第56話 魔族と成り果てた男
今回はある異変が起こります。
零夜達とアルフレッドの戦いは更にエスカレートしまくり、一触即発の展開になっていた。
先手を打ったのはアルフレッドだが、エヴァが彼の手首を掴みそのままギュッと彼の腕を縛り上げる。
「ぐおっ!」
「魔族の力を使ってもその程度かな?まだまだ行くよ!」
「ぬおお……」
エヴァによって腕を縛り上げられたアルフレッドは苦痛の表情で顔を歪めてしまう。更に追い討ちをかけるように強烈なパンチを顔面に浴びてしまい、そのままガックリと頭を下げてしまう。
「魔道具の力を使ってもこの程度みたいね!」
「こ、こいつ……」
エヴァがアルフレッドを放した直後、キララが駆け出したと同時に強烈な乱れ引っ掻きを彼に浴びせる。それによってアルフレッドの顔は引っかき傷が付いてしまった。
「どうかしら、私の爪は?まあ、傷を受けてしまったら台無しだけど」
「こ、こいつが……よくも俺の顔を……」
キララの笑みにアルフレッドはますます怒りが募る中、ジャンヌが彼を掴んで強烈な背負投をしてしまう。
「はっ!」
「ぐほっ!」
アルフレッドが背中を強打した直後、ジャンヌは彼の首に片腕を回してもう一方の片腕の肘の裏もしくは上腕のあたりを掴み、もう一方の手で相手の後頭部を押してそのまま絞める。
これこそチョークスリーパーホールドだ。
「ぐおお……き、貴様もか……」
「さあ、降参するなら今の内ですよ?」
ジャンヌに首を絞められたアルフレッドは苦しそうな表情をしていて、その様子にトラマツは怪しげな表情で零夜に視線を移す。
「零夜。ジャンヌにチョークスリーパーホールドを教えたのはお前なのか?」
トラマツは疑問に感じながら、ジト目で零夜に質問をする。ジャンヌがプロレス技を覚えるのは見た事がなく、彼女に技を教えたのは零夜か倫子しかいないのだ。
「ああ。彼女にもプロレス技を教える必要があるから、色々プロレス技を叩き込んだ。チョークスリーパーだけじゃなく、セントーン、ランニングニー、スプラッシュダイブ……」
「お前ならそう言うと思ったよ!偉人にプロレス技を教えたら無茶苦茶になるし、レスラーにしたらどうするんだ!」
零夜の説明を聞いたトラマツは、怒りで叫びながらツッコミを入れてしまう。偉人達にプロレスを教えたら別の道を歩んでしまい、下手したら歴史がひっくり返ってとんでもない事になるからだ。
「でも、本人は気に入っているが……」
「へ?」
零夜はジャンヌの方を指差すと、彼女は笑顔でアルフレッドを締め上げていた。どうやら自らの技が成功した事で嬉しさを感じているだろう。
「どうやらこれは無理かもな……」
「だと思ったよ。で、他の皆もプロレス技を覚えているのか?」
ノースマンとトラマツは呆れた表情をしながらガックリと項垂れた後、彼はそのまま他の皆に視線を移しながら質問する。
「勿論だ。次、用意!」
「任せて!」
零夜の合図と同時にアミリスがジャンヌにタッチしたと同時に、彼女はアルフレッドを解放する。
「ゲホッ……ゴホッ……!」
「おっと!反撃はさせない!」
アルフレッドはゴロゴロと咳き込んで反撃しようとするが、アミリスにボディスラムで投げられてうつ伏せに倒れてしまう。そのまま彼女は彼の背中に乗り、首から顎を掴み、体を海老反り状に引き上げ始めた。
「今度はキャメルクラッチか!」
「ぐおお……!貴様もか……!」
またしてもアルフレッドは苦痛の表情を浮かべながら締め上げられてしまい、アミリスは真剣な表情で彼にダメージを与え続けていく。彼はプロレスなど習った事が無いのでタップしてしまうのも無理ない。
「タップしても無理だからね!ソニア!」
「おう!少しは自身の立ち位置を分からせないとな!」
アミリスの合図でソニアはマジックペンをポケットから取り出し、そのままアルフレッドの顔に落書きをしてしまった。しかし水性なので洗ったら取れるので大丈夫だ。
「よし!こんなところだな」
「こ、こいつが……!」
アルフレッドは自身の顔に落書きされ、怒りが更にヒートアップしてしまう。すると彼の身体から闇のオーラが放出されてしまい、危険に感じたアミリスとソニアは素早く離れて間合いを取る。
「良くも俺の顔を……俺を誰だと思っている……!」
「うわ……どうやらこれは大変な事になりそうです……」
「落書きされたらそりゃそうなるでしょ……」
アルフレッドは最大限度を超えて怒るのも無理なく、ルリカとキララは冷や汗を流しながら恐怖を感じてしまう。人の顔に落書きなんかしたら怒るのも無理ないのだ。
「絶対に許さん!」
「そうはさせません!」
アルフレッドは怒りで駆け出しながら零夜達に襲い掛かるが、ルリカは危機感を感じて彼を横からタックルで弾き飛ばす。
「まだまだ!ライダーキック!」
更にルリカは跳躍したと同時に、ライダーキックをアルフレッドの顔面に直撃させる。
「が……!」
「よし!決まりました!」
アルフレッドは更に追加のダメージを受けてしまい、あまりの痛さに立ち上がれなくなってしまう。今まで零夜達からのダメージを受けていた以上、こうなるのも無理はない。
「馬鹿な……こ……この俺が……こんな奴等に……負けてしまうのか……?」
アルフレッドは魔族の指輪で強化したにも関わらず、ピンチの状態が続いている。どうやら闇の力を手に入れて強くなっても、ここまで追い詰められたら話は別。魔道具に頼りすぎていたのが仇となっていたのだ。
「観念しろ。魔道具に頼っていた以上、お前の負けは確定だ」
「そんな……まだ……俺は……」
零夜からの真剣な表情での忠告に、アルフレッドは思わず大量の冷や汗を流してしまう。このままだと戦闘不能になるのも時間の問題と思われたその時、黒い煙が姿を現して彼を包み込み始める。
「この煙……ついに魔族になる時は来たか!俺は全ての覚悟を賭けるのみだ!」
アルフレッドはすぐにこの煙の正体を察した途端、煙は竜巻となって彼を包み込み始める。零夜達は危機感を察してアルフレッドから離れた途端、竜巻は彼を新たな姿に変化させようとしていた。
「この煙……嫌な予感しかしないわ!」
「ええ……本格的な魔族になろうとしています!」
エヴァとジャンヌが冷や汗を流しながら危機感を感じた直後、煙が晴れて変わり果てたアルフレッドが姿を現す。
その姿は鬼の顔をしていて、額に一本の角、背中には悪魔の翼、身体はホブゴブリンの姿となっている。まさに正真正銘の怪物その物だ。
「これがアルフレッドの変わり果てた姿か……だが、誰が相手でも構わない……」
零夜は変わり果てたアルフレッドに視線を移しているが、真剣な表情に変わりはない。たとえ相手がどんな姿であろうとも、敵である以上容赦なく倒すのみだ。
「零夜、覚悟は既にできているみたいだな」
「ああ。やるからには……アルフレッドを完全に倒すのみだ!行くぞ!」
「「「おう!」」」
零夜が覚悟を決めて気合を入れたと同時に、エヴァ達も覚悟を決めて掛け声で応える。そのまま彼等は魔族となったアルフレッドに立ち向かったのだった。
アルフレッドが魔族に!果たしてどうなるのか!?




