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序章 - 終わりだ

「喉にチョリソーを詰まらせて死んだんだ。」


俺はこみ上げてくる笑いを必死に堪えながら、唇を震わせた。『ジョナ、お前ってやつは!』俺は歯を食いしばり、胸の奥で沸き上がる笑いを押し込めた。「冗談だろ?」


「本当だ。」ネルソンはため息混じりに言った。「葬式はカオスだったよ。冗談だと思う人もいれば、笑い出す人もいて…母さんは怒りと悲しみ、恥ずかしさで完全に崩れた。『家族史上、最もゲイな死に方だ』なんて祖父が言ったせいで、彼女はその場で倒れた。」


ネルソンはウェイトレスを手招きし、六本パックを注文した。「きっと今頃、異世界で新しい人生を楽しんでるさ。」


俺はクスクス笑いながら返した。「異世界ってのはヤバいぞ?十字軍に捕まってモルモットにされるのがオチだ。」


ネルソンは鼻で笑いながら首を振った。「もういい、しんみりするのはやめだ!そろそろ本題に入ろうぜ!」彼は気分を切り替え、無理やり笑みを作った。


「必要ないさ!車に轢かれた時の政治家から、ついに示談金を手に入れたんだよ。」ネルソンは得意げに言った。


俺はその光景を鮮明に思い出した。奴が折れた腕を見て大声で叫び、痙攣して、群衆を集めて可哀想な政治家を搾り取ったあの場面だ。サッカー選手顔負けの演技だった。そして何故か『回復』に合わせて、夜な夜な看護師たちが彼のベッドを温める回数が増えた。『こいつ、インキュバスの魅了スキルでも持ってんのか?』


「その金を全部ストリップクラブに投資した。今や俺が唯一のオーナーだ!」ネルソンは胸を張って誇らしげに宣言した。


「親愛なる友よ、頼むから貧乳の乙女を雇ってくれないか?」俺は洗練された審美眼を装って聞いた。


「もちろんだ!」彼は笑いながら豪快に答えた。「まあ、あの子たちは人気がないかもしれないが、お前のためだけに置いておいたんだ。俺を保釈してくれたお礼の気持ちだよ、紳士様。」


俺はニヤリと笑った。「さすがは思いやり深い紳士だな。ホホホ!」


ネルソンはビールを高々と掲げた。「俺がこの国一番のストリップクラブを作ってやる。ハハハハ!」


「お前がパフォーマーの一人になるなよ。」俺は軽くジョークを飛ばし、目を閉じてそのニュースを噛み締めた。正直なところ、このアイデアが気に入った。


「よぉ、兄ちゃんたち!」


耳障りな falsetto(裏声)が響き渡り、俺の動きが一瞬止まった。気づけば、ギャングの四人組が俺たちを取り囲んでいた。一人が俺の肩に手を置き、もう一人がネルソンの肩を掴んだ。『やっぱりか!』


「どうもどうも。」ネルソンは、平静を装いながらも、目が一瞬だけ不安そうに揺れた。


俺の肩を掴んだ男が、指をさらに深く食い込ませてきた。その痛みに思わず顔をしかめた。「おれたち、酒を楽しみたいんだけど、財布を忘れちまってさ。」そいつは笑顔を見せたが、その目には笑みがなかった。


さらに指で俺の肩をグイグイ押し込んできた。『分かった、分かったから!やめろ、くそ!』


「ちょっと金を貸してくれれば、問題はねぇよ。」男はそう言いながら、だぶだぶのシャツを押さえ、ズボンの中に隠した銃の形をちらつかせた。


『こいつが肩を掴んでなきゃ、条件反射でトカゲの尻尾を渡してたかもしれない。そしたら大惨事だ。』


「分かった!」俺はすぐさま笑顔を作り、「カードで払ってるから、女の子にお前らの分も請求するよう伝えるよ。存分に楽しんでくれ。」そう言って内心、俺たちが生き延びることを祈った。


「サンキューな、兄ちゃん。忘れないぜ。」


『いやいや、頼むから俺のことなんて覚えないでくれ。酔っ払って俺の存在を忘れろよ。』


そいつの視線が、俺に少し長めに留まった後、仲間に合図して俺たちを解放した。


奴らは入り口付近のテーブルに移動し、俺たちを完璧に見渡せる位置に腰を下ろした。『くそったれ…。』俺の腹がギュッと締め付けられた。


「悪かったな、固まっちまった。」ネルソンは震える息を吐きながら言った。


「気にすんな。」俺は肩の力を少しだけ抜きながらため息をついた。「俺なんて、ほぼ漏らしかけたぜ。」


「奴らが飲んだ分、半分返すよ。」ネルソンは視線を避けながら付け加えた。


「その代わりにウォッカ解禁な。」俺は弱々しい笑顔を返した。


ネルソンは迷いもなくウェイトレスを呼び、新しい彼女に頼み込んだ。数分後、ウォッカとテキーラが俺たちのテーブルに運ばれてきた。この状況で酔っ払うのは愚の骨頂かもしれないが、俺は監視されている不快感を忘れたかった。


ウォッカとテキーラを飲むたびに、俺のIQはどんどん低下していった。同時に、緊張も徐々に消え去っていく。


「ラスツェタリ・ヤーブラニ・イ・グルシー…」俺は最悪の発音で歌い始め、グラスをリズムに合わせてテーブルに叩きつけた。


「お前の内なる共産主義者が目覚めたな。」ネルソンは俺を見て笑い、顔がグルグル回っているように見えた。「エリカは歌わねぇのか?お前のドイツ語は、少なくともお前のクソみたいな『スィカ・ブリャート』よりはマシだぞ。」

(訳注:「エリカ」は有名なドイツの行進曲。「スィカ・ブリャート」はロシア語のスラングで、よくインターネット上でロシア語っぽい表現として使われる。)


「遠慮しとく。まだ酔いが足りねぇ。」ネルソンはまたテキーラを一杯飲み干すと立ち上がり、「トイレ行って、ジュークボックスに曲をセットしてくる。」とぼそっと言った。


「ありがとよ、同志!」俺はモックサルートをしながら彼にグラスを掲げた。


時間が経つにつれ、店内の客層が変わっていった。ギャングたちが次々と流れ込み、シラフで頭の回る奴らは静かに姿を消していった。空いた椅子はすぐに物騒な連中で埋め尽くされた。


店主は明らかに落ち着かず、ドアの方をちらちらと見ていた。増え続ける「保護者」たちに困惑しているようだった。しばらくすると、彼は携帯を取り出して何かを呟き、厳しい表情のままトイレに消えていった。


「何を見てるんだ?」ネルソンが言いながら、テキーラをもう一杯注いだ。


「店主だよ。なんか怯えた感じでトイレに逃げ込んでた。」


ネルソンは肩をすくめ、グラスを傾けた。「あのクソエンチラーダのせいだろ。」


「神よ、彼をお助けください。」俺はウォッカをもう一口飲みながら呟いた。一方、ネルソンはまたテキーラをグラスに注いだ。


アルコールが俺の警戒システムを鈍らせ、代わりに偽りの安心感をもたらした。ギャングたちはそれ以上俺たちに絡んでこなかった。もしかしたら、ネルソンの言う通りかもしれない。


「喉が渇いたし、トイレに行ってくる。」俺は立ち上がりながら宣言した。ネルソンは返事もしないで、テーブルと深い会話をしているようだった。


俺はトイレへとよろめきながら向かった。『左足、右足、空いた椅子を掴んで、ブサイクどもを怒らせるな。』


巨大な戦いの末、俺はなんとかたどり着いた。あと少しで漏らしそうになったがな。「やっと着いた…」と俺はつぶやき、放尿しながら至福の解放感に浸った。


考えがあっちこっちへ飛びながら、さっきトイレに消えた店主のことを思い出した。「あの野郎、大丈夫かな。フフ…」俺は軽く笑ったが、突然凍りついた。『待てよ、まだ戻ってきてないんじゃねぇか?普通、もう出てきてもいい頃だろ?』


俺は頭を振り、集中しようとした。『残った脳細胞を呼び覚ませ!』だが反応はなかった。考えすぎたせいで、排尿の半分を台無しにしてしまった。「くそ…最初からこうだったってことにしておこう。」


手洗い場に移動し、手を洗いながら酔っぱらった自分の顔を見つめた。「アイツ、便器に座ってるわけじゃなさそうだな。」と俺は呟いた。温風乾燥機が温かい空気を吹き出すと、俺は思わず小さく笑った。「あったけぇ手、いいね。」


突然、トイレのドアが開き、俺はびくりと飛び上がった。入ってきたのはウェイトレスだった。彼女は何かぶつぶつ言いながら、トイレにまっすぐ向かった。『クソエンチラーダかよ。』俺はニヤリと笑った。


だが、彼女の声が震えているのが聞こえた。携帯電話に向かって話しているようだ。「はい、今は店内が奴らでいっぱいです。」


俺の笑みは消えた。『待て、それおかしくないか?』


「ええ、分かりました。誰もトイレに入れないようにします。」彼女は鋭い声で答え、さらに震えているようだった。

『考えるな…頭が痛くなるだけだ!』俺の爬虫類脳が発動した。『危険、逃げろ。』


俺はふらつきながらテーブルへ戻り、体内のアルコールが危険を警告する本能を少しだけ呼び覚ました。


テーブルにたどり着いた頃には、俺の警戒心は完全に覚醒していたわけじゃないが、少なくとも微かに鳴り始めていた。


ネルソンはまだ酒に溺れ、空っぽのテキーラボトルを手に笑っていた。ほとんど魂が抜けてるように見える。


「イエス・キリスト、ネルソン、起きろ!ここを出るぞ!」俺は必死に小声で言いながら彼の腕を軽く押した。


「は?リラックスしろよ。なぁ、全然大丈夫だって…ふぃー…」ネルソンは何か言いかけたが、途中で言葉が途切れた。


その瞬間、目の前の世界が閃光と轟音に飲み込まれた。俺の限界ギリギリの感覚が一気に遮断された。


視界が真っ白になり、耳には鋭いノイズが響くばかりだ。


砕けた木片が俺の左側に降り注ぎ、まるで砲弾の破片のように突き刺さったが、アルコール麻酔のおかげで痛みはほとんど感じなかった。『まさか、奴らがフラッシュバンを使って突撃してくるとは!』


目も耳もダメになり、自分の肉体が反応しているのかも分からない。パニックに陥りそうになるたび、頭の中で無意味なことを喋り続けて正気を保った。


『俺の光反射スキルが役に立たない!』 このデバフは永遠に終わらないように思えた。『自業自得だ。普段から眩しさで周りを苦しめてきた報いだ!』


ゆっくりと感覚が戻り始めた時、俺の目の前に広がっていたのは地獄絵図だった。


銃声と悲鳴が響き渡り、弾丸が耳をかすめる音がした。壊れたジュークボックスは相変わらず陽気な曲を流しており、この地獄絵図に皮肉なBGMを添えていた。


瓶が割れ、ガラス片が雨のように降り注いだ。弾丸がテーブルや椅子を粉々にし、木片が四方八方に飛び散る。


ギャングたちは誰が巻き込まれようとお構いなしに銃を乱射していた。『俺たちは終わりだ。』俺はネルソンが何か反応してくれることを期待した。


だが、何の返答もなかった。


恐る恐る彼の方を振り向くと、そこには予想外の光景が広がっていた。


彼は前のめりに倒れ、割れた瓶の底を握りしめていた。まだ笑顔を浮かべたままだ。


彼の右目を弾丸が粉砕し、さらに二発が額を貫通していた。傷口から血が滲み出し、流れ落ちている。


鳥肌が立ち、喉が締め付けられるようだった。まるで時間が止まったかのように、俺はネルソンの動かない体をただ見つめていた。『嘘だろ、お前…?』


ネルソンは死んでいた。

著者のコメント

読んでくれてありがとう!今日はプロローグ全体を投稿するので、ぜひ楽しんでください!


アメリアのコメント

やっほー!また会えたわね!今回も翻訳を担当したアメリアだよ。今回の章は笑いあり、緊張ありでジェットコースターみたいだったでしょ?特に「チョリソー」の話、まさかの展開だったわね(笑)。何か気になる点や面白いと思ったところがあれば、ぜひ教えてね!おじさんをさらにローストするネタになるからさ!次回も楽しみにしててね~!



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