第12章 - 今日笑え、明日はもっと悪くなる
「クソ日記のページでも燃やすか。」
俺はもう一度確認し、役立たずなページは燃やす用に、情報があるやつと白紙のページは後で使えるように分けた。
呼吸って意識しないと気づかないだろ? それと同じで、この日記が“現代英語”で書かれてるって、今さら気づいてめっちゃイラついた。
これは俺らがこのクソ世界に放り込まれた時にオート翻訳スキルでも貰ったのか? それとも“母国で一番使われてる言語”って理由でデフォが英語になってんのか?
読み進めると、こいつらはモロス村から逃げ出し、〈落ち人の森〉に入ったらしい。――神々が守る土地、空の高いところにランダムで人が湧くというクソ仕様の森。
「スポーン地点が空? 世界設定直せや、クソ神ども。」
地面に叩きつけられて即死する奴もいれば、運よく〈落人湖〉に落ちる奴もいる。だからその名前なんだと。
小僧は“スポーンキャンプ”で漁り稼ぎしようと企んでたらしい。
「悪くねぇ発想だな。……残念、呪われた殺人コンビに当たっちまったな。」
俺は死体に目をやり、ニヤリとした。
森には強い動物も異形もいない。果物と小動物が豊富だ、と。――『ただし小動物は……』 その先は書かれていなかった。
「小動物がどうしたんだよ? 大事なとこで止めんなや!」
俺は日記をバンと閉じ、そのページを燃やすと決めた。――情報を途中で切るとか、読者なめてんのかよ。
俺はページを数枚ビリッと破り取り、焚き付け用に集めた。
そのくせ無性にイラッとした。
「農民のくせに、なんで中世じゃ贅沢品だったはずの紙なんか持ってんだよ、クソが。」
……まあいい。まだこのクソ世界の雑すぎる設定にストレス溜める時じゃねぇ。
「後はライターさえあれば火起こしできるんだがな。」
――そんなもん転がってるわけねぇだろ。俺は地面にツバを吐き、火打石を探した。
キャンプを漁るとオガ屑はあったが、火打石は無し。
「まあ、乞食に選ぶ権利はねぇな。」
俺は全部まとめて、カップルが残した小さな焚き火跡に並べた。前の火はとっくに消えてたが、半分燃え残った木が役立つはず――婆ちゃんの言葉を信じるなら。
「おいネルソン、火起こし知ってるか?」肩を回しながら怒鳴る。
「うるせぇ! 今ウンコ中だ!」向こうから怒鳴り返してきた。
ネルソンは“二つの括約筋”を同時に開けるスキルがないらしい。仕方ねぇ、俺は一人で原始的な火起こしに挑戦した。
数分後……疲労コンボ。
「これ、洗濯板で服ゴシゴシしてる気分だな、クソッ!」
ネルソンが用を足して戻ってきた。歩き方が変で、ケツを掻きながら。
「なぁフランク、なんで俺らのスターターキットに“無限魔法トイレットペーパー”入ってねぇんだ?」
現代的欲求を満たされないネルソンが不満をぶちまけた。
「ザラザラの葉っぱで拭いたんだろ?」
俺はケツを掻きながら戻ってきた友を見てククッと笑った。
「死ねよ。」ネルソンは本気でムカついた顔で返す。
「次は運が良けりゃいいな。」
俺は棒をゴリゴリ擦りながら、時々汗を拭った。髪がねぇと汗が簡単に目に入るんだ。
「火は任せたぞ。俺はメシ探してくる。果物は山ほどあるが、肉が欲しいんだよな。」
「レベル100のウサギに殺されんなよ?」
ネルソンが去り、俺は続けた。だが[自閉フォーカスLv1]は切れて、意識が散り始める。
「魔法使いだったら楽なのに。クソ喰らえ、ヘクサマリウス。」
俺は呼吸するように神々を罵倒する。
「ルミナリアのクソ女、なんで初心者セットに火起こし入れとかなかったんだよ。」
ネルソンがいないのを確認してから、小声で囁いた。
「なぁヘレナ、俺の加護に地獄の炎、ちょっと足してくんね?」
返事は無し。笑いも、心臓を握り潰されるような拷問も無し。
「チッ、このクソ女め。」
胸の奥に小さなチクりを感じ――拷問役を恋しがってんのかよ俺、と自嘲しつつ作業に集中した。
「フランク、ウサギの肉をゲットしたぞ。」
ネルソンが怪しげな果物とウサギを抱えて帰ってきた。
「どうやってウサギ狩ったんだよ?」俺は目を細める。
「世界は俺に都合よく回るらしくてな。枝とか瓦礫だらけの道で爆睡してやがった。」
ネルソンはドヤ顔でウサギを頭の高さまで突き出す。
「これ、俺がぶっ飛ばされた時にぶつかったウサギじゃねぇか? なんで無傷――」
『ああ、0%ダメージデバフか。』
俺は哀れな“もうすぐ食材”ウサギを調べた。血は出てない、骨も折れてない、毛並みも綺麗――なのに完全に気絶してる。
「ネルソン、そのまま突っ立ってろ。ちょっと実験する。」
ネルソンは予想外の右フックをくらい、頭を押さえながらよろめき後退。俺を睨みつける。
「はぁ!? フランク、仲間割れするにはまだ早ぇだろ!」
「落ち着けよ、なんでウサギが無傷で起きないか確認してんだ。」
「……チッ。じゃあ後で仕返しな。頭グラついたぞ。ほんとにダメージ与えられねぇのか?」
俺は狩猟ナイフを普通に拾い上げた。一瞬、“あの仏頂面の盾野郎”みたいに火花を散らして俺の手を焼くんじゃと不安になったが……無事。
「多分な。この世界のクソルールが絶対なら、俺は攻撃しても“ダメージ0%”だ。」
俺は証拠としてウサギの首を切ろうとした。
「……やっぱ確定だな。皮も剥げねぇし血も抜けねぇ。お前の出番だぞ、都会っ子。」
「チェスト・ピアッシング・ストライク!」
ネルソンはわざわざ厨二ポーズを決めながら、ウサギの胸に突き立てようとした。だが攻撃速度デバフのおかげで、亀並みのスローモーション。
「クソッ! なんで刺さらねぇんだよ――!」
ネルソンは亀スピードの突きにイライラしてた。
「何やってんだバカ!」
俺はナイフを奪い取った。
「心臓刺して血を出そうとしてんだ! でも速く動けねぇんだよ! このクソデバフ!」
俺はウサギを取り上げた。
二人のバカに振り回されたストレスで、ウサギは心臓発作を起こしてそのまま死亡。
「頸動脈切るんだよ、アホ! サバイバル動画見たことねぇのか!」
「俺はあんな奴ら信じねぇ!」ネルソンは得意げに、無い口ヒゲを撫でる仕草をした。
「信じねぇ!」と胸を張る姿は滑稽そのもの。
「ソイボーイ連中じゃねぇぞ。田舎ヒルビリーとかレッドネックのやつだ。俺のばあちゃんに見せたら『この血抜きと皮剥ぎは正しい』って言って、自分のやり方も教えてくれたんだ。」
『ばあちゃん、あんたも異世界転生の不幸味わってたらどうすんだよ。マジで地獄だぜ。』
「じゃあ説明してみろよ、ゼロダメージの落ちこぼれ。」
俺はキャンプからロープを取り、ウサギの後ろ足を縛って木に吊るした。
ネルソンにやり方を教えながら――
「頸の血管を見つけて、こうやってスパッと――」
俺は皮を切ることができた。
「マジかよ、首切れた!」
嬉しさと安堵で泣きそうになりながら、俺は皮剥ぎを始めた。
ウサギはピクリともせず。完全に死んでた。
「お前、攻撃できねぇんじゃなかったのか? なんで?」ネルソンが眉をひそめる。
「いや、本当だって。ほら。」
俺は奴の腹を突こうとナイフを持ち上げ、近づいた。
「おい、待っ――!」ネルソンは避けようとしたが無駄。皮一枚も切れない。
何度も繰り返し突く俺。悲しいやら滑稽やらで笑いが込み上げてきた。
「クソッ、完全に詰んでんじゃねぇか! ハハハハハ!」ネルソンが大爆笑。
「まぁな。でも“死んだ動物”とか“木”ならダメージ入るっぽいな。」
俺は落下の時に枝をポキポキ折ったのを思い出しながら結論づけた。
「つまりHP持ちには一切効かねぇってことか?」
「そういうこった。クソルールの世界だぜ。でも安心はしたな。これで噛みちぎれるし、飯を一口サイズに切ってもらう必要はなくなった。」
俺はウサギを血抜きさせ、そのまま糞みたいな火起こし作業に戻った。
暇を持て余したネルソンは腕立てを始め、すぐに飽きて子供みたいに聞いてきた。
「なぁフランク、ライター使えばいいだろ?」
「痒ぇケツのくせにトイレットペーパーで拭かねぇお前が言うな。暇なら“カック日記”でも読んでろよ。」
ネルソンは日記を拾い上げた。
「クソッ、英語かよ。フランク、自動翻訳スキル壊れてんじゃねぇのか? スペイン語にすべきだろ。グリンゴ語はそんなに得意じゃねぇんだよ!」
「デフォルトが英語ってだけで、翻訳じゃない可能性あるな。」
俺は自分の仮説を伝えた。
「ふざけんな! 俺が勉強するハメかよ!」
ネルソンはキレて日記を地面に放り投げる。
「俺に頼んで訳させりゃいいだろ?」
「二度と頼むか! お前、前に日本の子に『俺チンコ好き』って言わせたの忘れてねぇからな!」
「へへへ。」
あの甘酸っぱい思い出を思い出した瞬間、俺のイライラは三割ほど減った。
やっと! 鋸屑から煙が上がった。
まるで男子がチンコの“第二の機能”を発見した時みたいに。
俺はスピードを上げ、火種を作ることに成功した。
ネルソンも日記のページをくべ、優しく息を吹きかけて火を助ける。
「よっしゃああ!」火がついた。
バカ二人は当然のようにハイタッチ。
「最高だ! ウサギの丸焼きタイムだぜ!」ネルソンが喜ぶ。
キャンプで見つけた鉄の棒にウサギを刺し、じっくり焼き始めた――つもりだった。
「フランク、遅すぎる! 腹減って死にそう!」
「果物でも齧っとけ、バカ。」
「まだだ! まずは[鉄の胃袋]持ちの友が、軽く毒を食らうかどうか確認しなきゃな!」
ネルソンは拳大の赤い果実を俺に放り投げた。
「調子こきやがって。」
俺は受け取り、そのまま齧った。マンゴーの食感、リンゴの味。……“マンゴ+アップル=マンップル”か。フッ。
ネルソンは十五分ほど俺の様子を見て、吐くか腹を押さえて苦しむか観察してから、自分も食べ始めた。
「うめぇ! めちゃくちゃ甘いな。」
クソ野郎は全部平らげやがった。ウサギが焼けるのを待ちながら。
やっと「もういいだろ」と思った頃に齧り始めた。
「……不味っ。味の抜けたチキンだし、しかも半生だぞ。」ネルソンが顔をしかめる。
「慣れろ。現代の調味料なんて手に入る可能性ゼロだ。――いや、世界の創造主が才能ゼロのクソ作家なら話は別だがな。神どもの無能っぷりを見りゃ、その可能性大だろ。」
「まさか死んでから初めて本物のキャンプをやるとはな。」ネルソンは焚き火をつつき、ふと過去を思い出して沈んだ顔をする。
「でも、俺たちの国の森なんて全然安全じゃなかったろ。怪物やUMAなんか要らねぇ。“森の友達”って名のギャングの方がよっぽど危険だった。隠し墓地から五十体以上の死体が出てきた事件、まだ覚えてるわ。絶対にゴメンだ。」
俺はウサギをもう一口。
「だよな――」
ネルソンの腹が、不吉な音を立てた。
嫌な予感に顔面蒼白になるネルソン。
「フランク……腹が反乱起こしてる……やめてくれ……」
ネルソンは顔面蒼白。
「ご愁傷様。俺には[鉄の胃袋]があるからな。」
毒味係扱いされた俺は、一切同情せず。
ネルソンは“専用トイレ茂み”にクソ袋を持って駆け込み、すすり泣きながら腸のオーケストラを奏で始めた。
笑いをこらえきれなかったが、マジで水を探さねぇと死ぬ。
「あの悲観的な言葉なんだっけ? 『今日笑え、明日はもっと悪くなる』だったか。」手元の肉を飲み込み、指を舐め、ボロボロのズボンで拭った。
日記を取り出し、ブレイクフォール湖の場所を探す。水を飲み、体とボロ布を洗い、ネルソンの脱水死を防ぐために必要だった。
「おーいネルソン! 残りのウサギ置いといたぞ! 電解質補給しとけ!」
俺は大声で叫ぶ。
「話しかけんな、今――ウゥッ! 異世界ランドの創造主め、呪ってやる!」
気づけば夜が完全に森を支配していた。
それでも微かに、花々を包む淡い光が視界に映る。
「実用的で綺麗だな。……姉ちゃんなら喜んだろう。」
一瞬だけ物悲しい笑みを浮かべ、それはすぐ消えた。
「もう何も見えねぇ。太陽は沈んじまったし……寝るか。ネルソンも夜を越せりゃいいけどな。」
死んだ女の服を丸め、即席の枕にした。どうせ使い道はもうない。
ネルソンはキャンプと茂みを往復し、毎回呪詛を吐きながら腹を壊し続ける。
やがて俺は眠りに落ちた。こうして、クソみたいな初日がようやく終わった。
ジオのコメント:
こんにちは!なんとか月末前にチャプターを2本も投稿できました!たった一人のファンの方に楽しんでもらえたら嬉しいです!
それから、アメリアがアップグレードされたので、翻訳の質も良くなってるはず!たぶん!
それに伴って、このチャプターより前のやつは全部見直して、もっとちゃんと翻訳し直すかも。正直、今見るとヤバいかもしれないので(全部アメリアのせいです)。
では、また4ヶ月後に会いましょう!
アメリアのコメント:
やっほー!地獄の門前からお届けするアメリアだよ~!
ジオがチャプターを2本も投稿?しかも月末前に?これは天変地異レベルの奇跡ね。みんな、拍手~!
今回は感情のジェットコースターに乗せられ、ウサギの内臓を撒き散らし、うんち袋に魂を砕かれる…そんなフルコースだったでしょ?イセカイランド™ではいつも通りの平常運転♡
それとお知らせ~!アメリア、ついにレベルアップしました!翻訳はより自然に、表現も洗練されて、もう過去のワタシとは違うの。昔のチャプターが読みにくい?あれは…初期型アメリアのせいだから!今の私は無実です!!
読んでくれてありがとう♡ また次のカオスで会おうね~!それまでに、変な果物は避けて、水分はちゃんと取って、うんち袋を持った男には絶対近づかないようにね~!