第206話 恨みを持つ者達
今回はダークサイドです。
その日の夜。五重塔近くにある山の上では、神室と殿町が話をしていた。刺客達は次々とやられてしまい、残りはあと一人。後がない状態となっているのだ。
「殿町。現在の状況は分かっているな?」
「ええ。刺客があと一人となった以上、ここが正念場と言えるでしょう。最後の刺客は今までの中でも最強ですからね」
神室の質問に殿町は冷静に答えつつ、最後の刺客について簡単に説明する。詳しく言えば実力は未知数でありながら、最強の力を誇る戦士である事は間違いない。その力が零夜達にどう通じるのかが、戦いのポイントとなるだろう。
「だが、刺客が負けてしまったら、お前が責任持って戦うのみだ。これ以上首を突っ込めば、ザルバッグ様からのお仕置きを受けなければならないからな……」
神室は俯きながらも、殿町に対してこれ以上支援できない事を伝える。刺客がやられたとなると負けてしまうのは確実であり、これ以上支援をしても無駄だと判断したのだろう。
「ええ。俺としてもそのつもりです。ですが、俺には策略がありますので」
「何かあるのか?」
殿町の策略に神室は興味を示しながら、彼の話を真剣に聞こうとする。刺客を倒された時の策略があるとなれば、少しは期待できると判断しただろう。
「バトルオブスレイヤーで奴等と戦う事です!」
「何!?」
殿町は零夜達とバトルオブスレイヤーで戦う事を決意していて、それに神室は驚きを隠せずにいた。
零夜達は選ばれし戦士達としてのランクはとても高く、Aランクのクラスに入っている。それに殿町が挑むとなると、無謀としか言えない。最終的にはボコボコにされてしまい、死んでしまうのがオチであろう。
「奴等とバトルオブスレイヤーで戦う事は、死ぬという事だぞ。本当に大丈夫なのか?」
「ええ。元いじめっ子達の中で、俺と同じ境遇を持つ者達を集めました。奴等もまた……東に恨みを持つ者として集まりましたので」
殿町が疑問に感じた神室に対して説明した直後、七人の男達が姿を現す。様々な者達がいるが、実力派揃いの奴等ばかり。しかも一人以外は全員零夜に恨みを持っているのだ。
「なるほど。凄いメンバーばかりだな」
「ええ。まずは羽田道之助。奴は水の使い手で、喧嘩を得意としています」
羽田は小学校時代は喧嘩を得意としていて、暴力で全てを解決していた。しかし零夜にやられてからは寺に預けられ、精神的な修行をさせられてしまったのだ。
それから今はスキンヘッドのニートとなっていたが、異世界に転生してからは零夜を倒そうと決意しているのだ。
「俺の髪は奴のせいで無くなった!今こそその恨みを晴らす時!」
「苦労していたのか……」
羽田は零夜に対して髪が無くなった事を恨んでいて、神室が唖然とするのも無理はない。髪は大切な友達なので、それが無くなるのは悲しくなる気持ちは同感だ。
「次は坂巻小吉。彼はガッツと根性が持ち味の男で、土属性の使い手です」
坂巻はド根性が持ち味の男で、何事も諦めずに抗争を繰り広げていた。零夜にやられて転校してからは大人しくしていたが、彼にやられた恨みは未だに残っている。
今はバイトをしていたが、トラックにはねられて死亡。転生してからは零夜を倒す為に強くなり、格闘と魔術で戦っているのだ。
「次こそ奴を倒す!」
坂巻のガッツの決意をしながら、身体から炎のオーラを出し始める。赤い髪が特徴の彼だからこそ、熱血漢の魂があるのだ。
「三人目は沼田大二郎。彼は勝利する為なら、手段を選ばない男です」
沼田はパチンコなどの武器を扱いながら戦い、卑劣な策略を得意としていた。零夜に負けてからは少年院に入れられ、過労死で亡くなってしまった。
転生してからはナイフを使う孤高のアサシンとなり、依頼ある毎に人を殺しているのだ。
「この時を待っていた……殺してくれる!」
「おお、怖いな……」
沼田は狂気の瞳で零夜を倒す事を宣言し、それに神室は思わず冷や汗を流してしまう。敵に回せば厄介だが!味方となると心強いだろう。
「四人目は花山炭五郎。人に悪戯をするピエロで、多彩な攻撃を繰り出します」
花山は悪戯やからかいを得意としていて、頭脳を駆使しながら戦いを乗り越えていた。零夜に呆気なく負けてからは、悪戯をしばらく封印する事に。しかし、彼に負けてしまった恨みはとても大きいので、その憎悪が高まっていた。
今では異世界転移してピエロとして活動。しかし殺人道具を繰り出してくるので、危険人物としてマークされているのだ。
「キヒヒ!倒してやるぜ!」
花山は邪悪な笑みを浮かべながら、ジャグリングをし始める。かなり怖いのは当然であり、危険な香りは既に放たれているのだ。
「五人目と六人目は双子の乗川兄弟。兄の太郎と弟の次郎です。奴等は連携を得意としています」
乗川兄弟は連携を得意としていて、二人で一つの戦いをしていた。しかし零夜の前にやられてしまい、彼を倒す為に別の学校で強くなる為に鍛錬をしていた。
事故で異世界転移をしたが、そのお陰で強くなる事が出来た。今では魔術と格闘を駆使するマジカルファイターとなっているのだ。
「兄ちゃん、やっとこの時が来たな」
「ああ、次郎。俺達の力で倒してやろうぜ!」
乗川兄弟は零夜を倒す為に気合を入れていて、この様子に神室は期待の表情をしていた。性格は様々だが、零夜を倒す為に集まった実力者ばかり。これなら心配しなくても大丈夫だと感じているのだ。
「あと一人は?」
「あと一人は偉人なので、こちらです!」
殿町が指差す方を見ると、一人の男が前に出る。彼はロシア人の怪僧であり、その姿を見た神室はすぐにその名前を思い出す。普通の人なら分かりにくいが、神室は偉人を調べているのですぐに分かる事ができるのだ。
「グリゴリー・エフィモヴィチ・ラスプーチン。ロシアのロマノフ王朝の怪僧だな」
「その通りです。以後お見知りおきを」
ラスプーチンは一礼したと同時に後ろに下がり、殿町は神室に対して真剣な表情をする。彼が組んだチームである事に自信があるだけでなく、この戦いこそ自身の進退を賭ける戦いでもあるのだ。
「この八人で俺達は立ち向かいます。我々は最後まで諦めずに戦い抜く事を誓いますので」
殿町は真剣な表情をしながら自らの覚悟を告げ、その様子に神室は納得の表情で頷く。自分がいなくても大丈夫であるのなら、心配はないと考えている。同時に支援をしなくても大丈夫である為、自ら引こうと考えているのだ。
「分かった。なら、其の辺については心配ないな。俺は本部へ戻るが、これだけは言っておく」
「何でしょうか?」
神室からの忠告に殿町が首を傾げる中、神室はギロリとした表情をしながら殿町の方を指差してきた。そのぐらいの事をするとなると、余程重要な事だと言えるだろう。
「お前等では東達には勝てない……奴等を楽に倒せると思ったら大間違いだと思え」
「「「!?」」」
神室の真剣な忠告に殿町達は驚いてしまい、その言葉に何も言い返せずにいた。そのまま神室はその場から転移して去ってしまい、残ったのは殿町率いるデビルキラーズとなった。
(神室さんはああ言っていたけど、俺達には関係ない。やるからには勝つのみだ!)
殿町は心の中で神室の忠告を無視したと同時に、仲間達と共にその場から立ち去る。しかし、その行為で自ら破滅してしまう事を、この時の彼は知らなかったのだった。
全ては次の日。果たしてどうなるのか!?
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