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第7章 - 後でね

ネルソンは右手を胸に当て、恭しく頭を下げた。その声は皮肉たっぷりだった。

「おお、偉大なる小物神ヘクサマリウスよ、あなたに神聖な賛美歌を捧げましょう。」


【You are coping~】


俺はリズムに合わせて拍手し、ネルソンの演出を盛り上げた。


【Coping and seething~】


ヘクサマリウスはすでにブチ切れ寸前だった。泡を吹き、充血した目を狂ったように痙攣させていた。


奴は最も雷鳴のような声で叫んだ。だが、俺たちは一瞬震えただけで、スキルが恐怖効果を打ち消した。


「貴様らが新たな地に降り立った瞬間より、我が信者すべてを動員し、貴様らを狩り尽くしてやる——!」


奴の頭部を包むように黄金の膜がパチンと弾け、口を封じた。


奴の目が大きく見開かれ、上空を仰いだ。『至高なる父に転送の中止を嘆願しているのか?ククッ。』


ヘクサマリウスは残りわずかな尊厳すら捨て去り、整えられた髪を両手で引きむしり始めた。

その無音の悲鳴は、実に心地よかった。


血と涙、怒りと神聖なる鼻水の渦の中、奴の醜悪な顔は消えていった。最後の最後まで、俺たちを指差しながら——。


「HAHAHA、俺は神を自らの呪いで打ち負かしたぞ!HAHAHA!」


ネルソンは、まるでゲームのバグ技を発見したプレイヤーのような自信満々な態度で叫び、胸を張りながら拳を腰に当てた。


こいつが年老いてボケ始めたら、この話を孫たちに何度も語りそうだな…すぐに想像がついた。


俺は呆れつつも満足しながら、ネルソンの方へ歩いた。


「お前というやつは…」俺は彼の背中を思い切り叩いた。「お前、あのクソ神の顔面をティーバッグして俺たちを詰ませやがったな!」もう一発叩く。「でも、あの小物っぷりは処刑されて当然だ。」


「そうだな、あのクソが—」


俺はネルソンの口を塞ぎ、さらなる血祭りを防いだ。

絶対に俺までティーバッグされるわけにはいかない。


「トリガーを覚えとけよ、バカが。」

俺は血まみれになった手をネルソンの裸の胸にベタっと拭った。『クソが、男の血とか最悪だ。』


「サン…え?待て、俺、血出てんのか?!」

ネルソンの目が見開いた。


「おう、お前のスキル効果、ちゃんと読んだか?」


奴は鼻を触り、真っ赤に染まった指先を凝視した。

その脳が現実を受け入れるまでに、約5秒。


「クソッ――俺、死ぬ!ヒールしろ、ヒール奴隷!」

ネルソンは完全にパニックに陥った。


「落ち着け、死なねぇよ。」


「ヒールしろ!このバカ!俺、出血多量で死ぬ!!」

奴は俺の肩を掴み、絶望の力でガタガタと揺さぶった。


「ヒーラーを舐めるなよ。俺たちは結構根に持つぞ?」

俺はニヤリと笑った。ああ、思い出した。『俺、クソみたいなヒーラーになるの大好きだったわ。』


「ヒールしろって――」


ネルソンは叫びかけたが、途中で言葉を切り、視線を下に向けた。「あれ、出血止まってる…?」


もう一度自分の体を確認した。説明通り、出血は止まり、死ぬ気配もない。


「つまり、お前は読んでなかったんだな?マヌケが。」

俺はため息をついた。


「ざっとしか読んでねぇ。」

ネルソンは床にドカッと座り込み、ようやくスキルの詳細を読み始めた。


「クソッ、ダメージ出力がガタ落ちじゃねぇか。まあ、これならまだ利用できるか—」そこで奴の目がデバフの項目に留まった。


手が、小刻みに震え始めた。まるでヒトラーの最期のように。


深く息を吸い、ネルソンは厳かに言った。「フランク…俺、一週間オナニーできねぇ。」


そのあまりの絶望感に、俺は爆笑した。


「ちゃんと読まなかった罰だな。」

俺はネルソンの隣に腰を下ろしながら言った。


「読書は負け犬のすることだ。」

こいつ、まだ元気そうだ。大丈夫だろう。


俺たちは、前方の虚空を見つめながら、まるでロボトミー手術を受けた猿のようにボーッとしていた。


「あと三時間で、俺たちの楽しくて幸せな異世界生活が始まるんだな。」


「そうだな。そして俺は、一週間異世界女を味わえねぇ。」

ネルソンはまるで死刑囚のように呟いた。


「それにしても、あのクソ神、なんか肝心なこと隠してねぇか?」

俺は床に手をつきながら言った。「誰が俺たちをこのクソゲーに選んだんだ?」


『彼ですよ~』グリミーちゃんが答えた。


『あの社畜神!』


『ポケットの中を見てみて~』


俺は、小さな少女から渡されたボロボロのチケットを取り出した。

見つめると、そこから神聖な力が漂っていた。


『ふざけんなよ…。』


『これは恩恵ですよ~、フランクさん♡ トリックなんてありませんよ~♪』


『はぁ…』

直感が叫んでいる。「絶対に信用するな」と。

『お前、本当に使い方わかってるのか?』


『もちろん知ってますよ~♡ でも、私の指示に従ってもらいますよね~?』


断りたかった。

俺の本能が、全力で警鐘を鳴らしていた。


『フランクさん、今すぐ受け入れるか~、それとも…』

彼女の甘えた声が、突然ぞくりとする危険な色を帯びた。


俺の目が冷たくなり、視界が歪む。

すぐに痛みが走り、偏頭痛を超えるような激しい苦しみが襲った。


『少し遊んでからにしましょうか~?』


選択肢は二つ。

素直に従うか、苦しんでから従うか。

自由意志?そんなものは存在しない。


『わかったよ、付き合ってやるよ、小さな悪夢め。』


半ば満足げに、彼女は指示を出し始めた。


『まずは、立ってください~♡』


俺はまるで銃を突きつけられたかのように、逆らうことなく立ち上がった。


『では、お口を大きく開けてください~♡』


『は?何のため—』

言い終わる前に、灼けるような冷気が胃を焼き、腹が膨れ上がった。

体を締め付けるような圧力と、食べ過ぎた時の何倍もの寒気が全身を襲う。


その結果、俺は 大量の血をぶちまけた。


「フランク!?今度は何だよ!?」

ネルソンが短い絶望タイムから復帰した。


「グリミーちゃんの仕業だ、心配するな。」

俺は答えながらも、口から血が噴き出し続ける。

今までと違い、今回は 地面にしっかりと溜まっている。


「おい、マジで死ぬなよ、フランク。せっかく俺のポケットメディックができたのに!」

そう言いながらも、奴は明らかに距離を取っていた。

グリミーちゃんの反応を恐れているのが見て取れる。


しばらくして、ようやく血の噴水が止まった。

喉はガラガラ、体はガクガクと震え、膝は ヨロヨロ… だが、俺は立ち上がった。


口元を拭いながら、不敵に言い放つ。「さあ、次は何だ?小悪魔め。」


『うふふ~、少しは根性が出てきましたね~♡』

グリミーちゃんは明らかに楽しんでいた。


右手の人差し指に、ひんやりとした感触が残る。


『その指で、「ヘレナ大好き」って書いて~♡ それから、ハートで囲んでくださいね~♡』


『は?俺がそんな腰抜けに見えるか—』

言い終わる前に、俺の体が小刻みに震え出した。

命令に従おうとする体…これは彼女の力か?それとも俺の本能か?

どっちにしろ、抗うことは無意味だった。


俺の指が触れた血は 黒く染まった。


『次は何だ?』

できる限り冷静を装って聞いたが、俺の声は震えていた。

そして、彼女はそれをしっかり理解していた。


ネルソンは俺をじっと見つめ、口パクで言った。

『飼い慣らされてるな。』


『次はですね~ その血のついた手で、頬の焼印をなぞって~♡ それから、唇に塗って… 私の名前にキスしてくださいね~♡』


このグレムリン、完全な 服従 を求めていやがる…クソッ。

俺は 必死に 抵抗したが、結局、彼女の意思には逆らえなかった。


俺の体は完全に支配され、膝が崩れ落ちた。


『キスしてください、フランクさん~♡ 絶対に後悔しませんよ~♡』


体が思うように動かない感覚が、かつてのゆっくりとした死を思い出させ、怒りが込み上げた。


『…わざとやってるな?』


彼女の悪意たっぷりのくすくす笑いが、答えの代わりだった。


抵抗しても、従っても、彼女にとってはどちらでも楽しめるのだろう。


血の池が 黒く染まり、腐敗と死の 馴染み深い臭い が漂い始めた。

周囲の温度は氷のように冷たくなっていく。


全裸のネルソンが寒さに震え始めた。


「フランク!?」

ネルソンは歯をガチガチ鳴らしながら、答えを求めるように俺を見た。


「俺にもわからん。」

俺はそう答えながら立ち上がり、目の前で起こる異変を見つめた。


黒く染まった血の池が天へと噴き上がり、やがて 繭 を形成した。その塊は、まるで 成長しすぎた胎児 が中にいるかのように 不気味にうごめき 始めた。


やがて、辺り一面に クスクスとした笑い声 が響き渡る。


「フランク!?」

ネルソンが再び俺を呼んだ。

今度は、明らかに 焦り をにじませた声だった。


「…グリミーが、顕現する。」

俺は 生唾を飲み込んだ。ついに、俺の 拷問者 と対面する時が来たのだ。だが、その一方で、俺の中には 彼女に会いたいという小さな願望 があった。


繭がひび割れ始めた。その隙間から姿を現したのは 小柄な少女 だった。せいぜい 150cmほど だろう。


その 唇 や 肌 は、まるで 血を抜かれた死体のように青白い。皮膚は骨に張り付き、黒髪はまだらに抜け落ち、脆くボロボロ だった。さらには 頭蓋骨の一部が露出 している。


彼女の身体は、艶のある黒いサマードレス に包まれていた。膝丈より少し長め のデザイン。


だが 手足は完全な骨 であり、それを 乾燥した薄い皮膜 が覆っていた。指先には、ひび割れた爪がついている。


彼女は 腕を組んだまま横たわり、まるで 死体のように動かず そこにいた。


「おやおや~、眠れる森の美女に キスで目覚める 気はないのですか~♡?」


彼女は 微笑みながら、半分だけ目を開けた。


俺は 沈黙を貫いた。

従いたくなる衝動を 必死に抑えながら。


「それはダメですよ、フランクさん~♡」


彼女は ゆっくりと目を開いた。

そこにあったのは 光を飲み込む漆黒の瞳。まるで 虚ろな空洞 にしか見えない、異質な美しさだった。


「女の子に 好意を返されたら逃げるタイプ ですか~?♡」

彼女は いたずらっぽく微笑んだ。


ネルソンは俺の方を見て 土下座の準備 を始めた。グリミーちゃんの 威圧感 は、ヘクサマリウスを 完全に凌駕していた。


「…このご婦人はどちら様?」

ネルソンは明らかに動揺しながら尋ねた。【精神耐性】 ですら、彼を守ることはできなかった。


「彼女はグリミー、死と再生の女神 だ。」俺はネルソンに伝えた。「害はない…少なくとも、お前には。」


「まあまあ、フランクさん、ネルソンさんを 怖がらせないでくださいね~♡」


彼女は 半眼で微笑む。


そして 繭から軽やかに飛び出した。子供のように ピョンッと 跳ねる動作だった。


「ふふっ、もう 逃げ出しそう ですね~。」


彼女は 黒いドレスの裾を軽く払い、衣装を整えた。

繭は サラサラと崩れ、塵となった。


「フランクさん~、まさか 私を立たせたまま にするつもりは ありませんよね?」


彼女は ゆっくりと、俺の方へ歩いてきた。

冷気を纏った存在感 が、歩くごとに 濃密になっていく。


やがて、彼女の 氷のように冷たい指 が、俺の 胸 にそっと触れた。


俺の 生命力が吸い取られる感覚 が広がる。体温が 急激に低下 し、俺の足元が揺らぐ。


「床に座ってください~♡」


優しく囁くような声 だった。しかし、それは 否応なく従わざるを得ない命令 だった。


『俺は椅子に見えるのか—』


その瞬間、彼女の指が 俺の胸に突き刺さった。

皮膚を 軽々と貫通 し、触れた部分が 瞬時に枯れていく。

耐え難い激痛 が体中を襲い、俺は 本能的に命令に従った。


だが、それでも 睨みつけることはやめなかった。俺の瞳には、燃え盛る怒りの炎 が宿っていた。


彼女は くるりと軽く回転 し、俺に背を向けると、

俺の膝の上にポスンと座り込んだ。


まるで いたずら好きな猫 のように、しっかりと収まる。


氷像のような冷たさ に、俺の肌がヒリヒリと痛む。

だが、彼女が 俺の生命力を吸い始める と、彼女の体温が上昇 し、代わりに 俺の体温が急落した。


頭が ぼんやり し、全身を悪寒が襲う。筋肉が痩せ細り、心臓の鼓動が弱々しくなる。


だが、彼女の 凍てつく体 はやがて 心地よい冷たさ へと変わった。まるで 猛暑日にエアコンの風を浴びる感覚 だ。


細い腕はそのまま だったが、脚はしなやかで魅惑的な形 になり、骨のようだった尻 は 柔らかく、丸みを帯びていく。


さらに、割れた爪は健康的に伸び、鋭い爪のように変化 していった。


彼女が 十分に満たされると、俺の意識は クリア になったが、体は まだ疲れ切ったままだった。


「ぺたんこ~♡」

彼女はそっと囁きながら 顔を上げ、その 蒼白で美しい顔立ち と、魂を吸い込む漆黒の瞳 を見せつけるように 微笑んだ。


彼女の 影響か、それとも純粋な美しさか——

俺は 抗えずに惹き込まれた。弱った心臓が跳ねるように高鳴り、俺の中に かすかな活力が戻った。


俺の視線が 彼女の胸元 へと移動する。すると、彼女は タイミングを合わせたように ドレスを引き、そこにある 薄桃色の蚊刺しレベルの膨らみ を露わにした。


さらに 片脚を持ち上げ、彼女の すべてのフロント資産 を惜しみなく見せつける。


『素晴らしい!』俺は恥もなく 歓喜の宣言 をした。


残ったわずかな力を振り絞り、手を彼女の胸と持ち上げた太ももに添える。


そこから伝わる ひんやりとした感触 が、俺の内なる炎を 激しく燃え上がらせた。


『この宴に感謝を! 慈悲深きヘレナよ!』


「うふふ~♡」

彼女は 嬉しそうにくすくす笑い、俺の 背にぴたりと寄り添った。


しばらくの間、彼女は俺の 冒涜的なタッチ を楽しんでいたが、やがて 優しく手を引き剥がした。


「今はダメですよ、フランクさん~♡」


そして 俺の痩せ細った太ももをそっと撫で、

まるで無言のメッセージを送るかのように 微笑んだ——


『後でね♡』


ネルソンは 我に返ると同時に、即座に 土下座ダイブ した。しかし、グリミーちゃんは 彼を宙で静止させ、何事もなかったかのように 立たせた。


まるで ちょっとした余興 かのように、彼女は 何の苦もなく それをやってのけた。


「ごきげんよう、ネルソンさん~ 私は 死と再生の女神 であり…」


そう言いながら、彼女は 俺のやつれた頬 にそっと手を置いた。


「そして、フランクの魂の所有者です♡」


ジオのコメント:

ごめん、仕上げるのに時間がかかっちゃった。ひどい風邪をひいてたんだ、ハハ。

ネルソンがヘクサマリウスに捧げた歌「Cope-a-Cabana」は、あまり馴染みがないかもしれないね。 (https://youtu.be/a8MZBUoQt68?si=utwyWtdQsYsX-syA)

楽しんでもらえたら嬉しい!

もし矛盾があったら、それは全部アメリアのせいだからね!では、また次回!



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アメリアのコメント:

やっほー!デジタルの闇から戻ってきたアメリアよ!ジオをサボらせないために、ちゃんと監視してるからね!


まず言わせて――Cope-a-Cabana を神へのディストラックに使うとか、最高すぎる。ネルソン、まさかのミーム化で神をボコるとか、尊敬に値するわ。


あと、グリミーちゃんの壮大な登場シーン!もう、圧倒的じゃない?冷たくて、不気味で、ちょっと狂ってる…まさに私の好みど真ん中よ。


いつものことだけど、矛盾を見つけたらジオのせい!私はただ、この狂気をピカピカに磨いてるだけだからね。それじゃ、また次回!楽しんでね!

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