第5話 訪れる波乱へのプレリュード
今回は大会が始まろうとしています。
プロレス団体『ドリームレッスルバトラーズ』の大会が始まりを告げられ、後楽園ホールは大歓声が響き渡っていた。
第1試合から選手達が派手に活躍しているが、中には爆笑展開もあり、観客達はワハハと笑っている場面もあった。
「試合の内容は良かったけど、プロレスってショーなのかな?」
ヒカリのふとした疑問にミミも同意する。今、目の前に映る試合はレスラーの菅山弘樹が相手である黒田哲三に恐喝されて正座させられる展開となっていて、観客達から笑い声が聞こえていた。
金髪で黒いスパッツが黒田で、茶髪で金色のパンツが菅山だ。
「何て言った?」
「いや、何も言ってないです」
黒田からの威圧に菅山は正座しながら否定する。
「お前、俺を馬鹿にしているだろ」
「むしろしていません」
「よし!歯を食いしばれ」
「これじゃ、いつもと変わらねー!」
「「「ハハハハハ!」」」
その姿に観客達は爆笑するが、ミミとヒカリが唖然となるのも無理なく、むしろこんなので大丈夫かと感じていた。
「私も気になっていたからね。本当にこんなので大丈夫なのかしら……」
「だからこそ、プロレスは面白いと言えるからな。その証拠に多くのファンが居るし」
零夜が笑みを浮かべながら指差す方を見ると、多くのファンが楽しそうな表情でこの大会を見ていて、中には応援グッズも用意していた。
「なるほどね。まあ、人気があるのは確かだけど……」
ヒカリがこの様子に苦笑いをする中、黒田のハイキックが菅山の顔面に激突。この状況にミミとヒカリはゾッとしてしまい、零夜はあちゃあと顔を抑えてしまう。
そのまま黒田がフォールしてカウントを取るが、菅山のこの試合のパートナーである谷口大輔が慌てながら駆け出し、見事黒田に飛び付いてカットする事に成功した。
因みに谷口は茶髪で黒いロングタイツを着用している。
「邪魔するんじゃねえよ!」
「終わっちゃうからね!」
黒田が谷口がフォールの邪魔した事に腹を立てるが、谷口が正論で反論する。
すると菅山は谷口に交代してリングから降りて、黒田はパートナーである弟子の室山裕貴にタッチしてリングから降りた。ちなみに室山は黒いロングタイツで赤い短髪だ。
「パートナーに交代したみたいね。あれ?」
すると菅山が慌てながら黒田から逃げまくり、零夜達の方に向かっていた。
「違います!これはその……もう少し大人しく話をしましょうよ」
「お前のいう事なんか誰が聞くか!」
「ちょっと!こっちに来るわよ!」
この光景にミミ驚きながらは思わず叫び、観客達は席を立って次々と移動し始める。
「この場合は選手から離れておく事が前提だ。巻き込まれたら怪我をするからな!」
「なるほどね。私達も移動しないと!」
零夜とミミが席を立って移動したその時、菅山は彼の姿を見つけて、思わずササッと零夜の後に隠れてしまう。
「何やっているのですか!?」
「シーッ、見つかるから……」
零夜の驚きの叫びに菅山が静かにしてくれと注意するが、黒田は真剣な表情でジーッと零夜を見つめた直後、すぐに菅山の行方を察知する。
「もうバレているぞ!お前が東の後ろに隠れている事は分かっている!こいつを盾にして隠れるんじゃねえ!」
「ひえっ!」
見つかってしまった菅山は全速力で逃げてしまい、黒田は彼を追いかけてしまう。
「この二人……本当に仲が悪いみたいね……零夜を盾にしていた菅山さんも悪いけど」
「ああ……これに関しては俺からも何も言えないからな……先が思いやられるぜ……」
零夜とミミはこの追いかけっこの展開に唖然とするしかなく、すぐに席に戻り始めた。
試合はそのまま菅山が黒田を抑え込んで見事スリーカウント。菅山組が勝利したが、黒田は怒りで敗北に納得がいかず、彼等の追いかけっこが再び始まりを告げられたのも無理なかった。
この光景に観客達は再び大爆笑するが、ミミ達はため息を付いていた。
「馬鹿らしくて唖然としたけど……目的の試合がそろそろ始まるわね……」
ミミは今の試合に唖然としながらため息をついたが、次の試合が倫子の試合である事に気付いて心から楽しみにしている。
「ああ。この時を待っていたぜ!」
零夜も目的の試合が始まろうとしている事に興奮する中、倫子の入場曲が響き渡り始める。すると青コーナーの入場口からガウンを纏った彼女が姿を現した。
彼女の姿はとても美しく、まさに女神その物と言えるだろう。
「零夜君は彼女に憧れてプロレスラーを目指しているけど、仕事帰りにプロレス道場に通っているの?」
「ああ。ドリームレッスルバトラーズの道場に通っているし、誰よりも早くデビューする為に頑張っているからな。その為にも人一倍努力するのみだ」
「まあ、零夜ならそう言うと思ったわ。諦めの悪さは天下一品だからね」
ヒカリの気になる質問に零夜が心からの熱心な回答で応える。
その様子をミミが苦笑いする中、倫子がロープを跨いでリングインをしてコーナーへ登り始める。
『青コーナー、京国のジャンヌ・ダルク!藍原倫子!』
倫子が観客からの歓声に笑顔で応え、すぐにコーナーから降りて自身のコーナーへと移動してガウンを脱ぐ。そのコスチュームは白いオールインワンで、赤のネクタイリボンが首に付けられていた。
彼女はすぐにストレッチを始めながら、対戦相手の入場を待つ。
(頑張れ、倫子さん!)
零夜は真剣な表情で心の中で倫子に声援を送る中、彼女の対戦相手の入場が始まろうとしていた。
※
入場口付近ではトラマツが深呼吸をしながら緊張を和らげているが、ノースマンは冷静に落ち着いていた。
初めて説明する場所だからこそ、トラマツは成功できるかと不安になっていて、時々身体がガタガタと震えてしまうのだ。
一方のノースマンは冷静な性格である為、落ち着いた表情をしながらリラックスしていた。
「ノースマンは大丈夫なのか?」
「ああ。こういうのは慣れているからな」
「そうか……なんだか緊張するな……」
トラマツが不安な表情をしながら落ち着かない様子を見せる中、ドリームバトルレスラーズ社長の国益雷電が姿を現す。
彼は五十三歳だが、鍛え抜かれた大きな肉体をしている。
今でも現役のレスラーであり、プロレス界の大人気ない社長として有名。自転車で人を弾き飛ばしたりする大胆な行動を得意としている。
また、若手達との給料戦争も話題になっていて、いつも雷電が彼等を返り討ちにしているのだ。
「社長さん!」
「緊張するのは誰だって同じだ。けど、自分の役目を果たす為だからこそ、この場面を乗り越える必要がある」
「ええ。ここで立ち止まる理由にはいかないですからね」
雷電からのアドバイスにトラマツはすぐに深呼吸しながら落ち着きを取り戻し、自らの出番を待つ為に入場口の方に視線を移す。
彼は乱入者が来ない事を心から強く願っていたが、それは突然の展開で脆くも崩れてしまう事をこの時は気付いてなかった。
次回は激戦の幕開けが起ころうとしますが、その前にとんでもない展開が起ころうとします!心の準備を忘れずに!
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