19 失望
先生が最後に
「楽しみましょう」
と言ってくれたので、自信を持って本番に臨むことにした。今度こそうまくいく、と自分に言い聞かせるように努めた。
そして遂に本番の時が来た。順番に3分の持ち時間でステージ上でチューニングをし、やや苦手なところを2、3回弾いてみるとまあまあなので、十分にいけるという確信のようなものが得られたような気がした。
さて遂に自分の名前が呼ばれ、ステージ上に登ると、あまり緊張していないような気がした。大丈夫、と自分に言い聞かせた。
英介の大好きな美しいピアノの前奏が始まり、自信を持って弾き始めた時、最初の音がかなりおかしいことに気づいた。けれども落ち着いて挽回しようとしたところ、次の音も変だし、指板上の指の位置を確認しようとして見ると、さっきの音合わせの時と違って客席が暗転のせいかよく見えない。
焦らない、すぐに挽回できるから大丈夫、フィギュアスケートの選手はどんなに練習しても、どんなに凄い選手でも転ぶときは転ぶではないか、自分も最初ちょっと転んだだけで、気持ちを立て直せば大丈夫、と落ち着こうとしたが、何と弓が震え、微妙にバウンドしているではないか。
これは練習中にはほぼなかったことだ。曲は中盤に差しかかったが音色はおかしいままで修正できていない。何となく客席から、誰も何も言ってはいないのだが、この人は下手くそな初心者だという失望感が吹き出してきているような感じがし始め、弓が跳ねて十分に修正できないまま最後のハーモニクスも今ひとつのまま終了した。
また失敗だ。客席に戻るとうつむいたままになってしまった。完全に打ちのめされ、失望感に押しつぶされそうな気持ちになった。これで人前で弾いて失敗するのは4度目になる。
うまくいったことは一度も無い。練習をしていて割とうまくいった時は観客たちが自分の演奏に感動する様子などを想像して密かにほくそえんだりしたものだが、それこそ愚の骨頂であった。




