村に着いたら……仕事がしたくなった。
戦闘を考える気が起きない。
弱すぎんだもん。
なので、今回は村での一日。
戦闘はライドさんとミアさんに任せて、スライムもといエルムさんと訓練中。
エルムと言う名は、夢で何度も言われたので、そう名付けてみた。
覇王の名とか何とか言っていた。
エルムさんは、スピードを速くしたり遅くしたりしてくるので、かなり厳しい。
訓練になってるのか?
一方的にいたぶられてるんだけど……
「最近のスライムは、強いんだな」
「リラ君~頑張れ~」
「終わりにして早く先に進みま、ブッ!?」
顔面に、タックルされました。
ほんのり目頭に、涙が溜まる。
痛いです。
~村到着~
「着いた~」
「……無駄に時間が掛かったな」
「……すいません」
勇者になって三日目。
村に着いた。
この村はそれほど大きくないが、宿屋、道具屋、教会、酒場が見える。
なかなか良い村のようだ。
「お!あんたら旅人か?」
「あ、はい、そうです」
「そうか!カラカサ村にようこそ!」
……僕の代わり、誰がやってるんだろう?
帰りたいな……
しょんぼりしていると、首にくっ付いているエルムさんが、強く締めてくる。
「顔が青くなってるけど、大丈夫か?」
「だ、だいじょ、ぶ……です……」
スライムと言っても、魔物だ。
一般人から見たら、恐怖しかない。
僕がそうだった。
というより、意識が、遠のいて……
気絶する前に、緩めてくれた。
死ぬかと思った。
「宿屋に行くぞ」
「あ、はい!今行きます!」
宿屋の部屋なら、エルムさんものんびりできるだろうから、なにより、このままだと僕が死ぬ。
~宿屋3階2号室~
三階建ての宿屋なんて珍しい。
最近の宿屋は、二階建てがほとんどなのに。
三階は、全室四人部屋らしく、結構な大きさだ。
しかも、窓から村全体を見ることが出来る。
エルムさんは、言葉通りだれてる。
ライドさんは、酒場に行ってしまった。
ミアさんは、服を脱いで、下着姿で布団に包まった。
野宿する時には、全裸で寝ようとしていた。
ライドさんは、何とも思っていないのか、普通に無視して寝ていた。
なんとか説得して、下着を着けて寝てくれるようになった。
その次の日、エルムさんとの特訓で、腕の骨を折られた。
ミアさんの回復魔法が無かったら、今も折れていたに違いない。
あの時、怒らせる様な事したかな?
とりあえず、ここにいても暇なので、外に行く事にした。
~ライド~
酒場は、意外と賑やかで、美味い酒が飲めた。
ほろ酔い加減で、宿屋に戻ろうとしたら、アホを見つけた。
「……お前は、何をしてるんだ?」
「え?あ、ライドさん」
リラが村の入り口で、村人と一緒に旅人に村の名前を言っている。
しかも、何故か人だかりが出来ている。
「おお!今日来た旅人さんじゃねぇか!いや~コイツなかなかやるぜ!」
「村の良い所やら良いスポットを、的確に教えてくれるんだよ!」
「結構大きい村なのに、すごい正確なのよ!」
「店を開く場所も、言われた所で開いたら大繁盛!いつもと同じ商品しか仕入れてないのにですよ!」
「……そうか」
ホントに、仕事は出来るんだな。
しかも、数時間で来たばかりの場所をそこまで把握するとは……意外な才能だ。
確かに、魔法も使えない戦闘も出来ない、それでも、何とかしようと努力している。
俺が何度言っても直さなかった、ミアの寝る時の癖をどうにか出来てる。
こいつの認識を、もう少し改めた方がいいのか?
「あ、もうそろそろ行った方がいいですよ!」
リラがそう言うと、屯していた連中全員が、急いで教会の方に向かっていく。
何かあるのか?
「ライドさんも見て来たらどうです?綺麗ですよ」
「よく分からんが、行ってくる」
教会の裏側にある花畑を見る様に、カップルや夫婦は寄り添って座っている。
日が沈んできて、教会のステンドグラスが、その光を花畑に向けていく。
光が花畑の中心に来た瞬間、それが起こった。
花から七色の光が溢れ、幻想的な美しさを魅せる。
ステンドグラスの光が浮かび上がる様に、その姿を輝かせる。
どれくらい、その光景を見ていたか分からない。
そして、日が沈む瞬間、光が輝きを増して、弾けた。
雪の様に舞い、キラキラと光っていた。
それを見ていた者達は、全員、呼吸すら忘れて、魅入っていた。
もちろん、俺も例外ではない。
光は消えずに、花にくっ付いて、輝き続けていた。
~ミア~
「私も見たかった!」
「……寝てただろ」
「一応、起こそうとしたんですけど……逆に眠らされました……」
朝、ライドから聞いた話だと、あのライドですら感動する光景があったらしい。
羨ましい!私も見たい!
でも、リラ君はなんで痣だらけなんだろう?
チンピラにやられたのかな?
「今日も泊まっていこう!」
「却下だ」
「そんな!?」
「あ~運が良ければ、他の村でも見れると思いますよ?」
「すぐ見た~い!」
エルムが、私の考えに賛成する様に、体を上に伸ばす。
「ほら!エルムだって賛成してるんだよ!」
「なら勝手にしろ、行くぞリラ」
「え、あ、はい」
そう言うと、ライドは部屋から出て行く。
それに付いて行く様に、リラ君も出て行く。
リラ君は、出て行く際に、チラリと振り向いていた。
「うぅ……」
エルムが、私の腕にくっ付く。
見たい……けど……
「おいてかないでぇ~!!」
寂しいから、全力で二人を追いかける。
~エルム~
(まさか、魔法も使えないただの人間が女神の祝福を知っているとは……リラは、ホントに村人なのか?しかし、弱いのは確かだ……まあ、一緒にいればその内分かるか)
そんな、仲間達のリラに対しての認識が、いろいろと変化した村での一日だった。
村の事なら、リラ君にお任せ!
てか、他に何もできない。
ライドとミアは、別に付き合ってません。
女神の祝福とか言うのは、ほら、後から説明されるとかで。