かれたプラモデルを見つめていた。
戦闘機・・・・・・。
「カルコースの運命は、ミネルバに手を出した時点で、既に決まっていたのかもしれません・・・・・・」
人間界・・・御影さんを巻き込んだ時点で・・・・・・。
未だ、戦乱の世である神界では、魔力、剣、盾、矢、そしてプライドとの戦いです。神話時代から変わる事無く。
人間界の戦いは凄まじい進化をしている。私たち神や悪魔が追い付けない位に。だから・・・・・・・。
「カルコースが勝てる訳が無い・・・・・・」
ジャスティスの報告はにわかに信じがたかった。
一瞬のうちに『ズールーの門』を破壊した。
最強といわれた『イージスの盾』を紙に穴を開けるが如く、たやすく打ち破る。
音より早く飛び、カルコースを仕留めた。
神界の神々の力を持ってしても不可能な事を。彼らはやってのけた。
アマテラスは、思案する。
「もしかして、御影さんと天地さんは自分たちが圧倒的に有利なのを知っていて、カルコースに戦いを挑んだの?」
むしろ、ミネルバを傍に置いていたほうが良いかも知れない・・・・・・。
一番恐ろしい人は御影さんかな?・・・・・・。
「みんな、夕御飯にしましょう。平和が護れたお祝いを」
ミネルバに笑顔が戻った。オレはその顔を見てやっと安心することが出来た。
ミネルバの提案にオレが答える。
「ピザでも頼むか?」
人数がいるし、正直安心して腹減った。
「シーフードお願い!」
「アップルパイもお願いしまーす」
「私コーラ」
「チキンも忘れずに」
みんな詳しい。オレは以前から疑問に思っていた事をミネルバに尋ねた。
「なあ、神界でも、ピザ食べられるのか?」
「そうよ、ピザくらいあります。電話一本で配達してくれます。」
どこも一緒だな。
俺たちはたらふく、ピザを食べた。そして・・・・・・。
「御影さん。そろそろおいとま致します。」
アマテラスが帰ると言い出した。
「私も帰るわ、ミネルバ元気でね。」
「吉祥天、いろいろ・・・・・・有難う」
ミネルバは名残惜しいようだ。
「また、会えるんだろ」
「そうね」
吉祥天さんが笑顔で答えてくれた。また会えるだろう。
「御影さーん。ミネルバちゃんをお願いね」
「ああ。任せとけ」
ジャスティスさん。有難う。
ミネルバ、吉祥天さん、ジャスティスさんがひっしっと抱き合う。
「みんな有難う。」
「ミネルバ」
「ミネルバちゃん・・・・・・」
しんみりしてきたな。
ふとアマテラスがオレに近寄ってきた
「御影さんにひとつ言い忘れた事がありました」
「えっ?何ですか?」
オレはドキッとした。まだ、何かあるのか。この女神さんは。
「御影さんの霊感が強い訳は、あなたの遠いご先祖様に、神様と結婚した人か居ます」
「なんだって・・・・・・」
「遠い先祖様です。あなたはその子孫です。血を受け継いでいます」
そうなのか・・・・・・そんな事があるのか。
「御影君、言ったでしょ。女神と人間は結婚できるって。神話の時代から、そんな人たくさんいるわ」
吉祥天さんがそう言うと、三人の女神は眩い光に包まれ、消えた。
その場所には三体のフィギュアが残されていた。
「帰っちゃいました・・・・・・」
残ったミネルバの一言
「ああ。静かになったな」
「二人きりですね」
「ああ。そうだな」
ミネルバがオレに向き合った。
「ふつつか者ですが、宜しくお願いします。」
「ああ。こちらこそ」
オレはそんな返事を返すだけでいっぱい、いっぱいだった。




