第５４話 ジェニーの決意
今回はジェニーがメインです！
「連れ去られた奴隷は七人ぐらい。アルフレッドはこんなにも連行していたとは驚いたね……」
屋敷の外では、ヒューゴが倫子とミミが救出した女性達の人数を確認し終えていて、この状況に真剣な表情をする。救出された女性達は身体や心の傷を背負わされていて、回復するまでには時間が掛かるだろう。
「大丈夫です。私達がいますから」
「落ち着いて落ち着いて。もう大丈夫だから」
紬とクロエは救出された女性達の心身の状態を確認しつつ、少しずつ彼女達の恐怖心を和らいでいた。そのお陰で恐怖心が前よりも少なくなったが、中には紬に抱き着きながら怯えている人もいるのだ。
この様子だとアルフレッドがどれだけ酷い事をしたのかが分かるだろう。
「アルフレッドは自身の父親が領主だからこそ、何でもできる。反逆した人達は連行したり、酷い目に遭わされていた」
「アークスレイヤーとつながりがあっちゆとなら、こんた厳しゅう処罰せないけんな。あん親子ん処罰はわっぜ重うなろごたっ」
この状況を見たアカヤマとガンテツの真剣な意見に、ヒューゴも強く頷きながら同意する。アルフレッドの傲慢さはホムラ中でも大変迷惑となっていて、住民達もこの件については悩みのタネとなっているのだ。
二人の話を聞いているヒューゴは真剣な表情をしているが、心の中では怒りの炎を燃やしていた。
「確かに。アークスレイヤーの奴等は自らの快楽の為に男性を殺し、女性は奴隷としている。ホムラの領主親子も同じ様な事をしていた。僕は……そんな輩を許せない……！」
ヒューゴはアークスレイヤーや領主親子のやり方に怒りの表情をしながら、拳を強く握りしめていた。
彼は心優しいだけでなく、民の為に戦う精神を貫き通している。それによって悪行三昧を許せない正義のプライドも兼ね揃えている為、多くの人達から慕われていて今に至るのだ。
それに気付いた紬はヒューゴの方を向き、怯えている女性を抱えながら彼に近付いてきた。
「ヒューゴさん、その気持ちは分かります。中で戦っている零夜さんも同じ気持ちでアークスレイヤーに挑もうとしていますし、私達は私達でできる事をしましょう」
紬の笑顔のアドバイスを聞いたヒューゴは、自身の胸に手を当ててやるべき事を思い浮かぶ。王都への連絡、住民達の安全確保、連行された人達の護衛などのやるべき事が多くある。それに気付いたヒューゴは冷静さを取り戻し、すぐに紬に視線を移す。
「そうだな。王都にも連絡する必要があるだけでなく、住民達の避難や連行された人達を元の場所に送り届ける必要がある。すぐに取り掛からないと！」
ヒューゴは真剣な表情で自身のやるべき事を取り掛かり始め、紬も微笑みながら抱き着いている女性を落ち着かせ始める。その直後に魔法陣が姿を現し、ミミ、倫子、ヒカリがジェニーを連れて転移しながら姿を現したのだ。
「ヒューゴ！こっちも奴隷を救出したわ！今から零夜達の加勢に向かうから、この子をお願い！」
ヒカリはヒューゴにジェニーを渡し、自身はミミ、倫子と共に零夜達の救援に向かう事に。ヒューゴはヒカリからの頼みに勿論承諾し、ジェニーを預かる事にした。
「了解。あまり無理はしないでね」
「大丈夫！」
ヒューゴからの真剣な忠告にヒカリがウインクで返したその時、突然ジェニーが彼女のオーバーオールの後ろポケットを摘んで引っ張り出した。
「待ってください！」
「ジェニー？」
ジェニーの待ったに全員振り向いた直後、彼女は真剣な表情をしながらヒカリの方に視線を移す。その様子だとどうやら何か言いたげのようだ。
「此処から先は……私も力になります！」
「「「ええっ!?」」」
ジェニーの突然の宣言にその場にいる全員は驚きを隠せなかった。先程ヒカリに助け出されたにも関わらず、自ら彼女と共に戦う事を宣言すれば、誰だって驚くに決まっている。
「本当に戦う覚悟があるのは分かるけど……君は戦える事ができるのかい？」
「あまり戦闘経験も無いのなら無理しない方が……」
ヒューゴと紬が心配そうにジェニーに声を掛けるが、彼女は自らの信念を曲げずに首を横に振っていた。
「いいえ。助け出された以上、私は戦う覚悟は既にできています！それに……助け出されたまま終わるのは嫌ですし、あの腐れ男をぶっ飛ばしたいです！」
（腐れ男……）
（それって奴の事だよな……）
ジェニーが心からの決意を叫ぶが、それを聞いたガンテツとアカヤマが心の中で唖然としてしまう。
因みに腐れ男というのはアルフレッドの事であり、彼にはセクハラされたり暴力を振るわれたりしていた。その時の恨みが心の中に残っていて、今でも仕返ししようと企んでいるのだ。
「その気持ちはよく分かるわ。でも、今の貴方の力で彼を相手にするのは危険過ぎるかもしれない。それでも戦う気はあるの？」
ヒカリは真剣な表情でジェニーに質問しながら、彼女の覚悟を見始める。
生半端な覚悟では返り討ちに遭うのは確定で、下手したら死んでしまう事もある。更に戦える事ができても、弱い者では足を引っ張ってしまう事もあり得るのだ。
その質問にジェニーも真剣な表情をしながら、コクリと静かに頷く。その様子だと意志は固いが、あとは実力が敵に対して通用するかだ。
「大丈夫です。私、こう見えてもカンフーラビットと言われています！」
ジェニーは服を引っ張って脱ぎ捨てたと同時に、新たな衣装を見せる。それは青いデニムの袖なしつなぎ服を元にした、カンフー道着を着用しているのだ。
更にジェニーは武術の演武を皆の前で披露する。それは流れる様な動きで攻撃のスピードも速く、アクロバティックな動きも披露する。ヒカリに助けられてから本来の力を取り戻し、動きのキレも良くなっていたのだ。
「この姿……カンフーを習っていたの？」
「ええ。私はかつて武術を学び、ラビットファイターと言われていました。今こそこの力を……発揮させてみせます！」
ジェニーは両手を合わせながらヒカリの前で一礼し、自らも戦う事を宣言する。彼女に助けられた恩を返す為だけでなく、パートナーとして共に戦いたい覚悟が心の中で秘められているのだ。
その様子を見たヒカリは微笑みながら、ジェニーの頭を優しく撫でる。
「分かったわ。そこまで言うなら私が貴方のパートナーになるわ。一緒に頑張りましょう！」
「はい！こちらこそ宜しくお願いします！」
ジェニーとヒカリが握手を交わし、そのまま彼女達は主従関係を結び始める。その結果、ジェニーはヒカリの従者となり、今後は彼女と共に行動する事になったのだ。
「取り敢えずジェニーの件は一件落着みたいね」
「ええ。残るはアルフレッドのみだけど、彼は何を仕掛けるのか油断はできないですからね……」
ミミが真剣な表情でアルフレッドの行動に危機感を感じる中、ヒューゴは真剣な表情で屋敷の方を見つめていた。
（零夜、恐らくアルフレッドは何かを仕掛けてくる。気を付けてくれ……）
ヒューゴは零夜達が無事でいる事を祈りながら、屋敷の方を見つめていたのだった。
ジェニーはヒカリと共に戦う事を決意！そのまま契約しました！
次回は零夜達の戦いです！
