第4話 校内戦闘
ミネルバが学校に通いだして一週間が過ぎた。あれから悪魔の使い魔の襲撃はない。
あいつら、意外にのんびりしているんだな。
ミネルバは仲良し三人組で、クラブ見学に行ったり、映画見に行ったりしていた。
ピンク色の髪の毛もそののまま。何処に居ても凄く目立つ。
どうやら瀧澤の話では、数人の男子学生から、告白されたそうな。彼女は彼らの話も聞かず断るらしい。そりゃ、彼女の素性があるからな、しょうがないよ可哀想だけど。
でも、ミネルバがこっちの世界に馴染んでいるようで安心した。最近は彼女に笑顔が多い。楽しそう。よかった。友達もいっぱいできたようだし。
相変わらず、早期警戒機妖精ワイバーンに上空からの監視を続けて貰っている。今の所異常なし。
今は学校で歴史の授業中。学生の本分は勉強だからね。真面目に授業を受ける。
隣の席に居るミネルバも真面目に授業を受けている。
浩太郎の隣で授業を受けていたミネルバ。
「人間の歴史って面白い・・・・・・人は同じ過ちを繰り返す・・・・・・」
私は教科書を読みながらつくづく思う。
今この時点では悪魔も事は忘れ、私は授業に没頭していた。
突然、私の頭の中でリン・リン・リンとベルが鳴り出した。思わず、
「うあ!」
と声が出てしまった。周りに気付かれてないかキョロキョロ見廻す。ちょっと恥ずかしい。
続けて頭の中に直接音声が入ってくる。
『ワイバーンよりミネルバ様。アラーム。敵補足。本体三。いや・・五!西側より接近中。距離十キロ。繰り返す・・・・・・』
ワイバーンからの敵発見の警報だった。私の胸の鼓動が高鳴って来る。
「十キロ・・・・・・すぐここ来る!」
私は居ても立ってもいられなくなった。すぐに行動を起こして、先手を取らないと!
「はい!はい!はーい!先生!」
右手を挙手し、立ち上がった。クラス中の注目を浴びているケド気にしていられないわ。浩太郎君は隣でびっくりしていた。
「なんだ。御影姉」
板書をしていた教師が振り返えって、私を睨んだ。申し訳ないと思いつつ、この場を離れて戦闘態勢に入る言い訳を必死に考えた・・・・・・そうだ!
「私と浩太郎君はお腹が痛いので早退します!」
クラスメート全員が『何言ってんだ?』と口々にしている。
もう、完全な緊急事態だから、私はさっさと行動を起こした。右手で浩太郎君の襟首をガシッと掴み引き摺りながら教室を出て行った。左手に自分の鞄を持って。これには色んなグッズが入っている、大切な鞄。
教室を出てミネルバはピシャと扉を閉めた。そして、オレの襟を離した。
「どうしたんだ?ミネルバ。藪から棒に」
「急いでここを離れます。悪魔が来ました」
と言い、オレに鞄を渡す。
「これを使って下さい」
オレは鞄を開け、中に入っている物を取り出した。
ベレッタM92F・・・・・・オレのサイドアームだ。
なんか、感触が変だ。エアーガンとは違う・・・・・・なんか、もっと重く、緊張感がある。
BB弾を確認しようと、グリップから、弾装を取り出した。
「九ミリ パラベラム・・・・・実弾?本物?」
オレは、ミネルバの顔を見た。どこで手に入れたんだ?これは完全に銃刀法違反だよ。
「魔動具を使って、浩太郎君のエアーガンを実体化しました。命の無い物は、魔道具で実体化できるようです」
そうなのか?
「もし、浩太郎君が命の危険を感じたなら・・・・・・躊躇わず使ってください」
「わかった・・・・・・」
ミネルバは胸の前で両手を合わせ、呪文をとなえている。
両手が激しく光ると『薙刀』が現れた。刃の部分が激しく輝いている。ビーム薙刀か?レーザー薙刀か?こんな物を出すとは、ベレッタといい、冗談ではないようだ。
しかも、手強い相手のようだ。
「裏の非常口から出ましょう。学校で戦いたくないです。」
オレも同感。
「了解」
俺たちは非常階段へ向って駆け出した。
時を同じくして、学校の校門。
五人立っていた。外見は人と呼べるものではない者も居た。一人は男のマネキン人形だった。おしゃれなカジュアル服を身に纏っていた。一人はハンバーガー屋のピエロの格好をしていた。一匹は木を彫った熊だった。口に鮭を咥えている。一人はチキンの店の店先に居るメガネのおじさん。最後は道路工事でよく見る安全太郎だった。
「目標は何処にいるかわかるか?」
マネキン男がたずねた。
「魔動具千里眼を使う・・・・・二階の廊下を走っている男と女二人見える。」
ピエロが双眼鏡にそっくりな魔動具を除き、答えた。
「気を抜くな!器に入った守護女神が三人居るはずだ」
マネキン男が指示を出す。
「我々悪魔だって器を得ると魔力が上がる。負ける訳ねえ!」
「そうだ、オレ達だって一週間かけて調査をしたんだ。実際に色んな人形に入って・・・・・・」
「くらえ!」
ピエロが叫ぶと野球ボール見たいな物体を投げた。投げた方向は浩太郎たちが向っている非常口階段。
オレとミネルバは非常口に辿り着いた。オレがゆっくり警戒しながら、非常口の重たい鉄の扉を開けた。ミネルバは浩太郎の肩に手を掛け背中越しに見守っている。
ギイイイと音を出しながら扉を開けて行く。オレとミネルバはこの音で敵に感付かれないか、ドキドキしていた。
「浩太郎君は逃げてください!今度の敵は使い魔ではなく・・・・・・」
扉を開ききった瞬間、野球ボールみたいな物が扉の外から飛んできた。ゴリアテだ!
オレの足元でワンバウンド。
オレは直感的にミネルバを後ろへ蹴っ飛ばした。
「ミネルバ!伏せろ!」
蹴っ飛ばされて廊下を転げ廻るミネルバ。オレの声を聞いて身を小さく固める。
バアアン!
と爆発。
ミネルバの上を爆風が流れる。音と衝撃でミネルバは気を失ってしまった。
一方、浩太郎は爆風で非常口から外に飛び出して二階から落下してしまった。
この時点で二人は離ればなれになってしまった。
浩太郎は花壇の中で蠢いていた。
先ほどの爆発で飛ばされ、二階から落ちた先が花壇だった。花壇の軟らかい土と草花がクッションとなって、怪我を間逃れていた。
「花壇に落ちてラッキーか・・・・・・くそっ、でも痛いぜ」
校舎から火災報知機のベルが鳴っているのが聞こえる。
浩太郎は素早く腰に忍ばせていたベレッタを取り出し、弾を装填する。
「ミネルバとは何処だ?早く見つけないと・・・・・・」
彼女のことが心配だ。
オレは周囲を警戒しながら一階の窓から校舎へ侵入した。
素早く移動し、柱と壁を背に低く屈む。両手で持ったベレッタの銃口は下に向けていたが、引き金には指を掛けいつでも発砲できる体制をとっていた。
「二階に上がるか・・・・・・」
ミネルバは二階に居るはず。目の前にある非常階段は、さっきの爆発で崩れていた。
一番近い東階段に行かなくては、二階へ上がれない。
「それにしても人の気配がしない・・・・・・」
学校で爆発なんて、大事件だ。大騒ぎになってもおかしくない。
教室を覗いたが誰もいない。そんな事を考える隙も与えず、オレは、やな感じがしてきた。
そして、廊下の奥からカツーン、カツーンと甲高い足音が聞こえてきた。
なんだ?ピエロが歩いてくる。どう考えても昼の授業中の廊下をハンバーガー屋のピエロが歩いているのはおかしい。
「アイツが敵か!」
間違いない、あいつは敵だ。
オレは先制攻撃を仕掛けるべく、行動を開始する。
ゆっくりと教室の扉を音がしないように空け、中に転がり込む。
銃を構え、敵がいないか確認する。
「ここで待ち伏せだ」
オレは教室に有った椅子の足を握った。
一方ミネルバ
私どうしたんだろう。体が動かない。
朦朧としていた意識がゆっくり戻ってきた。目を開ける・・・・・・。
青白いタイルが目に入ってきた。どこかの教室にいるようだ。
「そういえば浩太郎君は?」
浩太郎君の姿を探そうとしたけど体が動かない。自分の体を見てようやく状況が掴めてきた。私の手足はロープで縛られていた。そして床に転がされていた。
悪魔に捕まっていた。
見上げると、マネキン、チキン屋さんのメガネのおじさん、木彫り熊、工事現場で立っている人、安全太郎だっけ?が立っていた。
見るからに怪しい。彼らは学校までの道中、とりあえず使えそうな物を器にしたわね。
「お目覚めの所をすまんが、質問に答えて貰おう!」
「あんたたち、何しにきたの?」
私は怒りを込めて、言葉を叩き付けた。
「質問はこっちがする!」
マネキンは私の問いを一蹴した。
「女神の能力を使う者が、お前を含め三人居たはずだ。あと二人は何処だ」
私は質問の意味がすぐには解らなかった。
「答えろ!あとの二人は何処にいる?人間の方は、間もなくここへ連れてくる」
何言っているの?今まで悪魔に対抗して来たのは、私と浩太郎君だけ、こいつらは浩太郎君を人間と認識している。あと二人って?
わかったわ、この悪魔たちは勘違いしている。私は悪魔と戦う毎に器を入れ替えていた。最初は魔法少女、二回目は剣道少女、今は女子高生。悪魔はそれぞれが別の人物と思っているようだわ。
イチカバチか。試してみよう。
「何処にいるか?教えてあげるわよ!もうすぐここに来るわ!浩太郎君と私を助けに。」
はったりだった。私は開き直り、なおも言い放つ。
「女神リンクがあるのは知ってるわね!もう救助要請は出しているわ!」
またまたはったりだけど、女神リンクの所は本当だった。今の会話は全て上空のワイバーンに送っているわ。
当たりを見廻し、自分の監禁場所を確認する。ここは確か・・・・・・。
楽器が置いてある。トロンボーン、テンパニー、チェロが置いてある。間違えない!一度来たことがあった。
「ここは音楽準備室ね!吹奏楽部の部室」
ミネルバの一言に、マネキンたちに緊張が走った。ミネルバはしめた!と思った。
「こいつらの仲間が来る。警戒しろ!」
マネキンが指示を出す。熊、チキン屋おじさん、安全太郎が頷く。
「まあ、手間が省けたな。帰り撃ちだ」
熊が鮭を咥えたまましゃべる。器用だわ。よく落とさないわね。
「それにしても、ピエロのやつ遅いな。人間相手に何をやっている・・・・・」
ミネルバはドキッとした。
「浩太郎君は?」
浩太郎の家上空三00フィート。
ワイバーンがいた。
先ほどのミネルバの会話を受信していた。
通常であれば、通信リンクを使って情報を他の女神と共有する事が可能だが、浩太郎とは連絡手段がない。
ワイバーンは左旋回急降下を開始。進路を浩太郎たちが通う学校とした。ミネルバの監禁場所を直接浩 太郎へ伝えようとしている。
降下開始から一分後、校舎が視認できた。一気に校舎へ突入しようとした瞬間。
ドン!ドン!ドン!
と風の周りに複数の爆発が起き、破片と振動がワイバーンを襲っていた。学校の上空に待機していたゴリアテの急襲だった。
ワイバーンは使い魔の迎撃を受けていた。ワイバーンは回避運動を行いつつ、校舎へ向う。
『南無三!』
浩太郎は椅子の足を握り締めながら、ピエロが近寄って来るのを待った。
カツーン、カツーンと一歩ずつ近づくのがわかる。
「そこにいるのはわかっている。抵抗しなければ、危害は加えない」
ピエロから声がした。
オレはその言葉を聴いて・・・・・・。
「そんなこと!信じられるかよ!」
と叫びながらピエロの目の前に飛び出した。
「くたばりやがれえ!」
オレは椅子でピエロの頭をメッタ打ちにした。容赦なくぼこぼこに。
ピエロは奇襲があるとは思っていなかった。
オレの一方的な攻撃だった。
「き!きちゃま!」
ピエロは鼻血を出しながら、右腕を振り上げた。
スパッ!
椅子が真っ二つに切れた。
「私の手刀に斬れないものは無い」
ピエロの腕が青白く光輝いている。
オレは真っ二つになった椅子を、ピエロに投げつけ、隣の視聴覚室へ逃げ込んだ。机の下へ身を隠した。
ピエロの顔はボロボロだった。顔を押さえ、よろめく。
「う、器に入ると魔力だけでなく、痛覚も増大するのか・・・・・・」
ピエロは顔を両手で押さえ、蹲っている。相当痛そうだ。ざまあみろ!オレだって二階から花壇へ落ちた時は痛かったんだぞ!
「人間め!出て来い!」
ガシャーン!バキッ!バン!
ピエロは手刀を振り回し、滅多やたらに周りの物を切り刻みながらオレの隠れている机に迫っていった。
「何処だガキ!」
机、ガラス、さまざま破片がオレの頭、体に降り注ぐ。さっき、ピエロの手刀食らったみたいで、右腕を負傷していた。だが、傷は浅く、血が滲む程度だ。
オレは緊張感からか、あまり痛みは感じてなかった。不思議なもんだと思う。
オレの手にはベレッタがある。今、飛び出すタイミングを計っている。
あんだけ手刀を振りましていたら、隙だらけ・・・・・・近づいたタイミングで飛び出し、確実に鉛弾をぶち込む。
破壊音が止んだ。
「敵を倒すには!一撃で仕留めなきゃ反撃されるんだ!覚えとけ!」
ピエロがそう叫ぶと同時にオレは飛び出した。
ピエロの前一メートル。
バン!バン!バン!バン!!
ベレッタの引き金を引く。四発の弾丸は全て命中。
ズダアアン!
ピエロは後ろに仰け反り、倒れた。ピクリとも動かない。
「御忠告ありがとよ!」
オレはそう言うと、煙の出ている銃口をフッと吹いた。
オレはセフティを掛け、腰にベレッタをしまうとピエロをみた。
ピエロは縫いぐるみになっていた。
オレは留めを刺そうと足で何回も踏み潰した。
ガシ!ガシ!踏みつけていると、ピエロからピンポン玉ぐらいの光の玉が出てきた。弱弱しく光っている。電池の切れ掛かった懐中電灯みたいだった。
「これは、ミネルバがフィギュアに入ったときのような光の玉・・・・・・」
オレは光の玉を拾い上げると、学生服のポケットへ入れた。
「うう・・・・・・いってて」
ここに来てオレの体は痛み出した。自分の怪我に気が付いたからだ。
右腕の袖口がばっさり切れていた。腕に切り傷。血が滲んでいた。
「痛いけど、致命傷じゃない。ミネルバを探さなくては」
しかし、こんなみっともない格好はミネルバに見せられねえな。
オレは、廊下に出た。何処へ行く?片っ端から探すか?
そう考えていると廊下の奥からプーンと蚊が飛ぶような音がしてきた。
目を配ると煙を吐いた何かがオレに向って飛んでくる。
オレはベレッタを構えた。が、その物体はオレに届く前に力尽き、床に落ちた。
恐る、恐る近寄って見てそれがなんだかわかった。
一四四分の一、E‐3・・・・・・ワイバーンの残骸だった。左翼は半分無く、ロートドームも脱落していた。
「自分は無事であります」
声がした。妖精がオレの周りをくるくる旋回している。
「報告があります。再生します」
ワイバーンはミネルバが送ってきた会話を再生した。よくわからんが、音楽準備室に捕らえられているらしい。
「拝領した機体を壊してしまいました。申し訳ありません」
ワイバーンが丁寧に謝罪している。
「無事ならオッケー。機体なんて消耗品さ。気にすんなよ」
ワイバーンは真面目なやつだな。
「ありがとうございます」
「こんな状態でよく飛べたな。」
機体の損傷が激しい。ワイバーンは機を捨て、脱出した。
「使命を全うするまで、そう簡単には墜ちません。」
「ようし、ミネルバを救出行く。一緒に来てくれ。」
「了解」
オレはズタボロになったピエロの縫いぐるみを持って廊下を駆けた。
一階の玄関から外に出た。
音楽準備室は三階。オレは壁伝い匍匐前進した。周りには花壇が有り、都合良くオレの体を隠してくれる。
ワイバーンは玄関で待機させている。
オレは地面に落ちているチョット大きめの石を拾った。
ボロボロのピエロに石を縛りつけ、メッセージをしたためた紙を貼り付けた。
そして、音楽準備室へ投げ込んだ。
「おい。ピエロの奴遅すぎないか?」
音楽準備室内に緊張感が漂っていた。
「そうだな、熊・・・・・・様子を見て来い」
マネキンが指示する。
「おう!行ってくる。どうせ、遊んでいるのだろう」
熊は鮭を咥えたまま、音楽準備室を出て行った。
暫く、沈黙が室内を支配した。
ミネルバは教室の隅にいた。手足は縛られたまま。状況を打開しようと色々考える。
『器から出て、逃げようか・・・・・・いや・・器から出ると魔力が元に戻る。器に入った悪魔から到底 逃げられない。・・・・・・薙刀はさっきの爆発で手放してしまった・・・・・・どうしたらいいの?』
私は大きくため息をついた瞬間。
ガシャーン!
窓ガラスが割れ、何かが投げ込まれた。
その場にいる全員が投げ込まれた物に注目した。
ボロボロのピエロの縫いぐるみだった。
マネキンたちが驚愕している。ピエロの縫いぐるみに紙が貼り付けてあった。
チキン屋おじさんが、縫いぐるみを拾い上げた。紙に書いてある文字を読み上げた。
「・・・・・・お前ら、全員、皆殺しにしてやる、そのピエロのように・・・・・・彼女に指一本でも触れたら、ギッタン、ギッタンにして、ギャフンと言わせてやる!」
そう書いてあった。
室内は一瞬にして、重苦しい空気になった。
「熊が十分経っても帰って来なかった。チキンと太郎・・・・・・二人で行ってくれ」
「わかった」
「油断するな、他の女神が来るかもしれない」
私のついた嘘が効いていた。彼らをここに留める事が出来ている。
マネキンたちは驚いていた。それ以上に私は驚いていた。
『人間が悪魔を倒すなんて。浩太郎君は何者?それに・・・・・・』
私は浩太郎が悪魔を倒した事を信じられなかった。
『フツーの少年だと思っていたのに・・・・・・普段はおとなしく、優しいのに・・・・・・』
と思っていると、ミネルバの頭の中でリン・リン・リンとベルが鳴り出した。
『ワイバーンよりミネルバ様。浩太郎殿と接触。以後行動を共にしている。』
ワイバーンの女神リンクだ。この会話は悪魔には聞こえない。
『浩太郎殿のメッセージ。今、助けに行く。自分の身の安全を第一に考え、そのまま待っていてくれ』
「助けにきてくれる?」
ミネルバは不安半分嬉しさ半分であった。
『追伸有り、晩飯、何食べたい。考えて置いてくれ。以上』
「こんな時に・・・・・・私に気を使っているの・・・・・・」
マネキンが近寄ってきた。お怒りの様子だった。
「工芸の守護女神よ。我々はお前とあの少年を生きたまま、神界につれて帰るよう命を受けている。」
「それが何なの!」
私はマネキンの理不尽な物言いに腹が立ち、睨み返した。
「だが、止むを得ない場合は殺しても良いと。どうせ、お前は神界に戻っても死ぬだろうが・・・・・・」
「脅しは効かないわ!」
「気の毒なやつだと思う。工芸の女神よ。神界の世継ぎ争いに巻き込まれるとは」
私は神界の争いの事を思い出した。その争いに浩太郎君を巻き込んでしまったことを悔んだ。涙が流れそうになったのを、目を瞑り必死に抑えた。
「工芸の守護女神よ。お前を殺すのは簡単だ。あの少年を殺せばいい。魂を共有している片割れだろ。ピエロの仇だ。あの少年の死に様をお前に見せてやるよ」
ミネルバは悔しくて、奥歯をギリッとかみ締めた。
「あんたたちに命令しているのは誰なの!」
浩太郎はピエロを音楽準備室へ投げ込んだ後、校舎一階にある理科室を目指した。
「あそこには、化学薬品がしこたま有るはず」
オレは理科室の前に来た。ここが敵に確保されていなければ良いが・・・・・。・
ゆっくり理科室の扉を開け、中に転がりこむ。ベレッタを構え、敵がいないか確認した。
どうやら、まだ敵は来ていない。
「ラッキー」
おれは薬品庫の前にきた。色々ある。ガラス越しに求めている薬品を探す。
「硫酸、メチルアルコール。とりあえずこの二つがあれば・・・・・・おっ!あった」
オレは目的の薬品を見つけた。薬品庫には当然鍵が掛かっている。そんな事は予想済みだぜ。
オレはピエロとの激闘の後、破壊された非常階段で見つけたミネルバの薙刀を持っていた。
いまだに、刃の部分は光輝いている。
「こいつで扉をぶっ壊す」
「気を付けて下さい。切れ味抜群です。お怪我なさらぬよう」
ワイバーンがオレの後ろから囁く。
「忠言痛み入る。下がっておれ。ミネルバ、薙刀を借り申す」
オレは薙刀を持っていたので、大河ドラマの武将になった気分だった。
「了解」
ワイバーンが離れる。
「うおりゃあ!」
気合一発、薙刀を薬品庫に向かって振り下ろす。
音もせず、薬品庫の扉は真っ二つに切り裂かれた。
「すっげえ、切れ味」
この薙刀があれば、巨大マグロだって一瞬で三枚おろしに出来るぜ。
オレは薬品庫から、硫酸とメチルアルコールを取り出した。二つの薬品はプラスチックの容器に入っていたので、ガラス製の三角フラスコに移し変えた。そして厳重に蓋をした。硫酸の入ったフラスコには『H2SO4』、メチルアルコールの入ったフラスコには『CH3OH』と書いた。間違えないように。この化学式あってるよな。
『合ってますよ』
びっくりした。ワイバーンだった。オレの表情を読んでいた。なんて奴だ。
あと教師の机からマッチ箱を一箱失敬した。
「即席手榴弾と火炎瓶だ」
「悪魔が接近してきました。数・・・・・・一・・・・・・」
ワイバーンが敵を探知したようだ。
「廊下東側より接近。目標到達まで二分」
確かに、ズン!ズン!と何かが近寄ってくる音がする。
「悪魔ってバカじゃないの?自分の居場所をさらけ出して」
ワイバーンと目を合わせた・・・・・・気分だった。ワイバーンに目は無い。
「迎撃する。ワイバーンはここで別命有るまで待機だ」
「了解」
ワイバーンはオレの大事な目であり、耳だ。失うわけにはいかないので、戦闘には参加させない。
オレは理科室の扉の影からそっと廊下を覗いた。
ブワアッ
「あつっ!」
オレはあわてて首を引っ込めた。
火炎放射器か?
おれはまた廊下を除く。
熊がいた。口には鮭を咥えている。
その口からチョロチョロと火が漏れている。
「火を吐くのか、今度のやつは」
火の割には廊下に延焼していない。
「熱いだけの炎か・・・・・・不思議な炎だな、あれも魔力か?」
あんな派手に火を吐いて、延焼させていたら自分の身も危うくなるからだろう。
熊も考えてやがるぜ。
「あんなの浴びたら一撃で大火傷だ」
オレは扉から右手だけ出して、ベレッタを打つ。
バン!バン!バン!バン!
扉から、手だけ出して、四発打ち込んだ。テキトー撃ちだから、威嚇にしかならない。
「ははは・・・・・・無駄だ、効かぬ!効かぬぞ!この体にはそんな弾効かんぞ!」
確かに相手は熊だ。9ミリパラベラム弾は効果ないようだ。
「出て来い!清々堂々勝負しろ」
熊が叫んでいる。
ブワアッ
火炎放射発動。
「あっちい!このままじゃ蒸し焼きだ」
おれは硫酸手榴弾を手にした。
「硫酸で目潰しして、ミネルバの薙刀で一刀両断だ」
おれは廊下に飛び出し、熊めがけて叫ぶ
「清々堂々やる気なんてないぜ!食らえ!」
おれは思いっきり硫酸入りのフラスコを熊の顔面に向って投げつけた。たぶん百六十キロのスライダーだと思う。
パリン!
フラスコが割れた。
「ぐおおおおおお!!がああああ!」
熊の苦しむ声が聞こえた。命中・・・・・・違った。
「やべえ」
オレは失敗した。フラスコは熊の胸に命中した。熊の胸がブスブスなっている。
嫌な臭いもしている。
熊はもがき、苦しみながら炎を吐いている。もう錯乱状態だった。
今度の炎は回りに延焼している。
「ひとまず退散だ」
おれは、薙刀を手に取り、廊下の窓ガラスを突き破って、屋外へ飛び出した。
「ぎにゃああああああ!ごああああー」
熊は廊下で叫びながら炎を乱射している。
オレは、外側から走り、壁越しに熊と対峙した。
熊は錯乱状態でオレに気付いていない。
オレは薙刀を振りかぶり、壁ごと、熊を斬ろうとした。
「どりゃああああ!」
薙刀は豆腐でも斬るように壁を裂いた。
熊までは届かなかった。
壁がなくなって、オレと熊は正面に向かい会う事とった。
「ぐうううう!殺してやる!」
熊が叫ぶ、口から炎が出る。
「今だ!もういっぺんくらええ!」
オレはメチルアルコールのフラスコを熊の顔目掛け投げつけた。距離が近いので今度は命中。
「だあああああああ!ばああああああ!」
熊が威勢よく燃え上がった。自分の炎で引火したのだ。ざまあみろ!
「逃さん!熊やろう!」
おれは、ミネルバの薙刀を大きく振りかぶり、熊に一太刀浴びせた。
熊が真っ二つに切り裂かれた。
オレは消火器を使い、熊にかけた。廊下の火事は消火栓を使って消し止めた。
火災訓練をまじめにやってて良かったよ。
熊はいつの間にか、二つに裂けた木彫りの置物になっていた。もちろん黒こげ。
そして小さな光の玉が熊から出てきた。やはり弱弱しく光っている。
オレはその光の玉を拾い上げ、ポケットにしまった。
「おい!熊のやつ遅すぎる・・・・・・」
音楽準備室はただならぬ雰囲気となっていた。マネキンがイライラして足で床をトントンと鳴らしている。
「チキン、太郎。熊の援護へ行け」
マネキンが指示を出しているケド・・・・・・。
「おい、待てよ。話違うじゃねえか。器に入ったら強くなれんだろ!人間に負けるとは何だよ!」
安全太郎が語気を強めた。あいつらは相当、焦っているみたいだわ。
「まだ負けたわけじゃない」
マネキンが安全太郎をなだめている。仲間割れ?私達にとっては好都合。
ドッサッ!
何か音がした。窓の外から、何か飛んで入って来た。
その場の全員が音の発生源へ顔を向けた。さっきと一緒。
黒い物体が床に転がった。
それは焦げて黒くなった鮭だった。熊が咥えていたやつだわ。窓から投げ込まれたものだった。
「あのやろう!」
安全太郎が叫び、音楽準備室を飛び出した。
「チキン!お前も行け!いいか絶対に単独行動はするな!必ず二名で対応しろ!」
「了解だ。熊の仇を」
チキン屋おじさんも音楽準備室を出た。
私の心に希望の灯が、大きな炎となって来た。元気が出たわ。
『私たちは助かるかも・・・・・・』
浩太郎君、やってくれるわ。どうしよう・・・・・・彼の事を考えると、ドキドキして来る。ま、まさか・・・・・・。
私は不埒な考えを心の奥へ押し込んだ。こんな時に非常識と自分に言い聞かせて。
「降参するなら今のうちよ!」
私はマネキンに告げる。マネキンは何も言わず、準備室の扉を見つめている。
「もしかしたら、あなたたちは、アマテラス様より怖い相手を怒らせてしまったかもね」
マネキンは冗談だろと一笑する。
『私も冗談と思うけど。半分本当かも』
私は心の中で祈った。浩太郎君が無事に戻ってくるよう。
オレは保健室に来ていた。怪我の治療をする為。
熊との戦闘で怪我をした。あと火傷も。脛、肩にはガラスの破片が刺さっていた。
オレは痛みをこらえ、破片を取る。取った場所から血が噴出す。
オキシドールを傷口にぶっかける。
「うぎゃあああ!しみる!」
オレは涙目になっていた。包帯をグルグル巻きにした。包帯の下の傷口がジンジン痛む。
「ワイバーン・・・・」
「イエス」
「敵はあと三人か?」
「はい、あと三人です」
オレはハアハアと息を切らせていた。
「あと三人倒したら家に帰れるんだな」
「イエス」
「じゃあ!面倒なことはさっさと終わらせて帰ろうぜ」
「イエッサー」
オレたちは保健室を出た。
向かった先は工作実習室。ここには武器になりそうな物がいっぱいある。
廊下の曲がり角に来た。曲がった先に工作実習室がある。
「この先十メートルに敵発見。数二」
ワイバーンが敵を発見した。こいつの存在があるから何とか有利に戦いを進められる。
「待ち伏せか」
オレはベレッタを抜き、構える。体を屈め、警戒する。
オレは手鏡を使って曲がり角の先を見る。人影が見える。
「あれで待ち伏せのつもりか?」
ベレッタを構え、人影に向け引き金を引こうとした時、人影が何か投げた。こっちに飛んでくる。
「ゴリアテだ!逃げろ!」
オレは叫んで、飛び退く。ワイバーンも逃げた。
ズドオオオオン!
派手に爆発した。
その音と振動は音楽準備室にも届いた。ミネルバとマネキンがお互いを見た。
「派手にやっているようだな。だが少年はまだ生きている。お前がまだ生きているからな。しぶといヤツめ!」
マネキンは私を睨みつける。
私は浩太郎君の事がすごく心配になっていた。彼が怪我をしていないか。生死はわかるが、怪我まではわからないからだ。ワイバーンの応答はない。彼らは応答を返しているが無い状態かもしれない。
『浩太郎君、無事でいて』
オレは爆発から飛び退いた時、防火扉を開き、盾にしていた。煙が晴れると、防火扉がひしゃげていた。オレの周りにはコンクリートの破片が散乱している。
破片か何かが頭に当たったようだ。血が流れ、左目の視界を奪う。
「まともに食らったらお陀仏だったぜ」。
それに耳がキーンってしている。
オレは起き上がらず。そのまま倒れたまま・・・・・・少し演技してみよう。
ベレッタを懐に隠し、手ぶらにした。所謂、死んだフリをしている。
安全太郎とチキン親父がゆっくりと近づいてくるのが気配でわかる。さあ、もっと来い!近寄って来いよ!
「親父!やったぜ!死んでいる!」
チキン親父も近寄った。
「やったな!」
「こんなヤツにピエロと熊はやられたのか」
「たいしたことないな。ただのガキだ」
チキン親父と安全太郎は安堵しているようだ。最後に隙を見せたな、お前ら!
「よし、マネキンのところへ運ぼう。それで仕事は終わりだ」
チキン親父と安全太郎が浩太郎を持ち上げようとしたその時。
バン!バン!バン!バン!バン!
オレのベレッタが炸裂!
安全太郎がその場に崩れ落ちた。
「何!きさま!」
チキン親父が言うのが早いか、浩太郎は頭突きをかます。
「食らいやがれえ!!」
そして握っていた銃で顔面を殴打した。
「げっふ!」
チキン親父はよろよろと後ろへ下がる。
オレは間髪を入れず、ベレッタの引き金を引く。
バン!バン!
引き金を引いた瞬間右腕に激痛が走った。ヤバイ!あまりの痛みに狙いをはずしてしまった。チキン親父に当たらなった。
しかも、ベレッタのスライドはバックしたまま戻っていない。つまり弾切れだ。
チキン親父は手に巨大なナイフを握っている。
「死ねやあああー!」
チキン親父はナイフを逆手に持ち、俺の胸を目掛け振り下ろす。
オレは咄嗟に足元に散乱していたコンクリートの破片を思いっきり蹴り上げる。
「たああああっ!」
破片は勢い良くチキン親父の恰幅のいい腹に命中。
「ううっ!」
チキン親父は前かがみにうずくまる。
オレはすかさずチキン親父の腕を押し返す。
逆手に持ったナイフが、チキン親父の胸に突き刺さる。
「思い知れー!」
オレは右の拳をチキン親父の顔に叩き込む。渾身の一撃だ。
ドッカッ!
チキン親父はその場に倒れた。
手間掛けさせやがって。
オレは止めを刺そうとミネルバの薙刀を左右手で拾おうとした。
「?」
右腕が動かん。骨折か脱臼でもしたか?右肩に激痛。さっきの爆発のせいだ。
「左手一本あれば十分だ」
「浩太郎殿、大丈夫ですか」
「ああ。左腕一本あれば、晩飯は食える。オレは器用で、左手でも箸が使える。」
オレは左手で薙刀を振るい、安全太郎とチキン親父に止めを刺した。ミネルバの薙刀は、何の苦も無く、安全太郎とチキン親父の抜け殻を真っ二つに切り裂いた。ただのガラクタになってしまった。
「晩飯一緒に食うって、ミネルバと約束したからな」
「その気持ちわかります」
「ワイバーン。お前は意外に人間くさいな」
「褒め言葉として受けとっておきます。彼女は私にとっても大切な女神です。」
オレは安全太郎とチキン親父から出てきた光の玉をポケットにしまった。
「ワイバーン。これより敵司令部へ突入する」
「了解」
「作戦を説明すると言ったものの、心もとないな・・・・・・」
怪我のせいか、右腕は動かない。すごく痛い。
「当たり所が悪けりゃ、こんなものか・・・・・・まあ、生きているだけマシか」
右腕、左足、頭、他にも色々怪我をしているオレ。
「ワイバーンよ・・・・・・なんか良い作戦ないか・・・・・・」
「と言いますと・・・・・・」
「思ったより、怪我がひどい・・・・・・いままでのようには動けない。おまけに、弾切れだ」
「なるほど」
「どんな卑怯な作戦でもいい・・・・・・勝てりゃ・・・・・・」
オレは清々堂々戦うつもりはない。ミネルバを助け出せれば何でもいい。
「悪魔は人間を見下しています。そこに隙が出来ます」
「そうか、でも悪魔ってバカだよな。オレの奇襲に引っかかるから、それに人質を連れて拠点も移動していないだろ」
「そうです。見下している証拠です。それにあなたは強い。頑張って下さい」
「ありがとよ。お世辞でも嬉しいよ。でも、どうする?絶対勝てる方法」
オレは絶対の部分を強調した。絶対の意味は悪魔に勝って、且つ、無事に家へ帰ることだ。
「策を思いつきました。ミネルバ様の力、女神の力も借りましょう」
「オーケー。で、策は」
オレとワイバーンは周りに誰もいないのに、ひそひそ話を始めた。ワイバーンの言った作戦に正直驚いた。そんな事が出来るの?
「ミネルバ様には女神リンクを使って、作戦内容を知らせておきます」
「ようし!待ってろよ!叩きのめしてやるからな!」
オレたちは行動を開始した。
「静かになったな・・・・・・終わったようだ」
ミネルバはマネキンの顔を見上げた。
「お前が生きていることは、生け捕りしたようだな。」
「そうとは限らないわ!浩太郎君が二人をやっつけたのよ!」
「そう思いたい気持ちはわかるがな・・・・・・観念しろ!」
『そんなことはない!私は浩太郎君を信じる』
私はぎゅっと目を瞑り、浩太郎君を思う。
「何だこれは?」
音楽準備室の天井をふわふわ飛んでいる物体があった。
「ワイバーン!」
ミネルバが叫ぶ。ワイバーンが何かを落とした。それは『生産第一安全第二の次』と書かれたヘルメットとひしゃげた黒縁のめがねだった。
「ぬううう」
マネキンが声にならない声を発した。顔が青ざめていく。
『御影殿は無事。作戦を伝えます』
ワイバーンは天井を飛びながら、作戦内容を伝えて来た。
『ええ。わかった・・・・・・こうなったら、やるしかないわね』
私は、天に祈りが届いたと思った。浩太郎君が無事だったから。
ワイバーンから聞いた作戦は一種の賭けだわ。私はこの無謀な作戦を成功させる自信は無い。だけど、実行せずに無理と諦める事はしたくなかった。
『あきらめは、敗北の始まりよ!』
そう自分に言い聞かせた。
ドガアアン!
音楽準備室のドアが蹴破られた。浩太郎君が立っていた。
「くそマネキン野郎・・・・・・・予告通り、ぶっ殺してやる」
左肩に私の薙刀を担いで立っていた。
頭から、血を流し、顔の左半分が紅く染まっている。
学生服は、ボロボロ。右腕から、血が滴っている。満身創痍だ。その姿を見たら凄く悲しくなってきた。早く手当してあげたい。
「浩太郎君!」
「近寄るな、この女の命はないぞ!」
マネキン野郎はミネルバを立ち上がらせ、自分の盾にする。あの野郎!絶対にゆるさねえぜ!オレは心の中で吠えた。
「女を盾にするとは、しかも手足を縛ったままで。最低野郎だな!てめえは!」
オレはじりじりとマネキンへ近寄って行く。薙刀の射程距離に入るため。
「近寄るなと言っている!もはや手段は選ばん」
オレは歩みを止めたもう充分だぜ。そして・・・・・・笑い出した。なんか可笑しかった。
「はははは!だあああははははは!」
マネキンはオレに何か言いたそうな目で睨んで来た。
ミネルバは無言のままだ。
「やっぱり・・・・・・てめえの負けだ・・・・・・」
オレはマネキンにそう言って、床に倒れた。作戦通り倒れた。
「フン!ここまできたのは褒めてやる」
オレの左手には薙刀が握られたままだ。さあ、覚悟しろよ!
「工芸の守護女神よ!その少年を連れて、神界へ戻るぞ」
マネキンはミネルバを放し、オレに背を向けた。
オレは痛みをこらえ、右手を伸ばし、ミネルバの足首をつかんだ。
それが合図だった。
オレが握っていたミネルバの足は、フィギュアの足になった。
しゅるしゅると小さくなり、手のひらサイズのフィギュアになった。
マネキンの目の前から、盾にしていたミネルバが消えた。
突然の出来事にマネキンは呆然と立っているだけだった。
ミネルバは器から、今入っているフィギュアから飛び出した。光の玉となって飛んだ。
飛んだ先は・・・・・・。
オレの体だった。オレの体にミネルバが飛び込んだ。
彼女がはオレの体を使い、跳ね起きた。自分の体の感覚はある。だけど、自分の意思とは無関係に体が動く、すごく不思議な感じだった。
「はああっ!」
気合一閃。薙刀を真横一文字に振るった。
「なっ」
マネキンが発した言葉はそれだけだった。一瞬の出来事でそれしか言えなかったんだろう。
マネキンは上半身と下半身が泣き別れとなった。
「油断大敵よ!」
ミネルバが怒りに満ちた顔で言い放った。が。
浩太郎の体に入っている時、不思議な感覚だった。
そのすごく不思議な感覚を打ち消すように、私は猛烈な痛みを感じた。
「いたたた!なにこれ?いたあい!」
私は堪らず浩太郎君の体から飛び出した。
彼女はもとのフィギュアの中に戻った。
慌てて、浩太郎君を抱きかかえた。ぐったりしている。私は気が気じゃなかった。
「浩太郎君!怪我してる!早く病院へ!」
「よう・・・・・・二時間ぶりくらいか・・・・・・マネキンとのデートは楽しかったかい?」
「なにカッコ付けているのよ!早く病院へ!」
「待って、オレは大丈夫。最後の後始末だけやらせてくれ」
「後始末ってなに?」
「これなのだが・・・・・・」
オレはポケットの中から四つの小さな光の玉を取り出した。そして、マネキンのそばに転がる光の玉を拾った。五つとも弱弱しく光っている。
「こいつら、死んだのか?」
「死んでないわ。魔力が尽きただけ・・・・・・一ヶ月はそのままよ」
「そうか・・・・・・」
オレは五つの光の玉を持って、音楽準備室を出た。
「浩太郎君!どこいくの?」
「女の子は立ち入り禁止のとこだよ・・・・・・」
オレは光の玉をトイレで流した。五つ全部。詰まったらごめんなさい。一番手っ取り早い処分方法だと思ったんだ。
トイレで水に流した後、音楽準備室に戻った。
ミネルバが泣いていた。
オレに抱きついてきた。
「そんな泣くなよ。痛てえじゃねえか」
「よかったよ。本当によかったよ・・・・・・」
「帰って飯にしよう。腹減ったよ。一緒に食べようって約束したじゃん」
「そんな約束より・・・・・・なんで逃げなかったのよ?」
ミネルバは泣きながら、怒鳴っていた。
「男が約束を破ったら、針を千本飲まなきゃならないからだよ」
オレは女の子の前でカッコ付けたかったんだ。たぶん。




