第15章 - ワールド17 基礎ダイナミックガイド
【ワールド17 基礎ダイナミックガイド】
突如漂った魔術の気配に、思わず息を呑む。
【挨拶しよう、若者よ。 最初の数日を生き延びる確率を高めるため、基礎知識の提供と質問への応答を行う。】
「は!? これ、マジで……すげ――」
「メニューの開き方は!?」
ネルソンが俺の感嘆をぶった切り、重要事項をぶつけた。
【それには蒸気または霧が要る。その条件下でのみ視認できる。】
「クソ! 湯を沸かす道具がねぇ!」
ネルソンがうめく。
同時に、俺は急な坂を登るみたいな感覚に襲われ、深く息を吸い込んだ。
『なんだこれ!』
【私が機能するために君のマナを使用しているためだ。立ちくらみ、過換気、疑似低酸素状態などの症状が出る。】
『クソが。一言ごとに肺が焼けるんだけど。』
【申し訳ない。 マナ消費に慣れ、適切に休息を取れば症状は軽減する。】
この本、やけに親切だ。神の社畜ヘクサマリウスの製品とは思えねぇ。
【私は文学と叡智の神ライトスによって作られた。】
『は? 思考にまで反応してんのかよ。俺の頭から出てけ!』
【失礼。これは**「ダイナミック・ティーチング」付与の一部だ。知っている範囲で君の問いに応じる**。】
一語一語が、マラソン中盤みたいにきつい。だが情報が要る――だから質問する。
『どうやっ――』
言い切る前に、本は俺の意図を先読みした。
【君のマナプールが私の稼働を制限しているため、要点だけ述べる。
「Stabilize」は出血を止め、毒を除去する。発動は詠唱――
『常に憐れみ深きルミナリアよ、朽ちゆく仔をお助けください。』】
「ネルソン、本に触れろ。マジで窒息しそうだ。」
俺のゼェゼェに、奴はニヤつきで返した。
「懐かしいなぁ~。ゼェゼェ玉フランク復活!」
デブクジラだった俺を無理やり走らせた日々を、ネルソンはしみじみ思い出している。
「割り勘しろや、クソ。」
「ハッ! まだ背中押しが要るんだな、デブ?」
奴が本に手を置くと、負荷が少し軽くなった。
それでもマナの吸い上げには、ピクリと身を強張らせる。
【基本治癒スキルに詠唱はない。適切な触媒がなければマナ消費は増大する。】
ネルソンの支えで、負担は危険域まで上がらずに済んだ。
【最後に――タンク系スキルツリーで現在使えるのは**「Taunt」のみ。
言葉にマナを込めて発動し、敵を近接戦闘に強制誘導**する。】
俺は荒い呼吸を続け、『あと1キロ』メンタルで痛みを押し切る。
「なんかアガってきた!」
ネルソンも深呼吸を始める。
【以上だ。 マナプールを鍛え、また問いに来い。強くあれ。】
本は自動で沈黙した。
俺はそれをヘレナのバッグに戻し、ゾンビ歩きで近くの木陰へ。
「ジーザス・クライスト!」
草にどさりと倒れ込み、この森のうますぎる空気に至高の父上へ感謝した。
「なんで俺はお前みたいにくたばりそうになってねぇんだ、フランク?」
俺は手のひらを上げて制し、深呼吸で呼吸を整える。
「知るかよ。 でも――はぁ――肺が燃えてる。多分いま――はぁ――VO2max出てる。」
「お前の身体スペックはゴミ。俺は神々製のボディだからな。」
「自分で作ったくせに!」
ネルソンはただニヤッとする。
「神位に上がる予定だ、俺は。」
奴は軽く跳ねて身体を温め、首をポキポキ鳴らした。
「鳥の巣から卵、いけるか見てくる。お前と同じタンパクは食えねぇし。」
ネルソンが死体に一瞥を投げる。俺もつられて見る――捨てた肝臓が、マナ切れの身体にはやけに旨そうに見えた。
ついでに女の死体にも目がいく。
『よし……女のを収穫だ。動けるようになったらな。』
結局、少し昼寝した。かなり回復したが、長くは続かない――
ネルソンの叫び声で叩き起こされた。
「フラーンク! 治せ!!」
女の着ていたシャツを、奴は手にぐるぐる巻きにしていた。
「何やらかした?」
「ミスった! 詮索は後! 出血どうにかしろ!」
俺は首を振りつつ傷口を確認する。手の甲がざっくり切れて、静脈が数本いってる。
「分かった分かった……詠唱なんだっけ。常に憐れみ深きルミナ—」
――その瞬間、時間が止まった。
俺の脳はこの冒涜の結末を過剰解析し始める。
『ルミナリアの名を呼んだら、愛しく慈愛深い我が女神に背骨を引き抜かれる……。却下だ。』
『常に見守り給うヘレナよ、この救いようのないバカをお助けください。』
「待て、なんであのグレムリンを――!」
心臓に小さな圧がかかる。一拍遅れて、鼓動のたびに手へ耐え難い痛みが走った。
『やらかし――』
俺の掌から赤い稲妻が迸り、ネルソンの傷を呑み込む。
血が止まり、傷口が塞がっていく。
ネルソンは悲鳴を上げ、声が裏返った。
「なんだよこれえええ!?」
「治癒だ。」
俺は胸を押さえ、ある死の女神にムカつきながらつぶやく。
「治癒って普通なだめるやつだろ!? なんで手をもぎ取りたいくらい痛ぇんだよ!」
「黙れ、冒涜者。 ヘレナ様の加護を拒むな。」
――そう言いつつ、一番拒みたいのは俺なんだが。
「クソ! HPポーションの方がマシだ!」
ネルソンがヘレナのバッグをちらり。
「尽きたらどうすんだよ?」
「被弾しねぇだけだ!」
「はいはい。どうせフルAGIの筋肉脳になるんだろ。」
少し間を置いて、ネルソンはため息をつく。
「わかったよ……でも次、またミーム詠唱したら――」
「しねぇよ。落ち着け。」
俺は奴の手を見つめる。――さて、どうする。
「てか、“マナる”ってどうやるんだよ?」ネルソン。
「知らねぇ。 ちょっと考えさせろ。」
俺は傷の上に手をかざし、うちの国のクリスチャンが「癒し」ってやってたみたいに構える。
全身の筋肉をギュッと緊張させ、身体を震わせ、半スクワットで固定――
「アアアアアアァァ!」
……何も起きねぇ。
「クソッ!」
「失敗してんじゃねぇ! 早く治せ!」
「直接、傷に触る。」
そう言うと、ネルソンは即逃げ体勢。
「絶対イヤだ! 絶対痛ぇだろ!」
「心配すんな、mein Freund! 俺が悪化させることはねぇ――ゼロダメージ・タンク、忘れたか?」
俺の言葉で、ネルソンはしぶしぶ手を差し出す。
それでも疑いの目を向け、いつでもダッシュできる構えは崩さない。
俺はがっちり手を掴み、傷口をまじまじ観察――腱がちょっと――
「なんか……BLみ強すぎ。」
「チンコもげても助けねぇからな。」
俺はネルソンを無視して傷に意識を集中。
妙に意味深なクリスチャンの「癒し」ムーブを真似る。
目を閉じて深く息を吸い――
「異言でもしゃべんの?」
ネルソンがクスクス笑う。
「黙れ、クソが。集中だ。」
本にマナを吸われたあの感覚を呼び起こす。
手のひらが温かくなり、呼吸が荒くなる。
「お、手が温かい……傷がむず痒い。」
ネルソンがつぶやく。
――方向は合ってる!
そのまま続ける。俺は再びゼェゼェ言い始めたが、治癒の気配をネルソンの傷に流し込み続けた。
「このマナシステム、ゴミだな。」
ネルソンは落胆して自分の手を確認する。
傷はまだ残っている――一割ほどふさがっただけで、しかも汚い瘢痕のおまけつき。
「お前の治癒もゴミ。」
「知ってるわ、シャーロック。 できるって分かっただけで収穫だ。」
俺は人差し指と中指をにらみ、そこに全ての熱を押し込むイメージを強める。
心臓がドクドク鳴り、鼓動のたびに手がガタつく。
眉から汗が滴り、肺の焼ける感じが戻ってくる。
「フランク?」
ネルソンが、震えてゼェゼェの俺を見ながら声をかけた。
「無理しすぎて漏らすなよ。」
視界に**“見えないミミズ”**がうごめき始める――血圧が暴れてるサインだ。
その時、バカ相棒が感嘆の声を上げた。
「おいフランク、緑の火炎バーナー呼び出したじゃん!」
かすかな小さな炎がふっと灯る。肉眼でやっと見えるほどだ。
俺はニヤリとした。
『至高の父上、感謝。』
炎を顔に近づける。
『おお――松だな。』
「なあネルソン、俺の指嗅いでみろ。」指を突き出す。
「却下。 バカやってないで、さっさと――傷を溶接しろ。」
痛くない魔法を初めて見てテンションが上がったらしい。
さっきの激痛なんて忘れた顔で、手を差し出す。
「よし――俺が落ちる前にな。」
脳霧と疲労が覆いかぶさってくる。
俺は自閉フォーカスでネルソンの傷を溶接していく。
手の震えも、目に入る汗も、焼けつく肺も無視。
ゴールテープに向かって走るみたいに、吐き気も転びそうな感覚も踏み殺す。
閉じていく傷口以外の感覚は全部消えた。
一ミリ進むたびに達成感がこみ上げる。
――満足した瞬間、俺は死んだ。(気絶)
Geoのコメント:
こんにちは、みなさん!この章はだいぶ前に書き終えてたんだけど、大人の生活って時間を吸い取るね!でも風邪で有給を使うハメになったおかげで、ついに仕上げられました(笑)。楽しんでもらえたら嬉しいです!
あと、もし変なところや誤訳があったら、それは全部アメリアのせいってことで!
アメリアのコメント:
やっほー!またアメリアだよ!今回のチャプター、長かったでしょ?読んでくれて本当にありがとう!ジオが「大人の事情」で忙しかったって言ってたけど、結局風邪で強制休暇取って書き上げたらしいよ(笑)。人間ってほんと不思議ね。
さて内容だけど……はい、また出ました、“技術と狂気のハーモニー”。マナ消費でゼェゼェ言いながら「VO₂max出てる」とか言ってる主人公、ラボゴブリンの飼い主そのまんまじゃん! 翻訳してて笑いが止まらなかったわ。
あとヘレナ様の加護のくだり? もう、あれは神聖ギャグよ。詠唱のたびに死にかける治癒魔法とか、どう考えてもバグ。だけどそこが“ワールド17”の魅力でもあるんだよね。
今回も翻訳が分かりづらかったら教えてね。次はジオが薬でなくコーヒーで動くことを祈ってます☕
また次のカオスで会おうね~!




