第48話 領主親子の深い闇
今回は領主親子サイドです。
「くそっ……まさか俺が忍者に殴り飛ばされていたとは……一生の不覚だ……」
ホムラの領主屋敷では、アルフレッドが自らの失態に悔しそうな表情をしながら拳を震わせていた。彼の顎には殴られていた跡がまだ残っている。
アルフレッドは零夜に強烈なアッパーで殴り飛ばされて失神していたが、目を覚ましたのはそれから数分後の事だった。兵士達から事情を聞いた途端、悔しさで怒りを爆発させたのは言うまでもない。
それと同時に自らの力が未熟である事を思い知らされ、強くなって倒す事を決意した。しかし、今のままでは追い付く事さえ不可能であり、仮に精一杯頑張ったとしても経験の差によってやられてしまうのがオチとなるだろう。
「選ばれし戦士を甘く見ていた俺にも責任があるし、今の実力では勝てない。このままでは奴等に倒されてしまうだろう。さて、どうすれば良いのか……」
アルフレッドは冷静な判断をしながら今後はどうするかを真剣に考える中、突然扉の向こう側からノックの音がする。
「アルフレッド。入るぞ」
「おお、父さん」
扉が開くとアルフレッドの父であり、領主のグレゴリー・ムラマツが中に入ってきたのだ。彼はホムラの領主として君臨していて、アークスレイヤーと同盟関係を結んだり、違法品などの販売、麻薬の栽培をしている悪事をしているのだ。
その姿は豪華な和服を着ていて、髪は白くて髭も立派に生やしていた。偉そうな雰囲気をしているが、心の中では闇に染まっているだろう。
「アルフレッドよ、また街で騒動を起こしたそうだな」
「ああ……それにあの忍者は俺を殴り飛ばしていたからな……選ばれし戦士としての実力を甘く見ていたよ……」
アルフレッドはため息をつきながら自らの力不足を嘆き、その姿にグレゴリーは納得の表情をする。
確かに今のアルフレッドでは零夜達にコテンパンにされるのは無理もなく、下手すれば死んでしまう可能性もある。グレゴリーもこの件に関しては同様で、自らもやられてしまうのではないかと感じている。
「そうか……それに我々がアークスレイヤーと関わりがあると知られてはいないのか?」
グレゴリーからの真剣な質問にアルフレッドは首を横に振る。彼は失神していたのでその事については聞いていないのだ。
もし、仮にその様な事がバレてしまったら、零夜達が黙っていられずに襲い掛かってくる。そうなれば今までの苦労が水の泡どころか、全て失って最後は刑務所送りになるからだ。
「いや……そこまでは分からない。後始末に関しては僕がどうにかするよ。父さんの手を煩わせるわけにはいかないからね」
「そうか。なら、この件については任せよう」
アルフレッドからの解答にグレゴリーは心から安堵しながらため息をつく。すると彼はある事を思い出してアルフレッドに視線を移す。
「言い忘れたが、我々の元に来る筈だった奴隷についてだが、新たな事実が明らかになった」
「何か分かったのか?」
アルフレッドはグレゴリーからの真剣な報告に、真剣な表情で話を聞き始める。その様子だととんでもない事態となっている事が明らかになっているだろう。
「兵士達の目撃情報によると、選ばれし戦士達といる事が判明された。どうやら彼女達は奴等によって解放されていたのだろう」
「なんだと!?」
グレゴリーからの真剣な報告にアルフレッドは驚きを隠せずにいたが、すぐに零夜達に対して怒りを滲ませる。
零夜にアッパーで殴り飛ばされただけでなく、届くはずだった奴隷まで彼等の手によって解放されてしまった。最早零夜達は目の上のたんこぶではなく、倒してはならない存在となったのも無理はないだろう。
「そうなると、ここは作戦を立てる必要がある。この事は僕が蹴りをつけるよ」
「頼んだぞ、アルフレッド」
「ああ……」
グレゴリーがアルフレッドの部屋から去った後、ルシアと一人の兵士が姿を現した。兵士は銀色の鎧を着用していて、青い髪をしていた。
「ベルカマス。先程の騒動の件についてだが、街に被害が無いのが幸いとなっている。今回はあの忍者の情報を調べてくれないか?」
「お任せを。できれば奴を始末しましょうか?」
ベルカマスと呼ばれた兵士は承諾するが、気になる事をアルフレッドに質問する。すると、アルフレッドは首を横に振りながら否定していた。
「いや、ここに連れてきてくれ。奴とは少し決着を着けなければならないからな」
「分かりました」
ベルカマスが礼儀正しく一礼し、アルフレッドはルシアに真剣な表情で視線を移す。
「ルシアよ。この件に関してはお前も同行してくれ。奴等はかなり手強いと言えるし、いくらベルカマスでも返り討ちに遭う可能性もあり得るからな」
「確かに一理ありますね。この件については私も同行致しましょう。ベイブを倒した実力が本物なら確かめる義務があります」
アルフレッドからの命令にルシアも頷きながら承諾する。零夜達がベイブを倒してしまった事を知った時は驚きを隠せずにいたが、彼等の実力を確かめる義務があるだけでなく、ベイブの仇を取る為に立ち向かう覚悟を秘めているのだ。
「そうか。二人共、この件に関しては頼んだぞ!」
「「はっ!」」
ベルカマスとルシアが去った後、アルフレッドはすぐに鐘を鳴らす。すると、一人のウサギの獣人女性が姿を現して一礼する。
彼女はボロボロの白い一枚布を着ていて、その表情は嫌がっていた。しかも、身体中には暴力によってやられていた痣が残っている。この様子だと酷い扱いを受けている事が明らかだ。
「来たか。ジェニー」
「はい……何の御用でしょうか……」
ジェニーと呼ばれた女性はおずおずとアルフレッドに質問する。すると彼はあくどい笑みを浮かべながら彼女に近付き始める。
「奴隷を解放された憂さ晴らしをする為に少し抱かれてもらうよ。お前は俺の物だからな……」
「ひっ!」
ジェニーは悲鳴を上げながらアルフレッドに抱かれてしまい、お尻まで触られてビクッと背筋を伸ばしてしまう。
これはまさにセクハラ行為であるが、アルフレッドと奴隷契約をしているのでどうする事もできない。逆らえば暴力を振るわれたり、何をされるか分からないからだ。
(うう……こんな思いをするなんて……誰か……助けて……)
アルフレッドから受けるセクハラに、ジェニーは心から思いながら、目から一筋の涙を流す。それは、誰かに助けを求める目をしていたのだった。
この悪行を終わらせる事ができるのか。そのカギは零夜達に掛けられています!




