第10話 部活
あの事件から三週間。夏休みが半分過ぎた所だ。
サイドアームのベレッタM92Fはミネルバに頼んで、元のエアーガンに戻してもらった。
これで、サバイバルゲームをすると、オレは殺人犯になっちまう。
スカイホークのプラモデルは修理してシステムラックへ戻した。天地には悪いが、スカイホークの垂直尾翼に《キルマーク》を書き込んだ。
今日は学校へ行く事になっている。
なんと、ミネルバが夏休み中に吹奏楽部へ入部した。悠理、美咲と共に、
夏休みの吹奏楽部活動に三人であしげく通い。入部したのだった。
今日はお披露目の演奏会があるそうな。
オレはミネルバに誘われていた。もちろん行く。
ミネルバのパートは『クラリネット』。
ミネルバは入部が決まってから、アルバイトを始めた。
フランス製の素晴らしいクラリネットを買う為に。
そのアルバイトは『祓魔師』。かっこよく言うと、エクソシスト。
ミネルバは守護女神だから、悪魔祓いは雑作もない事だったであろう。噂によると、史上最強のエクソシストがこの町に居るとか、居ないとか。頼む、その噂は都市伝説の範囲で終わってくれ。ミネルバの正体がバレないように。
割と短期間で、クラリネットの代金は貯まったようだ。フランス製は意外に高価だったようだ。
ミネルバは『準備がありますから、先に学校へ行きます』とかで、一足先に美咲と悠理と三人で行っている。
オレは自分の家で招待客を待っている。学校へ連れて行く為に。
「ごめんくださぁーい」
二階から間延びした挨拶が聞こえた。いらっしゃったようだ。
今に現れたのは、緑髪ショートカットの可愛い女の子と第二次世界大戦ドイツ陸軍戦車兵のコスプレをした美しい女性。
「御影君元気?ミネルバと仲良くやってるみたいね」
「また、来ちゃいましたぁー」
吉祥天さんとジャスティスさんだ。
「ようこそ。」
「ミネルバったら、いきなり『見せたいものがあるから来て』なんて」
「ミネルバちゃん。音楽始めたんですってー。楽しそうですねー」
オレは女神二人を連れ立って、学校を目指す。
二十分ばかり歩くと、学校が見えた。
三人の頭上をシマフクロウのぐるみがふよふよと飛んでいる。
ワイバーンだ。どこで見つけたのか、シマフクロウの縫いぐるみに入っている。
「あっ、学校直してる」
吉祥天さんが学校に気付いた。
オレが爆撃して半壊させた学校。『ズールーの門』の残骸は綺麗サッパリ消えていた。
音楽室は無事で、夏休み中、吹奏楽部は通常通り部活をしていた。
オレは修理中の学校を見て、少し胸が痛くなった。
「御影さぁーん。このぐらいで済んでよかったんですよぉー」
ジャスティスさんがオレの心中を察したようだ。
「励ましの心使い、感謝します」
学校に到着した。
音楽室に向かう途中、天地と合流。
「天地さん、おひさー」
吉祥天さんの調子いい挨拶に
「お久しぶりです」
と冷静な返答。
四人で音楽室へ入る。他の生徒が数人いる。お披露目を見に来た奴らだ。
ミネルバたちは簡易の舞台で準備完了しているようだ。
「舞!ジャスティス様!浩太郎君!」
ミネルバが大きな声で叫ぶ。
ぴょんぴょん跳ねながら、両手を振っている。
「ミネルバ!じゃなかった涼子!」
吉祥天さんもぴょんぴょん跳ねながら、両手を振る。再会を喜んでいるようだ。
チャラらーらら!
トロンボーンで『チャルメラ』を吹いてウォーミングアップしている人がいる。何とも重厚なチャルメラだな。
「さあ!お集まりの皆さん!新生吹奏楽部の初コンサートライブへようこそ」
吹奏楽部の部長さんが挨拶をする。黒髪ツインテールの可愛らしい人だ。
「新メンバー、紹介するね!」
おっ!始まるぞ。
「ホルンの瀧澤美咲さん!」
ボビブウウー
「トランペットの大日向悠理さん!」
パッパラプー。
「クラリネットの御影涼子さん!」
ぴろぴろろろろ!
おう、ミネルバはクラリネットでアマリリスを吹いて見せた。笛吹く時の定番曲だな。結構練習していたみたいだし。
「クラリネットの涼子さんは一週間でマスターした天才なんですよ!」
部長さんがミネルバを絶賛している。
そうか、『ミネルバ』って確か、音楽の神様でもあるんだよな。
才能が開花したのかな。万能選手だよな彼女は。
メンバー紹介が終わり、いよいよ演奏開始。
「それでは、最初の曲 ワルキューレの騎行!」
演奏が始まった。
オレはミネルバに視線が釘付けとなっていた。
可愛い笑顔。心洗われるようだ。
女神様から頂いた最高の贈り物だった。オレにとっては身に余る光栄だよ。だからこそ、彼女の事は大事にしてあげないとならない。
そう、それはオレの義務なんだよ。きっと。
ミネルバは演奏しながら、浩太郎の姿を見た。
私の心の中で湧き上がる思いがあった。
『浩太郎君有難う。私を助けてくれて、私を護ってくれて、こんな大切な友達にめぐり会わせてくれて、こんな楽しい経験させてくれてありがとう
そして・・・・・・私に出会ってくれてありがとう。浩太郎君。生きるも死ぬも二人一緒です。ずっとそばを離れません。』