第7話 プールで息抜き
今週は平和そのものだった。カルコースはオレ達を襲っても来ない。逆に不気味だ。何か企んでやがるのか?それともヤツらは諦めたか?だとしたら、良いのだけれども。
カルコースは全く持って行方知れず。公開捜査にした方がいいんじゃねえの?もしくは超能力捜査官に透視して貰うとか。まあ、女神さん達の能力でも見つからないくらいだから、無理かな?
「ジャスティスの偵察衛星」も反応無し。
ただ、ジャスティスさんの話では、カルコースは間違いなく活動を開始してるとの事。微弱な魔力が観測されている。油断はできない。
いつ、カルコースが現れるか?と緊張している・・・・・・が、ずっと緊張しているのも、正直疲れていた。
オレの怪我は殆ど完治していた。もう痛くない。
ジャスティスの偵察衛星がカルコースを見つけるまでは、待機状態だ。
女神様たちは、緊張感を楽しんでいる。さすが、戦い慣れしているな。
夏休みに突入して3日目。一本の電話がミネルバの携帯に入った。女神仕様の携帯電話って、一般の電話回線に接続可能なの?
「もしもし?・・・・・・あっ!美咲ちゃん。・・・・・・うんそうね・・・・・・みんなに聞いてみます。・・・・・・じゃあ、あとで・・・・・・バイバイ」
ぴっと電話を切った。ミネルバの携帯も変わったデザインだった。それは円筒形の物で、大きさは印鑑程度。ぴろぴろと電話が鳴ると大きくなる。丁度缶コーラ程度の大きさまで、大きくなる。大きくなったら、二つに分離する。分離した片方は耳へ、片方は口へ。丁度、糸電話で話すような感じになる。使い易いのかな?オレは使い易そうに見えないのだけども。
「浩太郎君。美咲ちゃんが、みんなでプールへ行こうって。どうかな」
「あーっ!行く、行く!行きたい!」
吉祥天さんが両手を挙げて、ぴょんぴょん跳ねている。
「プール?いいですねぇー」
ジャスティスさんも乗り気だ。
まあ、いいか・・・・・・『ズールーの門』が出現する気配がないから、少しぐらいの息抜きは大丈夫か・・・・・・・。
「じゃあ、みんなでいくか!」
一時間後オレたちは遊園地の入り口にいた。ここで待ち合わせ。
美咲と、悠理が来た。そして、天地。全員集合した。
ちゃちゃっと着替えてプールへドボン!
男の着替えは早くていい。
天地と五十メートル自由形の勝負をする。ぶっちぎりでオレの勝ち。
頭脳勝負は天地に勝てないけど、体力なら自信がある。
俺たちが勝負していた頃、女性陣は水着になって出てきた。
オレと天地は驚いた。女神イコール美人という先入観は嘘じゃなかった。
特に気になる人は、当然ミネルバ。
ハイビスカスと思わしき花柄がプリントされた、白いビキニ。腰に布を巻いている。
「スカート付か!」
「これは『パレオ』っていうのよ」
ミネルバ、解説有難う。オレは女性の服飾には詳しくない。皆かわいらしい水着を着ている。
「それじゃー、いっぱい遊んじゃいましょー」
ジャスティスさんの掛け声でみんなプールへ飛び込む。
「ねえ!ねえ!ビーチバレーやろうよ!」
悠理の提案。
「負けた人はー一枚ずつ脱ぐのよー」
「美咲はワンピースだから、不利じゃない」
「美咲ちゃんやる気なの」
「私は。ウォータースラーダーやりたいな」
「私も行きたいです」
「ああっ!かき氷売ってる」
「おいしそう!」
「御影・・・・・・もう一度勝負しよう・・・・・・」
「ああ・・・・・・天地、正直、女どもには付いて行けない・・・・・・」
結局オレたち男どもはくたくたになるまで勝負した。
オレはベンチで休憩中。長いすベンチを独占中。天地は・・・・・・どっか行った。
オレの左隣にミネルバが座った。当然二人きり。
「・・・・・・どう?・・・・・・」
ミネルバの一言。
この“どう?”の一言には『可愛いよ』とか、『水着似合っているね』とか、『綺麗だね』とかオレに言って欲しいのだろうな。
このタイミングで『怪我はもう治った』とか『天地に勝った』とかボケかます程、朴念仁じゃないぜ、オレは。
「水着が似合っているね。可愛いよ・・・・・・綺麗だね・・・・・・」
オレは最大公約数みたいな言葉を発した。
「有難う・・・・・・嬉しいです」
ミネルバがオレの左腕に寄り掛かって来た。オレは心拍数が上昇するのが、ハッキリとわかった。
「迷惑でなければ、このままにさせて下さい」
オレの左腕から、ミネルバの体温が伝わる。暖かい。
何か、声を掛けなきゃと思うが、何を喋ったら良いかわからん。
オレは苦し紛れに、ミネルバの右手を取り、オレの左腕に添えた。
看護師さんが脈を測る行為をミネルバにさせた。
「すごい・・・・・・ドキドキしているのね・・・・・・」
「まあ、そう言うことだ」
オレの気持ちが伝わったと思う。
ここから、オレはどうすればいいんだ?緊張で思考が停止しそうだ。
なに話そうかな・・・・・・。
「ミネルバ、姉妹はいるのかい?」
ミネルバは首を横に振る。
「御両親は?」
また、首を横に振る。
「気付いたら、私一人・・・・・・名門とか言われるけど、そんな物残っていない。この名前だけ。その 名前のせいで、こんな事になってしまいました。」
ミネルバはうつむいた。
「オレを巻き込んだというのは、もうなしにしよう。今までオレを護ってくれてたんだろ。今度はオレの番だ。・・・・・・・ただ、今は楽しもうぜ」
全てがうまくいく自信がオレにはあった。でも、オレはもう痛いのは嫌だし、怪我だってしたくない。
まともにカルコースとやり合ったら、タダじゃ済まないと思う。だから、オレは力が足りない分、知恵を使ってヤツに対抗してみせる。
「・・・・・・うん。ありがとう・・・・・・」
それと、なんだ・・・・・・。
「あと、困った時はオレを頼ってくれていい。ミネルバに頼られるのは、嫌じゃない。遠慮しないでくれ!」
「・・・・・・うん。ありがとう・・・・・・」
ミネルバにそう言われて心地よい気分となっていた。
『そのまま抱きしめるのよ・・・・・・』
囁き声が聞こえる。きっとオレの心の中で、悪魔が囁いている。
『抱きしめて、キスよ・・・・・・』
悪魔が囃したてる。
『そしてぇー。押し倒しちゃうのぉー・・・・・・』
悪魔の囁き声が大きくなった。
『押し倒して、水着を脱がすのよ!』
おかしい。悪魔しか出てこないぞ。じゃなくて。皆、聞いた事のある声だ。
オレはゆっくり振り返る。美咲、悠理、ジャスティス、吉祥天が台詞の順に立っていた。
ミネルバの顔は真っ赤だった。だが・・・・・・。
「う、羨ましいんでしょ!あなたたち!」
ミネルバが開き直った。
「プールはねっ!男性と同伴じゃなきゃ来ちゃいけないのよ!」
ミネルバの一言で、気温は一瞬のうちに氷点下となった。
「浩太郎君!ウォータースライダーいきましょう!あなたたちはせいぜい女同士で楽しむことね!ホホホホホホ!」
ミネルバ・・・・・・そういうキャラじゃなかったろうに・・・・・・。
オレたちは目一杯遊んだ。楽しかった。
楽しい時間は、あっと言う間に過ぎてしまった。
名残惜しいが、オレたちはプールを後にした。
悠理と美咲とは、ここで解散。
こうして、楽しい一日が終了してしまった。
四人揃って家に帰ろうとした時、俺たちの前に天地が立ち憚る。
「なあ・・・・・・御影・・・・・・・聞きたい事がある。」
「どうした?天地」
天地が目を細め、オレを見る。
「そちらにいる、二人の女性についてだ!」
オレは予想もしない、天地の問いに対し驚愕した。天地は何か気付いてる?
「何か・・・・・オレが関っている重大な事が、あるような、ないような・・・・・・」
天地。
オレは、どう対処していいかわからん。
「天地さん・・・・・・あなたはやっぱり・・・・・・」
ミネルバが意味有りげな事を言う。
「魔法の掛かり方が弱いと思ったら・・・・・・」
吉祥天さんも・・・・・・。
「どうしたんだ?お前たち」
この顛末の回答は、ジャスティスさんが答えた。
「器のぉー『生みの親』である天地さんには、記憶魔法がかからないのねぇー」
オレの家に帰りついた。
女神三人と、オレと天地が居間でテーブルを囲み座っている。
オレは天地に全てを話した。
金縛りのこと。
ミネルバが現れたこと。
使い魔に襲われたこと。
悪魔と戦ったこと。
吉祥天さんが現れたこと。
ピザ屋の正体が地獄の番犬だったこと。
ジャスティスさんが現れたこと。
そして、人間界と神界が危機に晒されていること。
「なあ、天地。信じられないだろう。まあ、信じろって方がおかしいよな」
女神たちは天地の表情を伺っている。
「御影・・普通は信じる方が可笑しな話だ。だが・・・・・・」
天地は女神たちを見ながら天地が話す。
「俺が作ったフィギュアが動いているのを見てしまうと、信じざるを得ないな。」
天地はきっぱりと答えた。冷静な男だ。
「天地さん。お願いです。この事は、誰にも・・・・・・悠理ちゃんや美咲ちゃんにも・・」
ミネルバが胸の前で手を組み、天地に懇願している。
「ああ。誰にも話さない。大日向や瀧澤にも。その代わり」
「天地、その代わりとは何だ?」
俺は天地を睨む。ミネルバたちが、悲しむような事をしたら、いくら天地でも許さん。
「御影、世界の危機だろ、俺も加えろ!」
天地が俺を睨み返す。こいつ!
「御影。俺は、俺が作ったフィギュアに傷を付けようとする邪神をぶん殴りたい」
「天地」
「御影。売られた喧嘩は買うぜ」
女神たちは固唾を呑んで、見守っていた。
「全く、男ってぜんぜんわかんないわ」
吉祥天さんが沈黙を破る。
「天地君、あなたまで巻き込むわけには行きません。」
ミネルバが心配そうに見つめる
「そうですよぉー。これは、神界の不祥事ですからぁー。」
ジャスティスさんが天地の参加を拒む。が、オレは天地が参加を撤回するようには見えなかった。
「天地、一緒にやろうぜ」
「ああ。」
天地が加わった。実は参加してくれるとオレも心強いと思っている。正直な気持ちで。
「浩太郎君!どうして?」
ミネルバが異論を唱える。
「ミネルバ・・・・・・わかってもらえないと思うが、オレが天地だったら同じ事をしていたと思う・・・・・・」
オレは天地に作戦の内容を伝えた。
「作戦名称は、ラインバッカー作戦だ。」
「御影。この作戦の成否は、お前がその『武器』を使いこなせるかどうかだ。」
「そうだ。天地、もしかしたら、『武器』の方が、カルコースって神より手強いかもな。」
「浩太郎君。手強い武器って何?また無茶しようとしてない?」
オレの隣にいるミネルバが心配そうに問いかける。本当に心配しているんだな。ありがとうよ。
「御影。彼女に話してないのか?」
「いいや。話したよ。A‐4でワイバーンと共に門を破壊する。オレに任せろって。」
「まあ、それは聞いているけど、破壊ってどうやってするのよ?」
ちいっつ!吉祥天さん、鋭い突っ込みするな。
「そー言えばぁー。くわしいことはぁー聞いていませんねぇー」
「わーたよ。ミネルバが心配すると思って、言わなかったんだよ。ワイバーンにも口止めしていた。」
「浩太郎君!ちゃんと話して下さい。」
ミネルバが怒っている。
「御影さぁーん。ちゃんと話さないと、かえって心配ですよぉー」
オレは観念して作戦の全容を話す。
「ズールーの門が出現したら、女神三人がカルコースとその手下に陽動を掛ける。暴れるだけで、本気で戦わなくてもいい。」
「それは、前回も聞きました。浩太郎君はどうするの?」
ミネルバがプンプンしている。
「オレと天地がワイバーンと魔動具により実体化したA‐4でズールーの門を爆撃するのさ。」
「そのA‐4って何?」
吉祥天さんがイライラしながら聞いてくる。
「ようは、戦闘機を使って爆弾を門に落とすのさ。」
「戦闘機―?」
女神三人の美声のハモりは、いつ聞いても綺麗だ。
「オレの作った三十二分の一 ダグラス A‐4F スカイホークのプラモデルにワイバーンが入る。そして、魔動具を使い、実体化させる。門には、物理攻撃可能だろ?」
「そうですがぁー・・・・・・」
「戦闘機のスピードと爆弾搭載能力で、勝負を決める。」
「戦闘機って、手強いの?危ないの?」
ミネルバは戦闘機がどんな物か知らないみたいだ。
「A‐4スカイホークは、正確に言うと戦闘機じゃない。アメリカ海軍が艦上核攻撃用にに開発した艦上攻撃機だよ。小型で堅牢な機体はおのずと高性能が得られるって、設計主任エド・ハイネマンがその理想をつぎ込んだ機体だ・・・・・・・」
「御影!ストップ!ストップ!女の子たちが、引いている」
ちえっ!オレのプレゼンテーションはまだ、序章なのに・・・・・。ともかく、実体化させたスカイホークでズールーの門を破壊する。
「これを見るかい?」
天地がDVDを持って来た。気が利くのか聞かないのか、A‐4スカイホークが仮想敵機として模擬空戦で大活躍する映画のDVD。
再生してみた。全部見終わるまで、一時間三〇分掛かった。天地は途中で帰った。吉祥天さんとジャスティスさんはテーブルに突っ伏してスヤスヤと寝ている。
「浩太郎君。馬鹿なの?死ぬの?無茶よ」
と、ミネルバの一言。映画を見てかなり危ないとわかったんだろう。本気で心配しているようだ。
「ミネルバ、議論はなしだ。相手は強大な敵なんだろ。こっちにも、それに応じた覚悟が必要だ。」
「でも・・・・・・心配・・・・・・」
「大丈夫だ。オレに任せろよ、男が約束を破ったら、針を千本飲まなきゃならいからな」
オレはミネルバの頭を抱き寄せ撫でた。ミネルバおとなしくなった。
うまくごまかせたかな。
正直不安はある、身を削る戦いとなるだろう。だけど覚悟はあるし、怖くない。ミネルバたちを護らなきゃと思うと、恐怖や痛みの苦しさなんて吹っ飛んじまうよ。それだけ、大事なものを失いたくないと思っているのだろうな、オレは。
「ミネルバ、吉祥天さんと、ジャスティスさんを寝室へ運ぼう」
「そうね・・・・・・」
俺たちは二人をベッドに運んだ。
女神様が三人となったので、オレは三度寝袋となった。
おやすみなさい。
それから二日間、オレととワイバーンはスカイホークについて勉強会をした。オレの秘蔵の本や、ネットを駆使しして、ありとあらゆる情報を集めた。
頑張ろうぜ、三人の女神たちの笑顔を失ってしまわないように。




