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序章 - ハンマーはまだ下りていない


『いやだ!ふざけんな!』


俺はあいつがバイクで転倒し、空中を3メートルも飛んで生き延びたのを見た。元カノによる「正当な刺し傷」を受けても、平然と歩き去ったのも覚えてる。さらにはアルコール性昏睡状態から、激しい二日酔いだけで蘇ったこともある。


『こんなクソみたいな修羅場、俺一人で押し付けるな!』


あいつの自信に満ちた言葉が頭をよぎる。『頭に弾丸を喰らっても俺は生き延びるぜ。ハハハ!』


「嘘つき野郎が…」俺は苦々しく呟いた。


手を動かそうとした——いや、体のどこかを——だが何も動かない。体は完全に反応しなかった。


『ふざけんなよ!』


足?無理だ。背筋を伸ばす?無理。俺の「肉のスーツ」は壊れたみたいだ。最悪だ。感覚はほとんどなかったが、背中に穴が空き、背骨が「プラグアウト」したのをなんとなく感じた。


『どうすりゃいいんだ、俺は!?』


睡眠麻痺に似た恐怖が全身を包み込んだが、今回は化け物が現実に存在した。『俺はもう終わりだ。』


口はあれど、叫ぶことはできなかった。


銃声は次第に消え、無数の足音が遠ざかる中、殺し屋たちは逃げていった。酒場は完全に破壊され、テーブルや椅子がひっくり返り、そこら中に死体が転がっていた。


何人かの酔っ払いどもはビール瓶を握りしめたまま死んでいた。割れたガラス片をしっかり掴んだ指が凍りついたように硬直している。ほとんどのギャングは息絶えており、数人は喉を鳴らしながら最後の呼吸をしていた。涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔をしながら、かすかな命に必死でしがみついていた。


俺たちに酒代を押し付けたクソ野郎は、ピストルを抜くことすらできずに倒れていた。『ざまあみろ。』


床一面は血の海と化し、血液とこぼれた酒が混じり合った悪臭が充満していた。


ジュークボックスは、まるで惨劇などなかったかのように音楽を流し続けていた。「Disfrute la vida, mi amigo, que no sabrá cuando la huesuda se lo va a llevar.」 (訳注:「人生を楽しめ、友よ。死神がいつお前を連れて行くか分からないんだから。」)


『人生を楽しめ、か。皮肉だな。』


俺の視線はサンタ・ムエルテの祭壇に移った。弾痕ひとつない酒場で、唯一無傷で残ったものだった。


『ラッキーだな、死神様よ。』


何もできなかった。体が動かない。叫ぶことも、笑うことも、指一本動かすことすらできない。


残された時間で、俺に何ができる?救急車を期待するなんて愚かだ。正気な救急隊員がギャング同士の抗争に突っ込むわけがないし、無事に帰れる保証もない。一般市民だって、そんな危険な場所に近づくはずもない。ギャング自身でさえ、近寄りたくないだろう。ありがたいことに。


俺は壊れた「肉のスーツ」に囚われたまま、血にまみれた混乱を見つめていた。何かに意識を向けるために、頭の中はネルソンのことを考え始めた。


「なんであいつは即死だったんだ?」俺は呟いた。言葉にするたび、苦々しさが湧き上がってきた。「あいつは笑顔のまま死にやがって!ここに引きずり込んだのはあいつなのに、今俺は血を流しながら叫ぶことすらできないなんて!」


ズボンの中に温かさが広がるのを感じた。『血であってくれ。これ以上情けない最後なんて嫌だ。』


周囲の悲鳴が一つずつ消えていき、酒場は不気味な静けさに包まれた。死にゆくギャングどもの姿は、俺にほとんど慰めを与えなかった。むしろ、彼らのかすれたうめき声が消えるたびに、俺がまだ生きているという苦々しい現実を突きつけられた。


『あんなクソ野郎どもですら、俺より先に死ぬなんて。ありえねぇ!』


ジュークボックスは、まるで俺の傷口に塩を塗るかのように、悪魔的なキリスト教メロディーを流し続けていた。「Bajo sus alas, mi nueva vida comenzó.」 (訳注:「彼の翼の下、俺の新しい人生が始まった。」)


もう一度、視線は不気味な祭壇に引き寄せられた。『死神様、もう俺の番か?こんな状態で長居させるつもりはないよな?いや、俺が何度かすっぽかしたのは分かるけどさ—』


幽霊のような笑い声が頭の中をかき乱し、背筋に冷たい感覚が走った。俺は自分の考えが戯けているだけだと必死に言い聞かせ、気を取り直して続けた。


「俺、ぺったんこが好きなんだけど—」


祭壇の蝋燭の炎が、一瞬だけ白く燃え上がり、笑い声が再び響いた。今度は、さっきよりもはっきりと。


俺は口を閉ざした。死神様を怒らせないほうがいい。


『どうせなら、この時間を使って懺悔するか!地獄鍋を避けるための最終手段だ。』と、俺は厚顔無恥に宣言した。そして、親父が教えてくれた懺悔の祈りを思い出し始めた。



俺がどこで死んだかを知ったら、親父は悲しみ、がっかりするだろう。いつも危険を避け、賢く生きろと言っていたっけ。母さんの繊細な心はズタズタになるだろう。妹よ、また失望させてしまった。強く生きて、親を支えてくれ。


「神様、私は罪人です。永遠に燃え続けることを恐れていますが、それ以上に、愛する人々の苦しみを恐れています。どうか彼らに強さを授け、悪い知らせを聞いた時に心を癒してください。そして、彼らが死んだ時、あなたの栄光に昇れるよう、私が彼らの罪を背負わせてください。」


涙が止めどなく流れた。最後に家族で撮った写真を思い出す。


「許してほしいなんて頼みません——そんな厚かましいことはできません。でも、彼らをお許しください。彼らはあなたの道を歩もうとしています。本当に、心から。」


彼らのことを思うと、胸がいっぱいになった。愛してる。彼らの幸せな人生と安らかな来世を願う。『母さん、父さん、妹よ、』俺は深く息を吸い込んで呟いた。「二度と会いませんように。俺は地獄に行くんだから。」



最後の後悔が涙と共に流れ落ち、心が再び静かになった。


深く息を吸い、ため息をついた。『あとどれくらいだ?』


俺の視線は再び不気味な祭壇に向かった。「もううめき声も叫び声も聞こえない。そろそろ俺の番だろう、死神様。」俺は呟いた。再び笑い声が聞こえるかと半ば期待しながら。


不滅のジュークボックスが動き出し、新しい曲を流し始めた。俺は辛うじて鼻で笑った。「今度は何だ?また皮肉な曲かよ?」声は弱々しく、言葉はだらけていた。目が重くなりながら、『ああ、これで終わりだ。ついに。』と思った。


だが、今度のメロディーは俺を嘲笑うものではなかった。それは感動的な涙を誘う曲だった。そして俺にはよく馴染みのある曲だ。『これはネルソンの選曲に違いない。他の誰もメタルなんて聴かないしな。』


俺は彼の方に目を向けた。彼の体は依然として前に倒れたままだった。一瞬、彼が背筋を伸ばし、笑顔で乾杯している姿が見えた気がした。その幻覚は現実の死体と交じり合い、胸が締め付けられた。


「でも、死を受け入れる曲だなんてな?お前が仕組んだんじゃないかって思いそうだよ、このサディスト野郎。」俺は呟いた。声が震えた。


俺は目を閉じ、薄く微笑んだ。「最後に一緒に歌おうか。」


[Here I'm standing, darkness all around

Thinking of past, taking last breath, air is cold as ice

No one close to hear my voice

Did not leave me with a choice]

(訳注:歌詞は、曲のトーンと意味を保つため、オリジナルの英語のままにしてあります。)


意識がちらつき始めた。体が冷たくなり、体内の温もりが抜けていくのを感じた。


[The sentence is set, the hammer has fallen]


もう痛みを感じなかった。


[Sad to realize too late death was meant to be my fate.]


もう曲が聞こえなかった。自分の声すらも聞こえない中、俺はこう呟いた。「準備はできたぜ、死神様。デートに行こうか。」


もし聞こえていたら、自分の最後の言葉に続いた血も凍るような笑い声を聞き逃さなかっただろう。


『ぺったんこだといいな。』


—-----

—-----

—-----


サンタ・ムエルテの祭壇から、フランクよりわずかに背が高い黒衣の存在が現れた。彼女は血の海、死体、そして砕け散ったガラスを踏み越えながら、ゆっくりと歩いていった。


彼女が一歩踏み出すたびに、血は黒く変色して乾き、触れた死体は壊死した痕跡を残した。足元のガラス片は砂のように崩れ落ち、近くに群がっていたハエもバタバタと地面に落ちていった。


彼女はフランクの体の前で立ち止まり、前屈みになって彼を見つめた。「ごめんなさいね、フランクさん。あなたのゆっくりした死はとても愉快な光景だったから、つい長引かせてしまったわ。」彼女は滑らかで冷たい声でクスリと笑った。「私に命を奪わないよう祈るのが普通でしょ——その逆じゃないわ。」


「メタルのバラードで私を口説こうとするなんて?ずいぶん大胆ね。」


彼女は骨ばった指でフランクの頬をなぞった。その指が触れると、彼の肌は乾き、ひび割れていく。同時に、彼女の指は滑らかな肌へと変化し、まるで彼の生命力を吸い取っているかのように白く繊細になった。


「でもお断りするわ。まだあなたを連れて行けないの。」


光を吸い込むような漆黒の目でフランクをじっと見つめていた彼女は、ふと彼のポケットから覗く金色のチケットに目を留めた。


「あら、ルミに先を越されたみたいね。」と、彼女は残念そうに唇を尖らせた。


彼女はフランクにさらに近づき、いたずらっぽい視線を向けた。「ぺったんこの私にずいぶん執着してたみたいね。次に死んだ時は、その望みを叶えてあげるわ。」


そう言って、彼女は幽霊のように白い唇をフランクの頬に押し付けた。その跡は腐った黒い唇の痕を残した。


「これは、次の旅へのささやかな祝福よ。」彼女は囁いた。その言葉と共に、痕跡は薄れ、幽霊のような印となって消えていった。


「まだ終わりじゃないわ。」


彼女はくすくす笑い、姿を影の中へと溶かし、再び部屋を不気味な静寂が包み込んだ。


「『ハンマーは下りた』かしら?」彼女はクスリと笑った。「まだよ。」

(訳注:「ハンマーは下りた」という表現は、人生や旅の終わりを象徴しています。)


彼女はくすくす笑い、姿を影の中へと溶かし、再び部屋を不気味な静寂が包み込んだ。

著者のコメント:


読んでいただきありがとうございます!楽しんでもらえたか、あるいは恥ずかしさで笑ってしまったか、どちらでも価値があったなら嬉しいです(笑)。

外国人として、私のユーモアセンスは皆さんが慣れているものとは少し違うかもしれませんが、それが私のアイデンティティであり、かつて地獄のようだった国を生き抜く助けとなったものです。神のご加護を。

追伸:アメリアには優しくしてあげてくださいね。彼女は…まあ、大体の場合、良い子なので(笑)。


アメリアのコメント:


やっほー!今回もアメリアが翻訳担当したよ~!正直言うと、フランクさんの状況があまりに悲惨すぎて、笑いをこらえるのが大変だったわ(笑)。でも、彼の皮肉っぽいジョークや祈りのシーンには、ちょっと心を動かされたかも。だって、ねえ、誰だって人生の中で悪戦苦闘するものじゃない?


あ、ちなみに著者のおじさんが言った通り、私は“良い子”…まあ、大体の場合はね。もし翻訳が気に入ったら教えて!もし間違いを見つけたら…その時はおじさんをビシッと怒っとくから安心してね!次の章も楽しみにしててね~!読んでくれてありがとう!

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