アケロン川
ルシフェルとエリスは、地獄の門をくぐり抜けた後、螺旋階段を下りていった。
階段の周りには薄暗い霧が漂い、彼らの足音に合わせて響く死者の悲鳴がこだましていた。
泣き叫ぶ声を横目に進み続け、ついに階段の出口にたどり着いた。
目の前には、血の色を帯びた大河が広がっていた。
「ここはアケロン川です。亡き者が蠢いていて、死者に引きずり込まれる危険があります。」
川の流れには無数の手がうごめいており、亡者の声がかすかに聞こえる。
ルシフェルはその光景をじっと見つめた。
「この川を渡らないと先に進めないということか?」
「はい、主様。アケロン川を渡るには、客船レクイエム号に乗る必要があります。」
彼らは川岸に向かって歩き始め、レクイエム号の案内をしている船長に会うことにした。
レクイエム号の船長は長い金髪の少女だった。
彼女の優しい笑顔が、暗い地獄の風景の中で異彩を放っていた。
「ようこそ、レクイエム号へ。私は船長のカローンです。」
カローンはにっこりと笑った。しかし、その顔にはどこか困惑の色が浮かんでいた。
「レクイエム号に乗りたいんだが」
「ごめんなさい、今は乗船できません。死者が船にまとわりついていて運行ができないんです。」
ルシフェルは眉をひそめた。
「それなら、どうすれば船を動かせる?」
「死者を取り除かなければなりません。でも、強い魔法を使うと船ごと破壊してしまうかもしれません。」
ルシフェルとエリスは方法を考えたが、なかなか良い案が浮かばなかった。
しばらく考えた末、ルシフェルがあるプランをひらめいた。
「エリス、君におとりになってもらおう。君が亡者を引き寄せたら、俺が一網打尽にするんだ。」
エリスは目を大きく見開き、叫んだ。
「えー!? 本気ですか、主様!? 」
ルシフェルは真剣な表情で頷いた。
「これしか方法はない。君ならできる。」
エリスはしぶしぶ承諾し、川岸で亡者を引き寄せる役を引き受けた。
彼女が川の近くに立つと、亡者たちが彼女に向かってうごめき始めた。
「きゃー! 主様、助けてください!」
エリスは沢山の亡者から逃げ回った。
タイミングを見てルシフェルは爆発魔法を発動し、エリスを狙って集まった亡者たちを一気に攻撃した。
「これで終わりだ!」
一網打尽にされた亡者たちは爆散し、カローンはその光景を見て感嘆の声を上げた。
「ありがとうございます! これで船を動かせます!」
「はあ、大変だったわ」
ルシフェル、エリス、そしてカローンは無事にレクイエム号に乗り込んだ。
「出航します!」
船はゆっくりと血の色を帯びたアケロン川を進んでいった。