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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

【幻の犬】

作者: 降野 椛葉
掲載日:2026/05/25

こんにちは。

降野椛葉(ふるのもみじ)です。

今回は短編小説四作目として「幻の犬」というのを出します。

改めてあの世とは何か…

答えは死なないとわからないでしょうね。

だからといって死のうとも思いませんが!

〈幻の犬〉

死んだあとはどうなると思う?

我々が知っていることは、肉体がどうなるかだけ。

必ずしも悼み、葬られるものではない。

それはその身体の死に方によるだろう。

では、その肉体に宿っていた御霊(みたま)は?

皆が『死』と聞いて辿り着く言葉は『天国(てんごく)』だろう。

つまりあの世。

天国の対義語は地獄(じごく)であるというのも、また一つ。

ここ、『あの世』では黄泉(よみ)へ向かう道に迷う者を導いてくれる犬がいる。

私こと菊池(きくち) 百合乃(ゆりの)はその犬に出会った。

「えぇと…君は…?」

私はなぜここに犬がいるのかと戸惑いながら尋ねた。

尋ねた、が、犬が人語を話せないことは重々承知なのに、

人はなぜ愛らしい生き物に話しかけてしまうのだろう。

と、その場を離れようとすると何かを感じ、犬の方へ振り向いた。

「僕は(くう)って言うんだ。君を天国へ導いてあげるよ」

人語を話す犬なんて聞いたことがない。

俄然、生前は犬を飼っていたので尚更。

「ど、どういうこと?」

私は腰を降ろして言った。

「着いてきて!」

空という犬は走り出す。

すると、犬は謎の扉の前に立った。

「この扉を開いて、越えた先が天国だよ!」

と扉を引っ掻いて言った。

扉を越えるなんて言葉は聞いたことがない。

いや、扉の中を越えた先、か。

私は扉を開けようとした時、扉に看板が着いていた。

可愛らしい看板で、まるで幼少期の自分の部屋に

掛けていたもののようだ。

看板には『幻憶(ドリームコア)』と書かれていた。

「ドリームコア…?」

と口にした時、私はすでにドアノブに手を掛けてしまっていた。

ガチャッという音とともに扉を開けると、

見慣れたような野原が現れた。

足を踏み出すと、フサッという草を踏み潰す音が鳴る。

私は構わずに、犬とともに先へ歩いた。

不気味だ。

ただ野原が続いているだけ。

でも見慣れている。

どことなくデジャヴという事象で説明は付けたくなかった。

頑張って思い出してみたくもなった。

ただ、脳の野を駆け巡っても見つからない。

眉間が少し強張った。

そして、歩いていると突然道の脇に勤めていた

会社のモニターが現れ、モニターからビールのような

アルコール酒が滝のように溢れてきた。

「こ、これはどういうこと…?」

私が唖然としていても、空という犬は進んでいた。

道しるべは犬。

異様な事象に構わず犬について行った。

すると今度は空が赤く染まり、銀テープが降ってきた。

私は迷わず銀テープを必死になって取った。

ライブが大好きだった私は、夢中だった。

その銀テープを見ると、そこには好きなアーティストを

批判している文字が入っていた。

「はあ!?」

私は怒り、思いっきり銀テープを地面に投げつけた。

が、銀テープはひらひらと落ちていくだけだった。

怒っていると、犬は先先と進んでいた。

「ま、待ってよ!」

私は野原を走った。

この感覚…どこかで…

走っていると、犬が扉の前で待っていた。

さっきと同じ扉…?

「この扉を開けて!」

と犬が言ったので、私は頷き開けた。

開けると、そこは古い蛍光灯が点滅している教室だった。

「私が通ってた高校の教室…?」

するとそこには見覚えのある男の子がいた。

湊斗(みなと)…?」

「久しぶり」

そこにいたのは、私の高校時代の彼氏の八戸(はちのへ) 湊斗(みなと)だった。

「なんでここにいるの…?ずっと探してたんだよ…」

湊斗は、私達が高校二年生の時に失踪。

その後行方不明となり消息も絶たれていた。

「悪いな。連絡できなくて」

「ううん、戻ってきてくれたなら…それで…」

私は涙を流しながら喜んだ。

「おい!」

という大きい声が聞こえたので、そちらを向いた。

「行くぞ」

と犬が尻尾を振って言っていた。

私はその姿を見て、我に帰った。

「そうだね」

犬の方へ歩き、言った。

「百合乃…?」

と湊斗がこっちに向かって言った。

「ごめん湊斗…私、行かなきゃ」

私は犬とともに次の扉へ向かって歩いた。

「そうか…」

湊斗は悄気ながら言った。

「…」

私はドアノブに手を掛け、湊斗の方へ振り向いた。

「またね!」

刺し光る先へ赴き、最愛の彼に別れと、再会の約束をした。

「あぁ…此方(こっち)で待ってるから」

私はその声を背中で受け、歩いた。

またフサッという草を踏み締める音が鳴った。

だが、空は深海のように濃く、滲んだような青空だった。

そしてまた感じた違和感。

この違和感の原因はもうわかっている。

空がテレビの砂嵐のように電磁が蔓延っているからだ。

現実ではありえないな。

本当に天国に行けるのか?

私は犬のあとをついていった。

すると犬が止まった。

私は犬の視線の先を見た。

いや、見てしまったのか。

ずっとこの犬に感じていた違和感が、ようやく糸解けた気がした。

その視線の先には、幼い自分とその頃に飼っていた

愛犬の(かい)がいた。

その一人と一匹は、楽しそうに遊んでいた。

「うっ…!?」

私の脳に突然駆け走った昔の記憶が、脳を傷ませた。

なんでだ…

ただ昔の記憶を思い出しただけじゃないか。

瞑っていた目を開けると、空がこちらを向いていた。

「やっと思い出せそうだね」

と空は淡々と言った。

「じゃあ、これを見せてあげるね」

空は視線を戻した。

すると、二人ともの時間が進み、私は高校生になっていた。

そして、私は、手に、包丁を、持っていた。

「はっ…!」

私はまた頭痛を感じ、頭を抑えた。

頭痛を感じながらも、目を開けていた。

そして、私は手に持っていた包丁で、海を葬った。

その光景から起こした記憶のフラッシュバック。

封じていた…いや無理矢理閉ざしていた

記憶の箱が今開封された。

重なる大量の仕事に残業、ストレスなどで

無理矢理閉ざしていた箱。

私はまた瞑っていた目を開けた。

「やっと、思い出してくれたんだね」

と、空は言った。

「やっぱり君は海の記憶を継ぐナニカ…」

ずっと感じていた違和感はこれだったんだ。

空を見る度に感じる既視感。

解きたくもなかったな。

「君を天国に連れて行くと言ったけど、

連れて行くのは君が想像している天国、

極楽浄土(ごくらくじょうど)』ではなく地獄(じごく)

穢土地獄(えどじごく)』と呼ばれる暗闇の世界。

穢れに満ちた地獄だよ。

命を殺めてしまったのがいつであれ、

その過ちに対する報いは必ず訪れる。

時間も空間も理由も関係ないんだよ」

空は先ほどとは全くに別の顔をしていた。

「地獄…」

私が海を殺めてしまったのは、

確か湊斗が居なくなってからだっけ。

ゾッコンだったもんなぁ。

当時の私は精神に異常をきたし、

意識もないまま包丁を持っていた。

「今思ったら馬鹿馬鹿しいか」

私はふっと笑みを零し、呟いた。

「じゃあ、地獄に堕ちてもらうね」

と空は淡々と、述べた。

「それは、無理な話だね!」

私は空を飛び越えて、先へ走った。

「無駄なことを…」

空は歩いて追ってくる。

無我夢中で走ると、どんどんと景色が悪くなってくる。

今までこの『幻憶(ドリームコア)』で見た異常が、点となって現れてくる。

走っていると先には非常口のマークが書かれた扉があった。

「あれだ!!」

私は逃げれる!と思い走った。

いや、逃げれると思いたかったのかも。

草原だと思っていた床が落ち、非常口が遠ざかって行く。

「だから無駄だって言ったのに。

罪から逃れるなんて」

と空が見下ろして言ってきた。

「私は彼方(あっち)に行かないといけないのにぃ!

まだ死にたくないよぉ!」

私は叫びながら、深く暗く、赤い闇へおちていった。

「死にたくないって…もう死んでるのに」


侵してしまった過ちは、二度と消えない。

それは記憶もだ。

例えば、友達と一緒にゲームセンターに行って

たくさんレーシングゲームをしたり、

彼氏と一緒に水族館に行ったり、

見知らぬ街を旅したりと。

ただ、記憶は消えないが思い出すことが困難だ。

思い出して、その青春の1ページを細かく追憶し

もう一度それを疑似体験のように味わうことが

できたならどんな生物においてもそれは

ある一種の本望であると言えよう。

だが、思い出したくない記憶は

ただ一片の記憶の欠片に触れるだけで

脳内にフラッシュバックする。

その思い出箱だけは封が緩んでいるということだ。

大切な記憶は大切にしたいと思うほど

封が頑丈になり思い出すのが難しくて、

捨てたい記憶は捨てようとしても捨てれない。

ただ、今回の菊池百合乃のように

精神が眩むほどの重い仕事や残業を喰らうと

その封は固くなり案外開かないものである。

その封を開くのには複数のピース、トリガーが

重ね合わさる必要があるのだ。

さて、菊池百合乃はどちらに向かったのだろうか。

此方(こちら)の天国へ昇ったか、はたまた彼方(あちら)の地獄へ堕ちたか。

愛人の八戸湊斗の元へ来ていないということは

そういうことだろう。

そういうことにしておこう。

〈幻の犬ー終わりー〉

人は、何かを失敗してしまった時ふと

「この失敗はあの頃の報いかな」と思う時がある。

その報いの根っこにある過ちを、気づけているだろうか?

気づかないままに「あの頃の報い」と言うのは稍危険であろう。

その過ちに気付かず、「あの頃の報い」というのは単なる

失敗からの逃避行かもしれない。

その果てにあるのは「単なる理由探し」であろうか。

なんにせよ、人は結局その事象に理由を付けずには居られないだろう。

あなたは過ちを、本当に過ちだったと認識できていますか?

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