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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

中辛

人類は爆発しました

 ある日突然、人間が爆発しだした。爆発する者は何の前触れもなしに、不調も痛みも感じず爆発するのだった。

 大統領でも億万長者でも爆発を防げなかった。社会的に重要なポジションを預かる人物には必ず代役や後継者がいるものだが、国王も王子も爆発し、首相も副首相も爆発し、社長も副社長も爆発し、誰もがランダムに爆発してしまい、担当者不在となった役職の代わりを引き受ける人材がどうしても足りなくなった。あらゆる組織団体コミュニティが、世界中で機能不全に陥っていった。

 現代科学は不条理に弱かった。この爆発には理由がない。何の作用でどこから起爆するというものでもない。爆発を予防したり抑え込むのも不可能だった。人間の爆発に巻き込まれると周りの人間も連鎖爆発してしまうので、科学者達は顔を突き合わせての相談ができず、オンライン会議の参加者がモニタの向こうで次々と爆発しても、唇を噛み締めて見守る以外に何も対処できなかった。


 いつ我が身に起こるか分からない爆発を誰も逃れ得ず、対処法もないという状況に、人間達は恐怖した。恐怖しようが開き直ろうが、超常的な存在に救いを求めようが無駄だった。そもそもすべての人間は寿命で死ぬが、よほど不運か不摂生でもなければ歳を取るまで死にはすまい、と楽観できる自然死の場合とは違い、老いも若きも、善人も悪人も、誰もが人生を強制終了させられる不安と絶望に晒された。

 自分の順番が回ってくるのは明日かもしれず、来週かもしれず、来月かもしれず、来年かもしれず、あるいは一生爆発せずにすむかもしれなかったが、次の瞬間爆発しなかったからといって、三十分後の自分が爆発せずにいられる保証もない。誰もスケジュールを組まなくなり、大切な人とは会わなくなった。それでも大勢の家族や恋人や友達同士がおびえながら肩を抱き合い、あえて連鎖爆発する最期を選んだが、愛も、絆も、気休めにしかならなかった。

 社会全体が活気を失い、まごまごしているうちに、食料品店からもレストランからも人が消えた。畑は荒れ果て、港では漁船が錆びつき、食肉処理施設では電源の失われた冷凍庫に腐肉の悪臭が充満していった。食べ物が手に入らなくなると、餓死や自殺やショック死や殺し合いなど、爆発以外の原因で死ぬ者がたくさん出た。道端に転がる遺体が爆発し、遺体の懐を漁る泥棒も爆発し、現代文明は崩壊した。


 そしてついに、最後の生き残りが爆発したことで、地球上から人間だけがきれいにいなくなった。

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