第52話 神室とアルフレッド
今回はダークサイドです!
「馬鹿な!ベルカマスとルシアがやられただと!?」
領主の館では、アルフレッドが使用人から報告を受けて驚きを隠せずにいた。まさか自身に仕えている兵士達だけでなく、アークスレイヤーの幹部まで倒れるのは想定外としか言えない。
それと同時に自身の計画も崩れてしまったのだ。
「はい!あの忍者によって二人共やられました!アルカスは滅んでしまい、兵士達はここにいるのみとなりました。奴等はすぐここに向かっています!」
使用人からの説明に神室は冷静に応えるが、内心ではかなり怒っていた。自身の作戦が零夜によってぶち壊されてしまっただけでなく、騎士団を味方にしている事で余計な事をしてくれた物だと感じているのだ。
「そうか……報告感謝する。奴等がここに来る以上、しばらくは一人にさせてくれ」
「はっ!」
使用人が礼儀正しく一礼をして部屋から去った後、アルフレッドは苛立ちのあまり両方の拳を強く握り出した。
零夜によって戦力は勢いよく減らされ、更に騎士団や幹部まであっという間に倒された。自身の作戦が思うままに行かず、零夜に対する怒りで苛立ってしまうのも無理はない。
「くそっ!あの忍者……思う存分忌々しい奴だ!」
アルフレッドが怒りの咆哮をした後、右の拳で強く壁を殴ってしまう。その衝撃はとても激痛を感じていて、思わず拳を押さえてしまうのも無理ないだろう。
しかしアルフレッドは冷静に気を切り替えたと同時に、零夜には多くの女性がいる事を思い出し始める。
「そう言えば……彼には九人の女性を仲間としているな……彼を倒せば反逆罪としての烙印を押せるし、彼女達を俺の物にできるな……まあ、一石二鳥というべきか……」
アルフレッドが自身にもチャンスがあると思い込み、倫子達も自身の物に出来る。楽観的にどうやって零夜を倒すか考えていたその時だった。
「いいや。今のアンタはここでやられる運命だ」
「!?」
アルフレッドが突如声のした方をキョロキョロと向いた途端、神室がいつの間にか彼の背後に姿を現した。その姿にアルフレッドがいきなり驚くのも無理ないだろう。
「何者だ!」
「俺はアークスレイヤーの神室という者だ。因みにホムラ支部の奴等よりも上の階級となっている」
「上の階級……もしかすると国以上……」
アルフレッドはすぐに警戒態勢に入るが、神室の自己紹介を聞いた途端、すぐに警戒心を解いて彼の前で片膝をついてしまう。
アークスレイヤーに偉い人がいるのなら、敬意を示さなければならない。逆らえば死となるのは確定と感じているだろう。
「先程の発言、失礼しました」
「気にするな。普通でいいからさ」
「そ、そうか……かたじけない」
神室とアルフレッドはお互い苦笑いしつつ、両者は立ったままで話を進めていく。それと同時に両者は真剣な表情をしながら、零夜の事を話し始めた。
「それで……倒せないというのはどういう事だ?」
「先程の忍者……東零夜はかなりの強敵だ。俺もかつてあいつと戦った……」
「戦った……もしかしてその傷跡が関係あるのか?」
アルフレッドは神室の右目にある顔の傷跡を指差し、彼はコクリと頷きながら話を進めていく。
「ああ。少年の頃、数人がかりで奴を虐めていた。ところが奴は何度でも立ち上がり、挙句の果てには俺達を容赦なく倒してしまった。その傷跡も……奴の手刀によって残されてしまったんだよ……」
神室は話をしたと同時に、サングラスを取って自身の傷跡を見せる。その傷跡を見たアルフレッドは思わず息を呑んでしまった。
少年の話といえども、神室を圧倒的に倒した零夜の実力は見事としか言えず、今のアルフレッドでもコテンパンに倒せる事は確定だ。
「そんなにも……零夜は強いのか……」
「そうだ。お前が再び奴に立ち向かおうとしても、二の舞になる。そんなオチになるだろう」
「くっ……」
神室の指摘にアルフレッドは悔しくて何も言えなくなる。自身はただ偉そうで頭の回転も早い。しかし、零夜も頭の回転が早いだけでなく、プロレスラーを目指している為、運動神経も抜群である。
それに比べてアルフレッドは運動神経が平均並みの為、その差によって返り討ちに遭うのも少なくない。更に選ばれし戦士となるとその差はかなり大きくなって、簡単に秒殺で倒されてしまうだろう。
「それでも倒したいというのなら……こいつを使え」
神室は真剣な表情をしながら、スーツの懐から一つの指輪を取り出す。それは黒い宝石が付属されていて、そこから禍々しいオーラが放たれていた。どうやら禁忌の魔道具である可能性は少なくない。
「魔族の指輪。それは自らを強化する事ができる指輪だ。しかし、これには欠点がある」
「欠点……?」
神室の真剣な表情の説明に、アルフレッドは疑問に感じながら首を傾げる。その様子を見た神室は深刻な表情をしながら話を進める。
「一つ目は一回限り。二つ目は時間が経つと同時に自身の身体が魔族になってしまう」
「魔族だと!?そんな姿になってしまうのか!?」
神室の説明にアルフレッドは驚きを隠せずにいた。自身の姿が魔族になる事になるのは想定外としか言えず、このまま元に戻れなかったらどうなるのかと不安になるのも無理はない。
「そして最後は……敗れてしまえば元の姿に戻るが、その大ダメージは後遺症となってしまい、今後の生活にも影響が走る」
「負けたら全てを失うのは分かっているが、このまま奴に殺されるよりはマシかも知れない……だが、諸刃の剣となるこの指輪を使うのもどうかと思うな……」
神室の説明を聞いたアルフレッドは指輪を眺めつつ、自身がどの様な選択をするのか考える。何れにしても負けたら全てを失うのは確実だが、人間として戦うか悪魔として戦うのか悩みどころ。まさにこの選択は諸刃の剣と言えるだろう。
零夜達がこの屋敷を攻めてくるのも時間の問題。アルフレッドはどうするか悩んだ挙げ句、前を向きながら真剣な表情で決心を出す。
「俺はこの指輪を使う。悪魔になろうとも、覚悟はできている!」
アルフレッドは最終的に零夜達を倒す事が原動力となり、彼は悪魔の指輪を使う事を決断する。
それを聞いた神室は納得した表情でコクリと頷き、魔族の指輪をアルフレッドに渡した。
「そうか……それがお前の答えなら俺は止めないさ。せいぜい頑張れよ」
神室はアルフレッドに対してエールを送った後、自身の足元に魔法陣を展開してその場から転移した。
部屋に残ったのはアルフレッドだけとなり、すぐに指輪に視線を移す。
「この指輪で奴を倒せるのなら……俺は悪魔になっても構わない……全ては奴を倒す為にも……」
アルフレッドは指輪を見つめながら、零夜を倒す決意を固めたその時、外の様子が騒がしく聞こえ始める。どうやら零夜達が到着したに違いない。
「来たのだろうか……」
アルフレッドはカーテンを少し開きながら窓の外を見ると、なんと零夜達が屋敷の外に姿を現していた。彼等は早急に話し合いながら作戦を立て終え、この屋敷に早めに来ていたのだ。
アルフレッドはカーテンを閉じたと同時に、決意を固めながら部屋から立ち去ろうとしていた。
「背に腹は代えられない。奴との戦いは俺の人生の分岐点となるだろう。天国か地獄か……やるしかないな」
アルフレッドはフッと笑った後、そのまま部屋から立ち去った。それと同時に屋敷での決戦も始まろうとしていたのだった。
いよいよ決戦が始まります。果たしてどうなるのか!?




